第四十話 裁き、あるいは赦し
謁見の間に、再び、重臣たちが集まっていた。
あの日、王太子復権への意志を初めて公にした時とは、また違う緊張が、そこにはあった。今回は、決意の表明ではない。事件の真相に基づいた、具体的な裁定の場だった。
「――此度の廃太子事件について、調査の結果を、ここに報告する」
アレクシスの声が、静かに、しかしはっきりと響いた。
これまで積み重ねてきた証言、記録、そして関係者それぞれの告白。それらを繋ぎ合わせた真相を、アレクシスは、簡潔に語った。
誰か一人の陰謀ではなかったこと。複数の思惑と、それぞれの正しさが、積み重なった結果であったこと。
謁見の間には、重い沈黙が満ちていた。
「――アシュフォード侯爵、レオンハルト・フォン・アシュフォード」
アレクシスが、その名を呼んだ。
レオンハルトが、静かに前へ進み出た。その表情には、動揺も、怯えもなかった。
「あなたの行動が、当時の事件の引き金となったことは、明らかになっている。状況を、意図的に操作したことも、否定はしないだろう」
「――否定はいたしません」
レオンハルトは、静かに答えた。
「あなたの動機に、国を思う気持ちがあったことも、俺は否定しない。だが」
アレクシスの声が、一段と重みを増した。
「その正しさのために、人の人生を、勝手に使っていい理由には、ならない」
その言葉に、謁見の間の空気が、張り詰めた。
「――ゆえに、アシュフォード侯爵家に対し、以下の処分を下す」
アレクシスは、静かに、しかし明確に告げた。
「一部領地の召し上げ。当主、レオンハルト・フォン・アシュフォードは、伯爵への降格。当主の座は、然るべき後継者へ、速やかに移すこと」
厳しい処分だった。だが、それは、完全な排除ではなかった。
「――あなたの罪は、罪として裁く。だが、国から切り捨てはしない」
アレクシスは、レオンハルトを、まっすぐに見つめた。
「あなたが積み上げてきた、この国のための知見は、これからも、必要とされる場面があるはずだ。責任を取った上で、この国のために、なお働く道は、残されている」
その言葉に、レオンハルトは、しばらく沈黙していた。
完全な服従の姿勢は、最後まで見せなかった。だが、その目には、これまでにない何かが、宿っているようにも見えた。
「――あなたは、私が思っていたよりも、大きくなられたようだ」
皮肉とも、賛辞ともつかない一言を残し、レオンハルトは、深く一礼した。
マリアンヌ、そして王妃セシリアへの対応は、公的な処罰という形は取らなかった。だが、それぞれが、自らのしたことと向き合い続けることそのものが、彼女たちにとっての、静かな裁きになるはずだった。
「――最後に」
アレクシスは、居並ぶ重臣たちに向けて、改めて口を開いた。
「今回の裁定において、俺が大切にしたのは、一つのことだ」
その声には、迷いがなかった。
「敵を排除することが、王の仕事ではない。この国に生きる人々を、これ以上、傷つけないこと。それこそが、王の仕事だと、俺は考える」
その言葉は、これまでのどんな宣言よりも、重く、そして確かな響きを持っていた。
謁見の間を後にしたアレクシスは、静かな疲労と、それを上回る、確かな手応えを感じていた。
事件は、これで、一つの区切りを迎えた。
だが、まだ、残された課題があった。
弟、セドリックとの、本当の意味での和解。
それは、公の場では、決して片付けられない、もっと個人的な、深い場所にある課題だった。




