第三十九話 真相、明らかに
王宮の一室、机の上には、これまで集めた証言と記録が、整然と並べられていた。
「――新しい情報を、探す必要はもうない」
カイルが、静かに言った。
「今あるものを、正しく並べ直せば、見えてくるはずだ」
アレクシスは、頷いた。二人は、これまで集めた一つ一つの断片を、丁寧に照らし合わせ始めた。
「――女官の証言では、『高い身分の方から、口止めをされた』とあった」
アレクシスが、記録の一つを指差した。
「マリアンヌ様の告白では、『レオンハルト卿から、機会があると持ちかけられた』とある」
カイルが、別の紙を取り上げ、続けた。
「――『あの夜、普段は使われない裏門が開いていた』『見慣れない馬車が出入りしていた』という証言もある。これは、レオンハルト自身が言っていた、『状況の一部を、然るべき方向へ整理する手助けをした』という発言と、繋がるな」
一つ一つの点が、線として結ばれていく。
アレクシスとカイルは、時系列を追いながら、あの夜に何が起きたのかを、少しずつ組み立てていった。
レオンハルトが、政治的な判断として、状況を裏で整えたこと。マリアンヌが、その話に乗ってしまったこと。セシリアが、異変に気づきながらも、対応を誤ったこと。セドリック自身は、多くを知らされないまま、結果だけを引き受けさせられたこと。
それぞれの行動は、それぞれの立場から見れば、理解できないものではなかった。国を思う気持ち。息子を思う気持ち。息子を守りたい気持ち。だが、それらが積み重なった結果、取り返しのつかない事件が生まれていた。
アレクシスは、しばらく、並べられた証言の全体を、じっと見つめていた。
「――誰か一人が、俺を陥れようとしたわけじゃない」
静かに、そう言葉にした。
「みんなが、それぞれの立場で、それぞれの正しさを、選んだだけだ。それが、重なってしまった」
カイルは、その結論に、重く頷いた。
「――厄介な話だな。誰か一人を裁けば済むなら、まだ簡単だったんだが」
「ああ」
アレクシスは、静かに頷いた。
そして、その真相の中に、自分自身の姿も、はっきりと位置づけていた。
当時の自分は、理想に偏りすぎていた。周囲の異変に、気づくことができなかった。母が守ろうとしていた「完璧な王太子」の姿を、自分自身も、疑うことなく演じ続けていた。
この事件は、誰か一人の陰謀ではない。自分自身の未熟さもまた、その一部だった。
その自覚は、痛みを伴うものだった。だが、目を逸らさずにいられることが、市井で過ごした日々の、確かな証だとも感じていた。
「――さて」
カイルが、書類を整理しながら、口を開いた。
「真相が見えた。次は、これを、どうするかだ」
その言葉に、アレクシスの表情が、静かに引き締まった。
誰を、どう裁くのか。あるいは、どう赦すのか。
真相が明らかになった今、次に待っているのは、王としての、最も重い決断だった。
窓の外、王宮の空は、静かに夕暮れを迎えようとしていた。




