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【完結】悪役令嬢の役立たずスキルで、婚約破棄された王子様を拾いました  作者: ましろゆきな
第三部:名前を、選び直す季節 

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第二十四話 弟との距離

 王宮の一角、静かな中庭で、アレクシスはセドリックと向き合っていた。


 供の者は、最小限しかいない。二人だけで話す機会を、アレクシスが望んだ結果だった。


「――兄上が、ご無事で……本当に、何よりです」


 セドリックは、深く頭を下げた。言葉遣いは、礼を尽くしたものだった。だが、その声には、どこか硬さが残っていた。


「久しいな、セドリック」


 アレクシスは、努めて柔らかい声で応じた。だが、目の前の弟の様子には、以前とは違う何かがあった。


 かつては、もう少し気安く言葉を交わせたはずだった。それが今は、互いの間に、見えない壁があるかのように感じられる。


「市井で、しばらく過ごしていたと聞きました」


「ああ。荷運びの仕事をしていた。剣を握るより、よほど堪えた」


 軽い調子でそう言ってみたが、セドリックの表情は、あまり緩まなかった。


「――変わった生き方を、選ばれたのですね」


 その一言には、何か含みがあるようだった。だが、それが何なのか、アレクシスにはうまく読み取れなかった。


 セドリックの内心では、複数の感情が、静かにせめぎ合っていた。


 兄が、無事に戻ってきたこと自体は、素直に安堵していた。兄を憎んでいたわけではない。ただ、廃太子事件によって、望んでもいなかった立場を手にしてしまった自分に、これまでずっと戸惑いを抱え続けてきた。


 その戸惑いが、兄の帰還によって、また揺さぶられていた。


 ――兄上が戻れば、また、自分は「控え」に戻るのだろうか。


 そう思う自分を、セドリックは恥じてもいた。だが、その感情を、簡単に手放すことはできなかった。


「セドリック、今後のことだが」


 アレクシスは、率直に切り出そうとした。廃太子事件の真相、これからの自分の意志、王宮内の今後について、腹を割って話したいという思いがあった。


 だが、セドリックは、その話題に踏み込む前に、静かに視線を逸らした。


「――申し訳ありません、兄上。今日は、他にも予定がありまして」


 その言い方には、明らかな回避の色があった。アレクシスは、それ以上、無理に踏み込まないことを選んだ。


「――分かった。また、日を改めよう」


「はい」


 セドリックは、丁寧に一礼し、踵を返した。


 だが、数歩進んだところで、ふと足を止めた。振り返らないまま、独り言のように、小さく呟いた。


「――兄上は、変わられましたね」


 その声には、羨望とも、恐れともつかない、複雑な響きがあった。


 アレクシスが何か返そうとしたときには、セドリックはもう、庭を後にしていた。


 一人残されたアレクシスは、しばらくその場に立ち尽くしていた。


 弟との間に、確かに何かが変わってしまっている。それは、はっきりと感じられた。だが、その正体が何なのか、まだアレクシスには掴めなかった。


 かつて、弟として見ていたはずの相手。だが、今のセドリックの奥には、自分の知らない何かが、静かに横たわっているように思えた。


 その距離を、どう埋めればいいのか。


 答えの出ないまま、アレクシスは、静かな中庭に、一人立ち続けていた。

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