↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】悪役令嬢の役立たずスキルで、婚約破棄された王子様を拾いました  作者: ましろゆきな
第二部:名前で生きる季節 

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
14/49

第十四話 必要とされる、その先

「隣町でも、噂になってるらしいよ。この薬屋に、腕のいい娘がいるって」


 行商人の一人が、そう言って笑った。リリアーナは、少し照れくさそうに肩をすくめた。


 最初は、町の中だけの評判だった。それが、行商人の口を伝って、隣町、さらにその先へと、少しずつ広がっているらしい。


 そんなある日、店先に、見慣れない旅装の女性が訪ねてきた。


「あの……ここに、薬草に詳しい方がいると聞いて」


 女性の顔には、深い疲労と不安が刻まれていた。連れてきた幼い子供が、青白い顔で、力なく母親にもたれかかっている。


「息子が、もう何日も、食事を受けつけなくて……近くの医者にも診せたんですが、良くならなくて」


 リリアーナは、一瞬、体が強張るのを感じた。


 これまで対応してきたのは、風邪や擦り傷といった、日常の延長にある困りごとだった。だが、目の前の子供の様子は、それよりも明らかに重い。自分の知識で、本当に対応できるのか。


 迷いが、胸をよぎった。


 それでも、リリアーナは子供の傍らに膝をつき、顔色、呼吸、体の火照り具合を、一つひとつ丁寧に確かめていった。


 医術の専門家ではない。だが、これまで積み重ねてきた薬草の知識と、この町で培った実務の勘が、静かに働き始めていた。《価値鑑定》では測れない、経験そのものの力だった。


「――少し、胃が弱っているみたいです。無理に食べさせようとするのではなく、まずはこちらを」


 消化を助ける薬草を選び、丁寧に煎じ方を説明していく。完治を約束できるものではない。それでも、今できる最善の道筋を、リリアーナは示した。


 数日後、再びその母親が店を訪れた。


「――良くなりました。少しずつですが、食べられるようになって」


 女性は、涙ぐみながら何度も頭を下げた。


「本当に、ありがとうございました。あなたのおかげです」


 その言葉に、リリアーナは、しばらく声が出なかった。


 「役に立たない」と言われ続けてきた自分が、今、誰かの深刻な悩みに、正面から向き合い、応えることができた。過去の評価が、初めてはっきりと、遠い昔のことのように感じられた。


 その夜、薬屋の店主が、少し複雑な顔で口を開いた。


「腕を認められるのは、いいことだ。だがな、リリアーナ。あんまり評判が広がりすぎるのも、考えものだよ」


「――どういうことですか」


「目立てば、それだけ厄介事も呼び込みやすくなる。妙な輩に目をつけられたり、変な期待を寄せられたりな」


 その忠告に、リリアーナは複雑な気持ちを抱いた。困っている人を、無下にはできない。それでも、店主の懸念にも、うなずける部分があった。


 同じ夜、アレクシスにその話をすると、彼もまた、静かに考え込んだ。


「……人の口に戸は立てられない。噂は、思っている以上に速く、遠くまで届く」


 その言い方に、リリアーナはふと、13話で聞いた噂のことを思い出した。荷運びの「兄ちゃん」が只者ではないらしい、という声。二人とも、それぞれの形で、少しずつ注目を集め始めている。


「怖い、というほどではないの。でも――」


「分かる。俺も、同じことを感じている」


 二人は、しばらく黙り込んだ。


 誰かに必要とされることは、嬉しい。だが、必要とされすぎることには、まだ知らない危うさが潜んでいるのかもしれない。


 窓の外、町の灯りは、いつも通り穏やかに揺れていた。


 それでも、その灯りの向こうから、何かがゆっくりと近づいてきているような気配を、二人はどこかで感じ始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。