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松田班長の名物営内放送

 7月某日。


「達する…未だに規則を守れないアホがいて、それを注意しないアホども。お前達は以後当分の間タバコ、ジュース、お菓子、携帯電話の使用を禁ずる。お前達アホどもには営内において水のみを許可する。心で理解せよ!ボケェェェ!!」


松田班長のマイク放送が営内にこだまする。


懲りずにルールを破る馬鹿な学生。正直言って我々海上自衛隊練習員の同期の人間性に関しては平均的に質が低い。入隊して3カ月目に突入しても隠れて規則時間以外でタバコを吸ったりなどルール違反をする者がゼロにはならなかった。昔やんちゃしていた奴でも器用な奴は上手いこと場を切り抜けたりするものだが、そうでもないやつは直ぐに班長達に見つかる。さすがに同期にも注意されるのだが、喧嘩になることもあった。


僕と同じく1班の河田が原因でよく班全員で連帯責任を負わされたが、冒頭の松田班長のマイクのように同期全員が罰を負うこともあった。


ある時河田に対して我慢の限界に達した1班の伍長(班のリーダー)が河田に対して殴る蹴るの暴行を一方的に与えた。気づいた他の同期が止めに入ったが、河田はボコボコにされており怪我をしていた。さすがに怪我が班長達にばれると非常にマズイのだが、それが公になることはなくイジメのような状況が生まれることもなかったことは幸運である。


河田は教育隊こそ終業して部隊に配属されたが、すぐに自衛隊を辞めて飲食店で働きだしたらしい。

なんというかこれだけ辛い教育隊をくぐり抜けても部隊ですぐに辞めるのはもったいないことこの上なく感じるものだ。父親が陸上自衛官、義母は海上自衛官という自衛官一家であったのに当の本人はすぐに辞めてしまうという結末。河田以外にも同期全体を見渡せば各班に1人か2人は問題児がいる。だいたい各班に13~15人ほどいるが1割が一言でいうヤバイ奴。

また、やばくないないものの20歳未満でありながら喫煙者はだいたい30%ほど。趣味パチンコなど大勢いたものだ。健全ではないけれどヤンチャくれが多いのは想像がつくと思う。河田も例外なくその人間。



河田は教育隊で自衛隊を辞めなかったが、74人いた同期は終業式までに8人辞めて66人になっている。他の分隊の練習員では教育隊敷地から脱走して翌日に班長たちに捕まり、後日辞めた者もいる。着隊した当日に同じ部屋の同期と殴り合いの喧嘩をして当日に辞めさせられた者もいた。(宣誓書にサインしていないから正確には自衛官になっていないが…)


というわけでなかなかな問題児が、ある一定数いたわけだが、終業時はみんな見違えるように品位を保っていた。教育隊はもちろんのこと部隊にいくと分かるのだが、やはり上下関係がとにかく厳しい。会社員での上下関係、その他公務員での上下関係、すべてに厳しさはあるのだが、やはり海上自衛隊は一層厳しく思う。まあ国防を担っているのに命令違反等は有り得ないわけだから仕方ない。



ちなみに僕は3年間で任期を全うして退職した。(海上自衛隊と航空自衛隊は3年1任期、陸上自衛隊は1任期2年)当時103万円の任期満了金をもらえるので非常にありがたい。しかしその3年間で同期は半分が辞めている。共に任期を全うして一緒に辞めた者もたくさんいたが…。それだけ海上自衛隊の練習員は離職率が高かった、現在はかなりマシになっていると聞いたが…。


 で、冒頭にもあった松田班長の営内マイクだが、7月にもなると完全に名物と化していた。本人曰く楽しんでやっていたとのことだった。

 例えばこんなものもあった。


「達する…4班中田ぁぁぁ!分かってんだろうなぁお前!!!

15000円だぁぁ!早く持ってこいボケぇ!!プロテイン捨てるぞマヌケ!!」


っていうものあった。班長が意味不明の15000円を中田に持ってこさせるという営内放送。同期全員大爆笑だ。意味がわからないが教官室に走る中田の姿を見て腹を抱えて笑ったものだ。



読者の方で今まで体育会系と縁のない方はこれらの私のエッセイを見て度肝を抜いたかもしれない。


一般社会から隔離された自衛隊敷地内ではオリジナリティすぎる雰囲気が辺りを包んでおり、そこには怖さもあれば笑いもある確率された上下関係と共に国防を担う情熱がほどばしっているのである。同期内では喧嘩もある。多少なりともイジメもあったし、止めようとして更に喧嘩になったりもした。やんちゃくれな若者を指導するヤクザ顔負けの班長たち…。国を強くするためには徴兵制も悪くないのかもしれない。




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