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イレギュラー連続発生。同期の中田伝説。

 新たな登場人物

同期 中田(22歳)4班

   同期で1番の怪力。ボディビル経験者、そして1番の天然キャラ。

班長 坂下

   厳しさとともにユーモアも天賦の才を持つ。

 

 応用力、想定にないイレギュラーが発生した時に対応する対処能力というのは自衛官たるもの当然持っていなければならない。社会人としてはどの業界でも必要なことかもしれないが、いわゆる仕事ができるとされる人物はその能力が高いものだ。


 そして、この教育隊でも想定外のイレギュラーが発生するのは、学生たちを試すという意味でも頻繁に発生する。それを起こすのはもちろん班長達で楽しんでやっている。不器用や鈍感な者は容赦なく罰則が課されるのだ。


 ここで色んな意味でイレギュラーが発生した事例を紹介しよう。


 5月某日。


午前の課業が終了し、同期のみんな全員で食堂で昼食を楽しむ。訓練で身体を動かしているしみんな若いのでよく食べる。


そして、自由時間を少しでも確保するためにみんな早食いとなる。ちなみに自衛官でゆっくり食べる人はほとんどいない。いるとは思うがかなりの少数派だ。


 それはさておき、隊舎に駆け足で戻ると(屋外では3歩以上は駆け足)みんな、歯磨きの後にアイロンや靴磨きに勤しむ。それで午後からの課業に備えるのだ。


しかし今回は休憩中に班長により営内放送が入る。


「達する…学生はただちに隊舎前に集合。繰り返す学生はただちに隊舎前に集合、以上!」


またイレギュラーだ。しかしみんなもう慣れている。


課業時間まであと15分はある。歯磨きしている者なども、すべてを取りやめて走って隊舎前に集合する。遅れてくる者も何人かいるが放送が入って3分以内には全員集合完了となっていたはずだった。


しかしまたイレギュラーが発生する。


点呼しても1人足りない…。


班長達がぞろぞろと隊舎前にやってくる。その顔つきはすでに闘志を抱いたような戦士の顔つきだ。

みんな整列完了した状態で学生長が人員報告する。総員○○名、事故1名…現在員○○名…。想定外の事故1名でなぜいないのかがわからない。そのイレギュラーで報告する学生長は戸惑う。


午後の訓練を仕切る坂下班長が声を出す。


「誰がいない!どうゆうことだコラァ!」


「4班の中田がいません。」

同期の誰かが声を上げた。


4班の中田がいないのだ。揃っていないためこの後は間違いなく連帯責任で罰則がある。坂下班長が指揮だから間違いなく筋トレ系の体力錬成だ。


こうゆう集合時間が急遽早くなることはしょっちゅうだ。だいたいがトイレで遅くなったとか、アイロン中だとかである。しかしみんな1~2分ばかりの遅れで集合は完了する。しかしもうすでに人員報告から3分以上経過している。イレギュラーだ。班長は明らかにイラついている。4班班長の松田班長だけニヤニヤしていた。


 その荒んだ空気を切り裂くように隊舎から1人の男が全力疾走でこちらに駆け出してきた。スプリンターのような走り方だった。その男の身体は筋骨隆々で身体が大きく野生味のある3枚目顔である。男の名前は中田という怪力男だ。なんでも海上自衛隊に入るまでは定職に就くわけでもなくボディビルの大会に頻繁に出ていたらしい。当然ボディビルで食べていけるわけもなくフリーターをやめて海上自衛隊に志願したとのことだった。もちろん普段から筋トレに勤しんでいる。


 ハアハアと言いながら隊列に加わり。中田が声を張り出す。

「遅れて申し訳ありませんでした!」


「班長の俺らより遅いとはどういうことじゃお前。何で遅れたか理由をゆえや!」


このあと全員で罰則があることは間違いない。おそらくトイレとかで遅くなったのだと思うから同期全員中田を恨むことはない。


しかしまたもやイレギュラーが発生する。


「はい!プロテインを作成中にこぼしてしまいました。申し訳ありません!」


(はっ!?何言ってんだこいつ)

班長方も茫然として返答できないでいた。


「何訳の分からん事言うとんじゃ!俺はなんで遅れたかって聞いとんじゃーーこらぁ!」


「は、はいっ。そ、そのプロテインを飲むのに時間がかかりました。すいません!」

(どうゆうこと?)


みんな中田の発言の意味がわからくてポカンとしている。班長達も同じだった。

しかしよくみると松田班長だけが爆笑していた。


「お前はプロテインを飲んだから遅れた。そうゆうことで間違いないんか!?」


「はい、合ってます!」

(アホかこいつ…)


「俺はさっき営内放送を入れてからお前が来るまでに5~6分は経っている。それがプロテインを飲んでいたからってゆう理由でここまで遅くなったゆうことで間違いないんか!」


「はい、不器用ですいません。」

(こいつ…そもそもお腹痛くてトイレ行ってましたとか嘘でもいいから言うとけよ!?)


「このボケぇぇぇ!お前のとる行動が全員に迷惑がかかるとなぜわからんのじゃあ!1人の行動で部隊全体が死ぬ可能性もあるんやぞ!規律とプロテインどっちが大事なんじゃあ!」


怒る坂下班長…至極もっともな事を言っている。その後ろで松田班長はずっと笑っている。

沈黙が流れる…。


「どっちが大事なんじゃ!言ってみろや!」

なぜかいちいち聞き返した。プロテインと答えるアホがいるわけがない。


「プロテインです。」

(はあっ?えっ今プロテインって言った?)


イレギュラーすぎた。全員唖然茫然としている。班長達も松田班長以外空いた口が塞がらない。

なぜか中田は真剣な表情で坂下班長を見つめていた。

はっきり言ってイカれている。空気が読めないレベルではない。


「お、お、お前おま…」

イレギュラー過ぎてどもってしまう班長。


「プロテインです!!」

さっきより大きな声で中田がもう一度言った。

(なんでもう一回言うの…)


中田は天然とは聞いていたけど思っていた100倍やばかった!


班長に喧嘩を売っているような空気感が張り詰める。灼熱の怒りの嵐の予兆だ。


「中田以外全員腕立て伏せの姿勢をとれ!」


来た!


中田以外全員腕立て伏せの姿勢をとる。


「中田!!お前は不動の姿勢でいろ!そのままみんな腕立てしてんのを見とけ!!」


「回数無制限!腕立てはじめ!」


「1、2、3……」


みんな号令に合わせて一斉に腕立てをする。今回の罰則はきつくなる。それは覚悟していた。全員が中田に怒りを感じていた。

あいつはなんであんなにアホなんだと…。

こんなシーンが映画フルメタルジャケットであったが、まさか自分たちが同じ目にあうとは…。


みんな腕立て伏せをしている時に中田は気を付けの姿勢のまま表情を崩さない。真っ直ぐ前を見ている。


頭の中で何を思うのだろうか。心境を知りたい。


腕立てを何回したかは覚えていない。しかし想像を絶する以上に長く続き腕がパンパンで動かなくなっていたのは覚えている。


その後の訓練は身体が鉛のように重く辛かった。この天然名物中田の所業により地獄の訓練となってしまったのだった。



そして、隊舎に戻ってから多数の同期が中田に敵意をむける。


いじめでも始まる雰囲気が出ていたが、なにぶん中田は同期1の怪力で筋骨隆々だ。何を考えているのかもよくわからない怖さもある。よっていじめみたいなことが起こることはなかった。


僕と中田は同い年で、話すことも何度かあった。教育隊の終業前にあのプロテイン事件について聞いたことがある。


「てか、お前さぁ。なんであの時、規律かプロテインどっちが大事って聞かれてプロテインて答えたん?」


「あぁそれな。あの時、実は考え事していて班長の話聞いてなかってん。で、あれ、今なんて質問されたんやろってなって…なんかとプロテインって…で、プロテインはやっぱり俺の中でマストやからプロテインって答えてんけど、後で質問が規律とプロテインの2択やったの知ってん。あの時はホンマにごめんやで。」


やっぱりこいつはアホである。愛すべきアホキャラとも言える。そもそも怒られてる時に班長の話を聞いていないとかヤバすぎる。しかも何を質問されたかわからない状態でプロテインと答える中田の勘違いさ加減も常軌を逸しているが、どうも憎めないやつだった。


中田は食後に絶対にプロテインを摂取するのが習慣だった。営内放送の時に焦ってプロテインをこぼしてしまい、とりあえず掃除したのだが、その後、是が非でもプロテイン摂取を取りやめることはできなかった。筋肉合成のために!そういった経緯で遅れてしまったのである。


アホだけど憎めないキャラの中田。今どうしているだろうか。


規律とプロテインでプロテインを選択しプロテインが大事だと答えてしまった中田。


もはや伝説である。


続く…。



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