海上自衛隊教育隊名物 “台風”
5月某日。
生活や訓練に慣れてきたところで、必ず来ると言われる名物がある。
台風…
はて?何?
生活において自分の部屋の整理整頓やベッドメイクは完璧である、と自負していた。
部屋の全員が自覚していたと思う。ただ、躾と称して部屋に台風がやってくるらしいのだ。
営内放送で松田班長が喋る。
「達する…。お前達は生活に慣れてきて気のゆるみが生じてきている。自分で完璧などと思わず謙虚に生きろ。本日台風が来る。お前らの気のゆるみを台風が吹き飛ばしてくれることだろう。感謝せよ!!」
ゆっくりとドスの利いた声が静寂の支配する営内に響き渡った。
意味がわからなかった。
みんなして「台風ってどゆこと?」
と首を傾げるばかり。
午前の訓練を終えて営内に帰ってくるとその理由が判明する。
部屋がめちゃくちゃに荒らされている。布団、シーツ、ロッカーの中の所持品が全員床にばら撒かれている。酷いのではロッカーごと倒されていた。
しかも同期全員である。
もちろん、犯人は班長達だ。
各部屋で激しい雄たけびがこだまする。
いや、悲しげな絶叫というべきか。
ひどいありさまだ。これが躾なのか。意味があるのか理解できなかった。
現代なら完全にパワーハラスメントにひっかかる内容だと考えられるが、当時の海上自衛隊の教育隊では慣行事例ともいうべき指導であった。
シーツが悪意をもってねじられていたりするので、しわを伸ばすのにまた一苦労があるわけだ。
物品愛護もくそもない!なぜこんな悪習が海上自衛隊発足から続いているのかがわからなかった。
罰などは体力錬成が適当だとは現在も思っている。心身を鍛えるという意味で意味がある。
気のゆるみはたしかにあったとは思うが、やる気が台風で出るわけがない。
しかもこの台風…
当時のメモを見ると3回はあったようだ…教育期間の4ヶ月の間に。
班長達も綺麗に整頓されている部屋には弱い台風。できていないところにはスーパー暴風台風が来るという設定にしていたらしい。
本当につくづく厳しいところだったと思い出す。
教育隊での最終台風は6月15日…。
その前日の夜にまたまた松田班長が不気味な低い声で営内放送を入れていた。
「達する…。6月になってもルールを守れないアホがいる。そのアホを野放しにてしている奴らも平等にアホである。お前らはいつになったら海上自衛官として誇りを持てるようになるんだ?ああぁ?!…。そんな甘い考えのアホどもには必ず罰が下るであろう。罰を下すのは俺ではない。俺じゃあない!!
あっ、そうそう明日台風来るらしいぞ、超強力な台風らしい…。甘い考えのお前らアホどもには素敵な風を提供してくれるだろう。楽しみにしておけ、フン!」
翌日昼どき、部屋の中は宣言どおりとなる。徹底的に部屋を荒らされる。
もうええって!
班長達もストレス発散で楽しんでたりして。
続く…。




