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制服はセーラ服、初めての外出

登場人物はみんな仮名です。

新たな登場人物


才谷分隊士(年齢40歳前後の1番怖い教官であり士官(班長より上のクラスに該当する指導者))

 4月7日 入隊式 


桜はまだ咲いており、風とともに花びらが紙吹雪のように散ってゆく。


舞鶴教育隊に着隊してから早2週間が過ぎた。訓練礼式(敬礼、気を付け、休め、右へならえ等)、分隊行進訓練、体力錬成、そして君が代をバカでかい声で何十回も歌わされる。そんな日々も入隊式以後は本格的な海上自衛隊の訓練に移る。


 海上自衛隊の水兵(入隊後の階級は2等海士で1等海士、海士長と階級は上がっていく)の制服はセーラー服である。もちろんスカートじゃなくズボンであるが…。曹候補学生は学ランであるが、曹候補士、練習員で入隊したものは全員セーラー服を着用する。入隊式はみな制服を着用して臨む。あれだけのセーラー服を着た男たちが集まるのは海上自衛隊以外存在しない。なお練習員の同期は140名(計2分隊)ほどいて、私が在隊した41分隊は私も含めて74人の同期がいた。


 なお、保護者の参列も認められており、私も母親が来てくれて、息子の晴れ姿をどのように感じていたかは定かではないが、立派にみえたことと思っている。保護者が来ていない同期もたくさんいたが…。


入隊式で改めて全員が自衛官として宣誓をする。そして教育隊司令(校長先生的なポジション)の長い話がダラダラと続き、君が代やら海上自衛隊の歌などを歌わされて入隊式は終わる。


 その後、学生全員保護者と共に食堂で昼食をとり、歓談して娑婆に戻った気分を味わった。


保護者たちは別れの言葉を交わし去っていく。


そして…


本当の地獄の始まりを予感させることが、昼からの訓練で班長達により明らかにされる。


昼過ぎ。


学生全員が活動服に着替えて屋外隊舎前に集合し、【気を付け】の姿勢で班長達の言葉を待つ。


「おい、お前ら良かったなぁ」


「………(何が?)」

学生たちは沈黙を保つ。


「とうとうお前らはさきほど宣誓を認められ、海上自衛官として誇りをもつことができる。つまり俺たちもお前らに対してお客様扱いしていたが、それからも解放された。これからは徹底的に厳しく行くぞ!わかったかぁ!!。」


「はいっ!!!。」

(お客様扱い?今までが?お客様扱いで殴るわけないやろ…)

学生たちの緊張感がさらに増して張り詰めた空気が隊舎前を支配した。


たしかに入隊式以後は厳しさが増した。


嘘ではなかった。


たとえば、ベッドメイクや掃除、アイロン、靴磨きに不備があるとたちまち連帯責任で腕立て伏せなどの隊力錬成が開始させられるし、挨拶の声が小さいとか、行進の乱れなど些細なことでも体力錬成の対象となる。身体を鍛えるМ気質な者はいいかもしれないが私にはかなり辛かった。特に不備がひどい場合は蹴られたり頭を小突かれるなども日常茶飯事であった。


アホ、ボケ、カスとかクソガキなどの暴言もあったが、たまに「死ね!」などという子供じみた発言もする班長もいた。今思う班長たちの柄の悪さや風貌は暴力団みたいな感じがしたもんだ…。


しかし私たちの心身を鍛えようとする愛は、たまに垣間見えたのは事実である。


一番怖かったのは班長ではなく幹部教官である通称分隊士αと呼称される才谷分隊士である。

班長達は幹部ではなく海曹と言われる立場である。学生達は海士。班長達は海曹。分隊士はいわゆる幹部士官である。


この才谷分隊士だが、あまり暴言などは言わない。それに口数自体も少ない。身体が大きいわけでもない。当時40歳前後だったと記憶している。


なにがそんなに怖いのか…


まず目である。


眼鏡をかけたその奥にある両眼はとてつもなく強いオーラを放っている。


そして声。


猛々しくて太い通る声。活舌はよくて聞き取りやすい。

文章では伝えにくいが声からも恐怖感を醸し出すのだ。


そしてこの人は学生に対して「お前」とは言わない。


「貴様」という。


最初聞いた時は(えっ、貴様?男塾の世界やん!)ってなもんである。


分隊士は暴力は振るわない。しかし男たるもの体力が無くてなんとする!というような考え方であり、や

たらと体力錬成をさせてくるのだ。

間違ってはいないので一切否定しない。

教育隊生活が終盤になると、この才谷分隊士の恐怖がまさかの格好良さに変わって見えていくのだから人間というのは不思議な感覚を携えているものだ。


この才谷分隊士の吐いた言葉で印象に残っている言葉がある。


「男とは仕事である。」

この短い言葉だ。


色んな意味がこもっているのだろうが、簡潔でわかりやすい。今でも忘れることのない言葉だ。



そして入隊式から二日後の4月9日(土曜日)。

とうとう外出が許可されるようになった。


舞鶴教育隊に来てから2週間、一歩も敷地外に出ていない。


ようやく


ようやくである。


午前8時半…隊舎外にセーラ服の学生全員が並ぶ。外出は制服であるセーラー服だ。


しかし、みんな全員娑婆に出られることに興奮を隠せない。


だが…落胆させられるお言葉が班長達から通達されてしまう。


「ただいまより上陸(外出)が許可される。帰艦(帰隊)時刻はヒトゴーマルマル(15:00のこと)、指導時刻ヒトヨンサンマル(14:30のこと)」


(はっ?15時?そんなに早く帰ってこないとだめなんか!幼稚園児やないか…)


早すぎる帰宅時間だ。実際問題は指導時刻までに教官室に入って帰ったことを伝えなければならないから、14:15には教育隊の門を通過しなければならない。


指導時刻を遅れると凄まじい罰則が待っているのは覚悟しなければならない。


ちなみに練習員のみがその時間であり。曹候補士は指導時刻17時半。曹候補学生に至っては19時半だった。差が激しい。


初めての外出。


これはよく覚えている。同期数人とともに喫茶店に入った。


そこで私はビールとクリームパフェを注文した。なんでその組み合わせを選んだかは覚えていない。

しかし、世界一といっても過言ではない美味さを痛感したことは記憶している。しかもセーラ服姿で!


舞鶴市民以外の者からしたら、驚嘆するべき絵面であろう。

だって、若い男がセーラ服でビールとクリームパフェを注文して、食べ飲みしながら死ぬほど美味しそうな顔でうっとりしているのだ。

やばい奴がいる!。

と自衛隊と縁がない街では、皆このような感想をもつのではないだろうか。


世界で1番喫茶店を満喫したあとはショッピングセンターへと向かう(なんというショッピングセンターだったかは覚えていない)。


安い日用品を大量に買い込む。パンツやシャツ(丸首)などの下着は全部真っ白のを選ぶ。白と決まりがあるからだ。そしてこの白しか認めれていないパンツが原因で教育隊生活に大きな災いを生んでしまうのだ。


それはまた次回の話としよう。


続く…。



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