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連帯責任で恐怖のビンタ乱舞。えっ?たったそれだけの理由でですか!?

登場人物はすべて仮名です。

私(坂本)


部屋の同期たち

・河田18歳

・中松19歳

・根尾21歳

・上村22歳

・萩岡18歳


一班班長

・高山(後ほど、鬼の高山と呼ばれる教育隊で2番目に怖い班長)

 200Ⅹ年。当時就職氷河期と言われた時代である。


海上自衛隊には採用(入隊)の方法が何通りもある。(陸と空もほとんど同じだと思うが…)


幹部候補生としての入隊。当時一般採用枠としては曹候補学生、曹候補士、そして練習員(任期制)という私が入隊したパターンがあった。


他にも航空学生や自衛隊生徒、技術海曹という特殊な採用パターンもある。ちなみに現在は採用方法も色々変わっており、年齢枠なども上がっているみたいだ。


私が入隊した練習員という採用枠はいわゆる一番入りやすい枠で3年の任期制になる。採用倍率は当然断トツで1番低い。


で、それが何を意味するかというと入隊する新隊員の平均的な質が1番低いという意味でもある。


当時入隊するまでにそれなりにやんちゃしていたような不良も4人に1人ぐらいいたと思う。


私が練習員課程として入隊したのは3月25日。曹候補士が27日、曹候補学生(一般枠では1番採用倍率が高い)はその翌日くらいの入隊だったと思う。練習員、曹候補士、曹候補学生のすべての学生の入隊式(家族も参加する)は同じ4月7日である。


なぜ練習員は入隊日が早いのか。


その答えは人間性やモラル、社会性の質の低さにあったようだ。やはり1番問題を起こすのは練習員が多いとされたために、より多くの躾が必要とされたらしい。(まあ、当時の同期たちをみると納得したものです)


とにかく最初の1週間で生活の躾及び指導の徹底、訓練礼式などの隊行動を何十回もさせられる。訓練中では常に真剣な顔つきでみんな嵐の如く大きな声を出す。班長達が怖すぎるから皆必死だ。



そして1週間経って4月になっても外出など一切できなかった。もう既にストレスはかなり身体を蝕んでるような感覚になる。


シャバの空気が吸いたかった。心の奥底から溢れ出る欲求だ。


(ちなみに海上自衛隊では勤務地以外のことをシャバといった。)


で、入隊日にはみんな別人のように変貌を遂げているのだ。娑婆っ気は完全に抜けて姿勢から歩き方からして美しさが滲み出るのだ。


アイロン、靴磨き、ベッドメイクなんてものは段違いでスピードアップして綺麗にこなせるようになる。そもそも上達のスピードの要因は厳しい班長達の指導があり恐怖で支配されていたためである。


体罰に関して言えば入隊式前に部屋の同期、私を含めて6人が全員が震えあがった時がある。

ほんとに些細なことだった。今でも鮮明に覚えている。


その経緯はこうだ。


夜の甲板掃除を終えると巡検(20時ぐらいだったと記憶している)というものがある。宿直の班長が各部屋と学生達(新隊員)を点検していく。学生達はもちろん整列しており班長が近づくと【気を付け】の姿勢となる。自衛隊では不動の姿勢と言われる。

我が1班の高山班長が宿直で巡検者であった。私の部屋に入ってくると立ち止まって、ある一点を集中している。その形相はいつも般若のような顔だが、今回はさらに化物じめいていた。6人の学生の内、1人の洗面器の位置が違っていた。というのも、ベッドメイクから掛ふとんのたたみ方、枕や洗面器の位置が所定の位置と決まりがある。その1人の洗面器の位置の違いで恐怖の時間が部屋を支配するのだ。6人全員【気を付け】の姿勢のまま連帯責任で平手のビンタが飛んでいく。


「なめやがってこらぁぁー!!」

(決してなめてませーん!である)

班長はかなり手に力を入れており顔面が叩かれた方向へ瞬時に向きを変える。傍からみれば残像が眼に飛び込んでくるようだ。


「お前ら誰もこのミスに気づかんかったんか!お前らはもう自衛官なんやぞ、誇りを持たんかい!同期で確認し合え!分かったかぁ!」


まだ殴られそうだった。


しかし…


全員の顔を約10センチほどの至近距離で睨みつけられた後に部屋を出ていく班長。

鬼が魔界に帰っていくようでもある。私全員どっと汗が全身から吹き出しそうだった。


みんな痛くて怖い思いをしたが、圧倒的に精神的ショックを受けている同期がいる。洗面器の位置が違っていた同期の河田だ。18歳で一番不器用といえる性格、背が低くてヤンチャくれな奴だ。


「みんなごめん…」

ぼそりと河田がつぶやいた。


「まあ、気づかんかった俺らも悪いし…みんなで注意して確認していこうや。」

部屋の6人では最年長の私(坂本22歳)がみんなに呼びかけた。


「あぁ~死ぬほど怖かったな。顔がまだ痛い…」

高校で留年した経歴を持つ19歳で一番の巨体である中松が頬をさすりながら呟いた。


「班長って人殺したことあるんちゃう?あの眼光は絶対ヤバい人ですよ。ちょっと小便ちびりそうやっすもん」

21歳のアイドルおたくの根尾が縁起でもなく言うと…


私と同じく最年長22歳の上村が

「いやいや、昔からボクシングやってるとかで、かなり強い選手やったとか噂になってるで。こないだ当直室でシャドーボクシングしてたとかなんとか…」

となぜか半分ガセっぽい情報を引き出してきた。


「だからあんな眼つきが出来んるんですかね…、いつも顔怒ってる感じやし。あんな一列に並んでみんなビンタされて顔吹き飛んでいくとか、僕生まれてはじめてですよ!。」

18歳の萩岡が話すと、まだ涙目が続いているのが見てとれた。



そりゃみんなそうやろ!っと笑みがこぼれて部屋の空気は明るくなっていく。

「なめやがってっていうセリフ…ビーバップハイスクール感やんか、さてはヤンキーやヤクザ映画が好きでセリフを練習してたりして…」


子供心でみんな笑いあう。そうして受けた痛みを和らげていくのだ。


痛みなんてものはフィジカルでもメンタルでも同期と分かち合う。そんなテリトリーがこの教育隊ではたしかに存在していたのである。



悲しみは1人で背負わない!同期の絆は育んで芽を出していく。


巡検が終わってから消灯までは1時間半ほど時間がある。アイロンを終わらせれば自由時間だが、教務や訓練の復習をするためにあっという間に22時の消灯となるのだ。みんな明日からも頑張ろうと決意して就寝するであった。


続く…






令和の現在では自衛隊、警察、消防すべての組織で体罰は厳格に禁止されている。

しかし平成の半ば、海上自衛隊ではそこそこ体罰は横行していたのを私は目撃している。


ただ、言いたいのは今が良い時代になったとは決して思わないこと。体罰は時に必要であると感じる時があるからだ。体罰だろうと指導される側の成長に繋がるのなら、それは否定するべきではないとの私の意見であります。

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