白蛇の思惑
「いつから気付いておられました?」
アケの瞳が縦長に変わる。
白い肌に切れ目が走り鱗に変わり、割れた口から覗く舌が炎のように赤く、二股に分かれる。
「変装と演技には定評があったのに」
「どこの界隈でだ」
ツキは、黄金の双眸をきつく細める。
「匂いだ」
ツキは、鼻に皺を寄せる。
「艶やかな香りの奥に隠れた生臭さ。あの頃と変わらん」
「相変わらず鼻がよろしいことで」
女……白蛇は呆れたように言い、自分の身体を見る。
「この身体……良い香りがして結構気に入っていたのですが……貴方の前には意味をないようですね」
「誰の身体だ?」
「私の信者のですよ。その身体が欲しいと言ったら喜んで捧げてくれました。前の身体はもう使い物にならなかったし、あのお方の前では美しい姿でいたいので」
「変わらぬな」
ツキは、黄金の双眸を歪ませる。
「今も昔も」
「はいっ」
白蛇は、大きな口を歪ませて笑う。
「私は……今も昔も御君を……阿修羅様を愛しておりますので」
「邪教なんて存在しない」
アケが連れてこられたのは赤い実の生息地から離れた平原だ。
アケは、宝物のようにナギに運ばれ、ゆっくりと草の上に下ろされると同時にそう告げられた。
「全ては白蛇の一人芝居だったのさ」
ナギは、淡々と無表情に告げる。
アケは、ナギが何を言ってるか分からなかった。
邪教が存在しない?
白蛇様の一人芝居?
「何を言ってるの……ナギ?」
アケは、キッとナギを睨みつける。
「今更、そんな出鱈目を言ってどういうつもり?」
アケは、心臓が激しく高鳴るのを……感情を抑えることが出来なかった。
私を捨てて……裏切って……それなのに……それなのに……。
「ひどい……」
アケは、心の痛みと共に声を絞り出す。
「なんで……あの優しかった……可愛かったナギはどこにいっちゃったの……?」
返して……私の大好きなナギを返して……。
「姉様……」
ナギの表情が歪む。
泣く寸前の子どものように。
「俺は、出鱈目なんて言ってない」
ナギは、アケと視線を合わせるようしゃがむ。
「俺が姉様に嘘吐くはずないだろう?」
ナギは、強い眼差しでアケを見る。
「姉様を忘れたことなんてない。姉様がいたから俺はここにいるんだ」
「じゃあ、なんで……」
蛇の目から涙が一筋流れる。
「なんで……戻ってきてくれなかったの……?」
「それは……」
ナギは、視線を右に反らす。躊躇いながらも口をゆっくり開く。
「姉様を……救うためです」
ナギは、目をゆっくりと閉じる。
白蛇の国に来てナギは打ちのめされた。
それは白蛇の国での孤独な生活でも小者としての過酷な訓練でも命と背中合わせの出陣にでもない。
アケへのあまりの仕打ちにだ。
白蛇の国は逼迫していた。
王であり、守護者である白蛇を失ってから友好的であり、属国的であった隣国は手のひらを返したように戦争を仕掛けてきた。
白蛇の国が王の威光と脅威で守られていたこと、武士が歴史が古いだけの何の役にも立たない烏合無象であったことが明るみになった瞬間だった。
国は荒れ果てた。
白蛇と言う巨大な存在に守られ、自己と国の研鑽と他国への尊重と尊敬を怠ったまさに自業自得の結果だと言うのにあろうことか全てアケへのせいへと変換されていた。
ジャノメ姫さえいなければ。
あいつが大勢の子どもを殺し、巨人を呼び寄せた。
白蛇様を失い、国が滅びかけているのは全てあいつのせいだ。
(ふざけるな!)
ナギは、胸中で叫んだ。
アケがあの朽ちた屋敷に追いやられた理由は彼女から聞いていた。
守護すると言う名目で遠くから監視している武士達の態度を見てアケの扱いがどんなものかも子ども心に理解した。
理解していた……つもりだった。
(姉様が何をした!)
姉様は、ただ巻き込まれただけだ。
巻き込まれて……巨人を呼び寄せる門にされて当たり前のように得られるはずだった両親の愛情も、温かい生活も、訪れるはずだった幸せも全て奪われた……。
アケこそが最大の被害者なのだ。
それなのに……。
手に入れなければならないものが二つになった。
一つは食堂を開くための資金。
もう一つはアケの名誉の回復。
(俺が……取り戻す)
姉様が手に入れるはずだった幸せを俺が取り戻す。
ナギは、誓いを新たにし、小者になる為の門戸を叩いた。
その時、ナギは怒りのあまり気付いていなかった。
アケへの恨み言を口する民草から邪教のことが何一つ出なかったことに。
その事に気付いたのはそれから二年後、ナギが遠征から戻った時のことだった。
小者として入隊してからのナギの活躍は目覚ましいものだった。
刀の握り方も知らない年端も行かない金髪の少年が単騎で敵陣に乗り込み、豪の者として名高い戦士達を撃ち倒し、兵器として買われた魔獣を一撃で仕留めたと言う噂は詩となって瞬く間に近隣諸国に広まった。
絶望に追いやられていた白蛇の国は一気に湧き上がった。
大臣や政官達は、ナギを英雄として祭り上げ、民草は"白蛇の生まれ変わり"と彼を崇めた。武士達は小者に手柄を奪われ、自分たち積み上げてきた畏敬を全て奪われたことに嫉妬するもナギの力と反撃を恐れ口に出すことは出来なかった。
ナギは、自分を崇め奉る国と民草を蔑みの目で見ていた。
小者として入隊した時は見慣れない金髪を気持ち悪がり、刀を握ったこともないことを馬鹿にし、戦力外として雑用を押し付け、陰湿な虐めをしてきた癖に手柄を上げた瞬間の手のひら返し……ナギは白蛇の国のことが尚更に嫌いになった。
俺が戦ってるのはお前らの為じゃない。
姉様のためだ!
そう……アケのため。
怒りを心の内を封じ、国の為と偽って戦い、勝利するれば金が手に入る。名誉と地位が手に入る。
そうすればアケを救える。
二人の夢である食堂を開いてずっと一緒に暮らしていける。
そう信じてナギは戦った。
戦って、戦って勝利した。
その為にアケのところに顔を出すどころか連絡をすることも出来なかったが、彼女はきっと自分を待っていてくれる。そう信じてナギは戦い続け、いつしか大将なり、国の栄誉たる"朱"の称号を得ることが出来た。
俺は、"朱"のナギ。
姉様だけの武士。
ナギは、心に秘め、戦った。
しかし、運命とはナギが思っているよりも遥かに残酷なものだった。
「ジャノメは、金色の黒狼の捧げ物となった」
アケの父である関白大政大臣から話しを聞かされた時、ナギの思考は停止した。
この男は……この猿は何を宣っているのだ?
関白の話しはこうだ。
ナギが遠征に行っている隙を付いて遠く砂漠の国を治める白濁の青猿が民を率いて戦を仕掛けてきた。
幸い、残った全軍を持って辛くも勝利することが出来たが、かつて白蛇と同等の存在とされた青猿までもが襲ってきたことに衝撃と恐怖を感じた関白はこう思った。
"いつか金色の黒狼が襲ってくるかもしれない"
"その前に奴を始末しないと"
"でも、どうやって?"
"そうだアレを使えばいいんだ"
ナギの脳裏に関白の首を刎ねる映像が浮かぶ。
そしてこの国の政官、武士、民草を皆殺しにする自分の姿が。
(ダメだ……)
ナギは、自制する。
(こいつを殺したって……意味はない)
二年と言う短い時間でナギは嫌と言うほど学んだ。
自分がとんでもなく矮小な存在であることを。
力もある。
才能もある。
地位も、名誉も、金も手に入れた。
しかし、それではダメだ。
どれだけ強くなろうとも認められようとも、所詮は人間。弱体化したとはいえ、国一つ相手に勝てるわけがない。そして……なにより人が生きる為には受け入れてくれる器が必要なのだ。
アケのためにも……。
「承知……いたしました」
ナギは、心の中で血反吐を吐きながら関白の言葉を受け止めた。
その後、何を話したのかも、どう動いたのかも覚えていない。
気がついたら……朽ちた屋敷の中にいた。
アケのいなくなった朽ちた屋敷に。
ナギは、屋敷の中を歩く。
アケと過ごした屋敷の中をアケの影を求めて歩き回る。
(影を追い求める?)
ナギは、自虐的に笑う。
影なんてそこかしこにある。
アケとの思い出がないとこなんて……どこにもない。
居間にだって、寝室にだって、台所にだって、どこにだってアケとの思い出が落ちている。
ナギ。
アケの優しい声がそこかしこから聞こえてくる。
「姉様……姉様……」
ナギは、膝を落として嗚咽する。
「ごめんなさい……ごめんなさい……姉様……姉様……」
泣いてる場合ではない。
そんなのは時間の無駄だ。
泣いてる暇があるなら行動しろ。
姉様を救う方法を考えるんだ……。
白蛇の国から……金色の黒狼から……。
「姉様……」
「お困りですか?」
背後から艶かしい声にナギの思考が一瞬で切り替わる。
目に映らぬ速度で刀を抜刀し、最後の相手の喉元に切先を突きつける。
「あらっ怖い……」
喉元に切先を突きつけられた相手……女は臆した様子もなく微笑を浮かべる。
美しく、妖艶な女だった。
赤色の派手な着物を胸が見えそうなまではだけ、肌が血が通っていないかのように白い。長い髪は肩に嫌らしく落ちて、左目を隠し、右目の瞳は血を吸い上げたような朱色だ。
「貴様は……」
「邪教」
刹那。
切先が女の喉を貫く。
しかし……。
「あらあらっ」
女は、血を吐きながら微笑む。
「まったく反応出来ませんでしたわ」
女は、指で血に濡れた刃を掴む。
「人間の身体って本当に嫌ですわね。弱くて。それか貴方が強すぎるんですかね?」
女は、ぬっと刃を抜き取る。
ナギは、じっと女を睨みつける。
開いた穴からヒューヒュー息が漏れる。
「苦しい……これが苦しいって感覚なのね」
女は、うっとりと呟く。
「貴様が……邪教か?」
ナギは、ギリっと奥歯を噛み締め、女を睨む。
だ。
「姉様を……あんな目に合わせた……」
「少し違いますわ」
女は、喉をヒューヒュー鳴らしながら笑う。
「って言うか邪教なんて存在しませんわ。あったのは……蛇教ですわ」
「蛇教?」
ナギは.眉を顰める。
「なんだそれは?」
「白蛇の国の昔の名前ですわ」
女の言葉にナギは目を大きく見開く。
「最初は私を崇める者達の小さな集落だったのですよ。それがいつの間にか大勢集まるようになって集落ではまとめきれなくなった。だから、私を王と見立てて幹部達が大臣となって国とした。それが始まり。だから国の人間がみんな蛇教の信者ってことになりますね」
こんな女は……何を言ってる?
「あの子……私の目を移植した時にきっと昔の記憶も移ってしまったのかも。だから蛇教なんて古い言葉を知っていて、自分をあんなにしたのは巨人崇拝の邪教だと思い込んだ。そうしないと……誰かのせいにしないと自分を保てないから……」
女は、そう言ってほくそ笑む。
「本当はあの子も日曜霊扉の一部になって死ぬはずだった。私の弱った身体じゃあの方を呼ぶだけの霊扉が開けないから。まあ、私の信者の子孫なんだからその身を捧げるのは当然ですよね」
そう言ってナギに同意を求める。
死ぬはずだった?
霊扉?
ナギは、女の会話をなんとか整理しようとするが追いつかない。
「予想外だったのはあの子自体が日曜霊扉になっちゃったこと。陽の気が強過ぎたのかしら?あの子一人に力が集まっちゃって。そのせいで御君は我を忘れて私を殺しちゃったんです。本当に酷い話。まあ、御君も直ぐに門の中に引っ込んじゃうし最悪です」
喉からコポコポ血の泡を吐きながら女は肩を竦める。
「そんな訳で私は持てる力を使ってあの子の力を封印したのです。安定しないと同じことを繰り返すから。信者を脅して幽閉したのも変にあの子を利用しようとする輩を排除するため。でも……」
女の顔が憎々しく歪む。
「あいつのところに行ったのは想定外ね……」
あいつ……金色の黒狼?
「だから、協力しませんこと?」
女の顔が笑顔に戻る。
「私は、御君に会いたい。貴方はあの娘を救いたい。利害は一致してますわ」
ナギの目が大きく見開く。
女の言葉は一つも理解出来ない。
しかし、意味合いは心で納得し、目的に道が指した。
「本当に救えるのか?姉様を?」
「ええっ」
「……分かった」
ナギは、刀を鞘に収める。
「契約成立ですわ」
女は、右手を差し出す。
「人間は、約束を刻む時、手を握り合うのでしたわね?」
ナギは、女の手をじっと見つめる。
陶器の裏側のような白く、滑らかで触れるのを拒否したくなる手。
しかし、ナギは刀が右手を離し、その手を握った。
「契約成立ですわね。御大将」
女は、にっこりと微笑む。
ナギは、じっと女の顔を見る。
「お前……誰だ?」
ナギの問いに女は驚いて朱の目を丸くする。
「ここまで話して分からなかったんですか?御大将は腕はお強いのに頭はパーなのですね」
女は、喉から泡を吹きながらクスクス笑う。
ナギは、表情変えず女を見る。
「私はね……」
女の口が大きく裂け、三日月のように笑う。
「白蛇でございます」
その顔は蛇そのものであった。
「御大将がお話しになったようですわ」
白蛇は、朱の目を空に向けて言う。
「何故、分かる?」
ツキは、黄金の双眸をきつく細める。
「繋がってますので」
白蛇は髪を掻き上げ、隠れていた左半分を晒す。
右半分と同じ妖艶で美しい顔の目の部分がぽっかりと空いている。
「あの娘の見たものは全てわかりますよ。霊扉になってからの辛い日々も、悲しい日々も。あの子ね。ずーっと泣いてるんですよ。お父上様ぁ。お母上様ぁって。扉をどんどん叩いて、寒さに凍えて、光が揺れる度に怯えて、腐ったものを食べて吐いて、泣いて……。可愛かったですよぉ」
白蛇は、うっとりとした表情で両頬を手で包む。
黄金の双眸が炎のように揺らめく。
「あらっ怖い」
白蛇は、口元に手を当ててわざと怯えたふりをする。
「そんな顔をしたら美男子が台無しですわよ」
「其方は……なんとも思わなかったのか?」
「何がです?」
白蛇は、本当に分からないと言った様子で首を傾げる。
「自国の民が自分のしでかしで不幸な目にあっていることを見てなんとも……」
「そうですね〜」
白蛇は、考えこむように人差し指を口元に当て、にかっと笑う。
「お腹に虫が湧きそうです」
「虫?」
ツキは、双眸を歪める。
「だってあの娘が普通に死んでれば私はこんな苦労もせず御君と再会できて逢瀬を重ねることが出来ていたのですよ」
白蛇の顔が暗く歪む。
「あの娘にはもっともーっと不幸になってもらわないと。死が快楽に変わるくらい。そうじゃないと……」
白蛇の口が亀裂のように裂け、朱の目が憎悪に迸る。
「お腹の虫が沸いて治りません」
黄金の双眸が炎のように揺れる。
「そうか……」
ツキは、深い息と共に言葉を吐く。
その顔色は雪のように白く、左手の切断面から夥しい出血し、凍てついた地面を赤く染める。
「止めなくて良いのですか?」
白蛇は、形の良い眉を顰めて言う。
「その身体の体積では日が暮れるまで持ちませんよ」
「構わぬ」
ツキは、黄金の双眸を見据える。
「死ぬ前にお前を始末すればいいだけのことだ」
「あらあらっ怖いわあ」
言葉とは裏腹に白蛇は、楽しそうに笑う。
「そんなことよりも手を結びませんこと?」
「なにっ?」
「私達……利害が一致してると思いますの」
「利害……?」
ツキは、きつく黄金の双眸を細める。
白蛇は、口元を釣り上げる。
「貴方と御大将はあの娘を救いたい。私は御君を救いたい」
「それのどこに利害の一致がある?」
ツキは、不快げに唇を歪める。
「全ての元凶は貴様であろうが」
「分かってますわ」
白蛇は、肩を竦める。
「だから、償わせて欲しいのです」
「償う……だと?」
ツキは、疑わしげに黄金の双眸をきつく細める。
「はいっ」
白蛇は、にこっと微笑む。
「一緒に御君を殺しましょう」
ツキの双眸が大きく揺れる。
「巨人を殺します」
ナギは、音を立てずに刀を抜く。
アケの蛇の目が大きく見開く。
「姉様の目の封印を解いて巨人を呼び出して、殺します。殺して殺して殺して出涸らしになるまで殺し続けます」
「ナギ……貴方……何を言って……」
アケは、震える声で言う。
「あの女は、言ったんだ。日曜霊扉は封印以外で閉じることはない。それは霊扉の向こうに巨人がいるからだ。だったら全て始末してしまえばいい……と」
アケの蛇の目が大きく見開く。
「それが姉様を救う最良の方法だ……と」
ナギは、アケを、アケの蛇の目を見る。
「それでいいのだろう?」
ナギは、蛇の目に、蛇の目から見ているもう一人の者に言う。
アケは、ナギが何を言っているのか分からない。
「だから、姉様安心して」
ナギは、笑う。
あの時と同じ可愛らしい笑顔で。
「俺……強くなったから。誰にも負けないくらい強くなったから。自分よりデカい奴だって何匹も倒した。巨人なんかにも決して負けない。だから……俺に任せて」
ナギは、刀を振り上げる。
「一緒に帰ろうね。姉様」
ナギは、アケの目に向かって刀を振り下ろした。
「くだらん」
ツキは、吐き捨てるように言う。
「どれだけ強かろうが巨人を人間が始末できる訳がなかろう。と言うよりも……」
ツキは、黄金の双眸を白蛇に向ける。
「お前が許す訳がない」
「そうですわね」
白蛇は、笑って肯定する。
「人間如きに御君が殺せる訳ございませんし、許しませんわ」
「なら……何故?」
「私が欲しいのは御君の核です」
「核?」
ツキは、双眸を顰める。
「日曜霊扉は不完全です」
白蛇は、朱の目をぎっと細める。
「召喚された瞬間に正気を失い、暴れるだけ暴れて元の世界に戻ってしまう。貴方も見たでしょう?」
アケの目から現れた巨人の腕。
暴れ,狂い、破壊し、アケを飲み込んでいく……。
白蛇は、ほくそ笑む。
「だからあの方の核を手に入れる。核をこの身体の子宮で育てて肉を与えるのです。そうすればあの方は愛しいあの方のまま。私達は永遠に共にいられるのです」
白蛇は、白い鱗の肌を赤らめ、陶酔する。
まだ見ぬ愛しい御君との逢瀬に想いを馳せる。
「狂ってるな」
ツキは、黄金の双眸を閉じる。
「だが……正しい」
一度開いた日曜霊扉は、封印以外の方法では閉じない。なら、元凶たる奴らを全て始末すればいい。
実に単純明快だ。
しかし……。
「その為に二人の命が失われても良いと……?」
「御大将はお強いですよ」
白蛇は、心外と言わんばかりに唇を丸くする。
「きっと核が現れるまで戦い続けます。その後のことは知りません。契約の外なので」
そう言ってにっこり笑う。
「核のことは話してないのだろう?」
「殺し続ければいいと言っただけでその先の話しはしておりません」
「下郎が……」
ツキは、白蛇を睨みつける。
白蛇は、ほくそ笑む。
「それで……どうされます?あの娘を救う為に共闘なさいますか?貴方様の力なら全ての巨人を滅するのも可能でしょう?」
白蛇は、心から楽しむように言う。
「まあ、その影響で世界がどうなるかは知りませんが。私には関係ないし」
白蛇は、鈴のような喉を震わせて笑う。
ツキは、黄金の双眸をきつく細めて白蛇を睨む。
「却下だ」
「そうですか。まあ、そうでしょうね」
白蛇は、あっけらかんと答える。
「じゃあ、計画は私の好きに……あっ」
白蛇は、朱の目を嬉しそうに見開く。
「御大将が貴方の封印を解きます」
黄金の双眸が大きく見開く。
「始めるみたいです。御大将頑張ってくださいませ」
白蛇は、子どものようにはしゃぐ。
ツキは、白蛇に背を向けて走り出す。
「邪魔はさせませんわ」
白蛇は、腹部を摩る。
喉が大きく動き、割れるように開かれた顎から覗くに二股に分かれた舌に白い球が乗る。
「雪の蝗」
球が割れる。
雪できた無数の白い蝗が白蛇の口から放たれ、ツキの背中に襲い掛かろうとする。
刹那。
「木曜霊扉」
凍てついた地面が割れ、巨大な樹がツキと白蛇を隔てるように生える。
「解放」
巨大な樹の葉の間に紫色の木の実が無数に生え、落下し、宙に止まる。実の中心が割れて大きな顎と化し、飛び交いながら雪の蝗を捕食していく。
雪の蝗を捕食した実は一瞬で凍りつき、地面に落ちて朽ちる。
「邪魔はさせないよ」
巨大な幹の後ろから巨大な白兎……オモチが現れる。
「木霊」
白蛇は、朱の目を大きく見開き、白兎を睨む。
「ここはおまかせを」
オモチは、振り返らずにツキに向かっていく。
「すまぬ」
「あと……」
オモチは、左手を後ろに振って何かを投げる。
ツキは、右手で受け取る。
それはアケの腰帯に付いていた巾着袋だった。
「良い出来かと」
「見事だ」
ツキは、巾着袋を握りしめ、目にも見えぬ速度で走る。
オモチは、ひくっと鼻を鳴らして白蛇を見る。
「それじゃ白物同士遊ぼう」
白蛇は、苦々しくオモチを睨む。
「ジャノメを頼みます……王」




