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幸運の転生者がのんびり異世界を救います~悪人に不運をプレゼント。ぽっちゃりですが三人の王女に溺愛されています~  作者: ゲンタ


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第82話 小さな教会から始まった波が

アーサー王国の王都に、新しく質素な教会が建てられた。

祀られているのは、ヴェリル様――この世界を新たに任された神である。


(小さな国の、小さな教会に、大きな教会組織が口を出してくることはないだろう)

そう思っていた。


――だが、現実は違った。


***


ある日。


王都の教会を任されているノエリアのもとに、突然、一人の司教が現れた。

胸に金の紋章を掲げ、身なりも立派な、いかにも高位聖職者という雰囲気の男だった。


「この像は……間違っている」

司教は開口一番、そう言い放った。


ノエリアが祈りを捧げていた神の像を指差し、眉間に皺を寄せている。


「……間違っているとは?」


「顔が違う。我らが信仰する神とは異なる像だ。直ちに作り直せ」


ノエリアは微笑みを絶やさず、しかし凛とした声で応じた。

「これはヴェリル神を祀る教会です。あなた方の神とは異なるのです」


司教はしばらく黙っていた。

「……それでは、アーサー王国は邪教を信仰していると、そういうことか」


言葉は静かだったが、その目に険しいものが宿っていた。

「このことは、大司教に報告いたします」


***


ノエリアからの報告を受け、俺は急ぎ三人の妻を集めて対策会議を開いた。


「今後、教会がどう動くかだが……考えられるのは二つだ。一つ目、"像の顔を直せ"としつこく要求してくる。二つ目、"ヴェリル神を祀る教会は邪教だ"と決めつけ、改宗を迫ってくる。おそらく、そのどちらかになるだろう」


ノエリアが神妙に頷いた。

「二つ目の可能性が高いと思います」


俺は腕を組み、言葉を続けた。

「ヴェリル様は常に俺を見守っておられる。だから、いずれこのことを知ることになる。問題は、その時にどうなるかだ」


レオナが表情を険しくして口を開いた。

「ケイス様のお話では……ヴェリル様は前任の神からこの世界を託され、新たな神として頑張ろうと張り切っておられるのですよね。その矢先に"顔が違う"、"邪教だ"などと偽物扱いされたら……激怒されるでしょうね。大変なことになります」


「これは大事になるぞ」

俺は静かに言った。


「神様を本気で怒らせたら……世界がどうなるか、想像もつかない」

誰も、すぐには言葉を返せなかった。


やがてノエリアが、静かに口を開いた。

「……神罰が下ってもおかしくありません」


重苦しい空気が場を包み込んだ、その時――


『聞こえたぞ。私が邪神だと? 顔が違うだと……なんという失礼な』


『少し、お待ちください』

俺は慌てて言葉を返した。


『教会のひとたちは、神様が代わったことを知らないのです。許してあげていただけませんか』


『……むう。しかたがあるまい。では、私が直接、大教皇のところに行って"神様は代わったぞ"と伝えてこよう』


『少し、お待ちください。そうなれば、アーサー王国が宗教の中心地になってしまいます。私は教会の対応に追われることになります』


『民の幸せを目指すアーサー王国が、宗教国家になってしまいます。それだけは避けたいのです』


『安心せよ。そうならぬよう、きちんと伝えてくる』

(……本当に大丈夫だろうか)


声はそこで途切れた。

大広間に、静かな沈黙が落ちた。


***


「ケイス様、どうされたのです?」

ノエリアが心配そうに覗き込む。


「ヴェリル様と話していた」


ノエリアが小さく息を呑んだ。

レオナとエリュシアも、黙って俺を見ていた。


その目が「また神様と話したのか」と言っていた。


「ヴェリル様が、大教皇に直接伝えてくださるそうだ。像を作り直す必要はない」

ノエリアは胸に手を当て、静かに目を閉じた。


「……よかった」

それだけだったが、その言葉に深い安堵が宿っていた。


(ヴェリル様の「安心せよ」は信じたい。だが……新米の神様が大教皇に直接乗り込むというのは、本当に大丈夫なのだろうか)


***


一ヶ月後――


フォルトゥーナ宮殿に、物々しい行列がやってきた。

先頭には高位聖職者らしき老人。

白い法衣に身を包み、長い杖を手にしている。


「国王、教会の元大教皇、アウグスト殿が面会を求めておられます」


「……元大教皇?」

思わず声が漏れた。


(……ヴェリル様が動いた結果だな)


謁見の間に通された老人は、深々と頭を下げた。

「アーサー王国王ケイス殿。この度は急なお願いにもかかわらず、お会いくださり感謝いたします」


俺の横には、三人の妻たちが並んでいる。


「ご用件は……なんでしょう」


「実は……恐れ多くも、我らの新しき神――ヴェリル様と直接お話をする機会をいただきました。あれほどの至福の時は、生涯で二度と訪れぬでしょう……」


俺も妻たちも思わず息を呑んだ。

アウグストは深く頭を垂れ、静かな声で続けた。


「かつて私は"大教皇"の座にありました。ですが今は、すでにその地位を退いております。どうかこの身を、このアーサー王国の小さな教会で――一介の神父としてヴェリル様に仕えることをお許しいただけないでしょうか」


「……元大教皇が……神父として」

俺は声を詰まらせた。


アウグストは穏やかに微笑んだ。

「宮殿はかつてヴェリル様がお住まいであった神殿とか……。そしてケイス様は、ヴェリル様の使徒であられるとか……」


「いえ、私はただの人間です。少し運が良いだけの……」


「いいえ、ヴェリル様のご神託に間違いなどありえません」


彼は杖を握りしめ、声を強めた。

「ヴェリル様の正しきお姿を確認し、各地の教会に祀られる像を入れ替えるつもりですのでご安心ください」


謙虚で誠実な言葉だった。

俺は一瞬迷ったが――隣に立つノエリアを見やった。


「ノエリアに任せる」

ノエリアは静かに頷いた。


「承知しました。私も聖女として、ヴェリル様にお仕えする身。力を合わせましょう」


「……聖女様でいらっしゃいましたか。これも神の導きですね」

アウグストは静かに目を閉じ、祈るように頭を垂れた。


こうして、元大教皇アウグストは、ただの一神父としてアーサー王国の教会に仕えることになった。


その知らせは瞬く間に周辺諸国へ広がった。

小さな教会から始まった波が、どこまで届くのか――俺にはまだ、想像もつかなかった。


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