第79話 亡命者たちと人材の発掘
王宮も完成し、徐々に生活基盤も整いつつある。
だが次に必要なのは――人材だ。
(どうやって人材を募集するかな……)
(貴族に推薦してもらえば、数はすぐに揃うが、自分のところの使えない人材を押しつけられる可能性もある……)
そんなことを考えていたとき、グレイス王から、南のソレイユ王国についての、穏やかではない知らせが届いた。
異形の神――ザルヴァナスを崇める"エクリプス教団"なる組織が国内で大規模なクーデターを起こしたのだという。
貴族や騎士は、王都から叩き出されたらしい。
この報せに、グレイス王国の王都は大混乱となった。
国境を越えて大量の避難民が流れ込んでくることは、誰の目にも明らかだったからだ。
王は国境沿いの街道に兵を配置して、無秩序な流入に制限をかけようとした。
俺はグレイス王国の王に、農民や商人はアーサー王国でどんどん受け入れると伝えた。
放っておけば、封鎖された国境で命を落とす者が出ると思ったからだ。
農民や商人とは別に……
ソレイユ王国の王族、貴族、役人、騎士、兵士、約五百人が、ぼろぼろの状態でグレイス王国に亡命してきたという。
そしていつものように、グレイス国王は俺に"面倒ごと"を押しつけてきた。
「アーサー王国は、役人、騎士、兵士が不足しているであろう。どうだ、彼らを引き受けてくれないだろうか」
俺は慎重に言葉を選んだ。
「どのような人物たちか、まず面談して確かめさせていただけませんか」
「もちろんだ。……ところで貴族はいらんかな」
「いりません」
即答だった。
「貴族を養う土地もないし、そもそもアーサー王国では王以外が領地を持つことは認めません。役職は能力に応じて給与で支払う方針です」
「そうか……そう言っていたな。私も面倒な貴族は増やしたくない。どうしたらよいだろう」
「多少の食料を渡して、北のノルド王国に行っていただくのが良いと思います」
「おお……それは名案だ。さっそく指示しよう」
「ところで……王族はどう処遇したものか」
「王都に屋敷を与えて質素に暮らしていただくか、同じくノルド王国へ行っていただくしかありません」
「そうだな……それでいこう」
(相変わらず、ひとに決めさせる王だ……)
***
数日後、フォルトゥーナ宮殿の大広間で、ソレイユ王国から亡命してきた人たちとの面談が始まった。
まずは兵士や騎士たちの審査だ。
これは騎士団長グレンが担当した。
グレンの隣には、腕を組んだレグニアが立っていた。
志願者たちはその気配だけで背筋を伸ばした。
鎧も満足にない疲弊した騎士たちを前に、グレンは一人ずつ問いただしていく。
「貴様の武勲は?」
「王都防衛戦で百人隊の副長を務めました」
「だが退却したのだろう」
「はい……王都の民を守るためです」
グレンは一瞬厳しい顔を見せたが、すぐに頷いた。
「よかろう。命令よりも民を優先できる者は貴重だ」
次の男は、体格こそ立派だったが、目が泳いでいた。
「貴様は何ができる」
「剣の腕には自信があります。それと……上官の命令には必ず従います」
「上官が間違っていても従うのか」
男は黙った。
グレンは静かに首を振った。
「考える頭のない兵はいらん。出直してこい」
その隣では、若い兵士が緊張で震えながら立っていた。
「年はいくつだ」
「十七です……」
「なぜ逃げずに残った」
「……仲間を置いて逃げられませんでした。結局、全員で逃げることになりましたが」
グレンはしばらく男を見た。
「正直な答えだ。採用候補とする」
兵士や騎士の多くは、基礎体力のある者や志の高い者を採用候補に挙げていった。
グレンの審査は厳しかったが、不思議と誰も不満を漏らさなかった。
その目が、公平であることを皆が感じ取っていたからだろう。
***
続いて役人たちの面談が始まった。
これは俺と、三人の妻――レオナ、ノエリア、エリュシアが同席して行った。
ずらりと並んだ十数人の役人たちは、どこか怯えた顔をしている。
祖国を追われ、明日の身の振り方も分からないのだから当然かもしれない。
「アーサー王国の家臣はすべて俸給制。領地は持たせない。給与は能力に応じて支払う」という説明を最初に行った。
その時点で、五名が席を立った。
次に、簡単な一次面接を行った。
「〇〇貴族様のところで働いて……」と貴族自慢を始める者はすべて不合格とした。
どう見ても誠実そうにない者も同様だ。
仕事よりも横領や口利きが得意な役人も要らない。
二次面接に残したのは四人だった。
「では順に、得意分野を聞かせてください」
俺が声をかけると、端に座る壮年の男が進み出た。
「私は、セルヴァンと申します。都市計画・建設技術に従事して参りました。橋梁、用水路の建設経験もあります。新しい街づくりのお手伝いができればと思っております」
「都市計画か。アーサー王国にまさに必要な人材ね」
レオナが静かに言った。
ドルードは深々と頭を下げた。
次に進み出たのは、眼鏡をかけた細身の男だった。
「私は、エトルと申します。財務官として二十年、予算の管理と徴税に関わって参りました。無駄を省き、収支を整えることには自信があります」
ノエリアが小さく微笑んだ。
「経理に強い方……必要ですね。アーサー王国はどんどん人口が増えていますから」
三人目は、外套をまとった初老の男だった。
「私は、エスヴァン。ソレイユ王国の宮廷で外交官を務めておりました。異国との交渉に通じております」
俺は腕を組んで考えた。
「今のアーサー王国には、まさに必要な人材だ」
エリュシアが頷いた。
「言葉の力は剣よりも鋭く、時に魔法よりも強い。それを心得ている人は貴重です」
そして四人目――まだ若いが快活な女性が前に出た。
「私は、リセリアと申します。農産物の加工や特産品の開発を担当しておりました。ソレイユ王国では"ソルカリス"という果実酒を広め、農民の収入を二倍にした実績があります」
「産業振興を手がけていたのか」
思わず身を乗り出した。
レオナも静かに目を細めた。
「産業の柱を立てられる人材……これも必要ね」
こうして、四名を採用することにした。
都市計画と建設のセルヴァン。
経理と予算のエトル。
外交官のカリム。
産業開発のリセリア。
彼らの才覚は未知数だった。
だが、自国を追われる絶望の中にあってなお、新しい国作りに尽くしたいと語る真摯さ――それが、彼らを信じるに足るものだった。
「よし、君たちにはアーサー王国の役人として仕えてもらおう」
俺が告げると、四人は一斉に跪いた。
言葉はなかった。その沈黙が、言葉より重かった。
(……ようやく、人材が揃い始めた)
(このひとたちの力を借りて、民が幸せに暮らせる国にしていかなければ)
大広間に、静かな熱気が満ちていた。




