表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幸運の転生者がのんびり異世界を救います~悪人に不運をプレゼント。ぽっちゃりですが三人の王女に溺愛されています~  作者: ゲンタ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

53/76

第53話 甘い戦い、お菓子の午後

レオナ王女に世界樹の件を報告した翌日――。


侯爵邸を訪ねてきたのは、レオナ王女、騎士団長グレンと部下二名だった。

いつもの鎧姿でも騎士服でもない。深紺のジャケットに白いブラウス、細身のパンツという、どこか街歩きを意識したような格好だった。


髪も普段より少し柔らかくまとめられている。

それでも凛とした雰囲気は隠しきれない。

むしろ、こういう姿の方が余計に目を引くような気がして、俺は思わず視線を逸らした。


「これは、レオナ王女。本日のご要件は?」


「エリュシア王女を、街にご案内したいのです」


ストレートな申し出に、一瞬きょとんとしてしまった。

王女からの申し出を断れるわけがない。


「ぜひ、お願いしたいです」


返事をした俺の隣で、エリュシアが跳ねるように声を上げた。

「街に行ける! やった!」


「エリュシア王女殿下、はしたないですよ」

ルーナが小声で窘める。


「でもうれしいんだもの。ねえ、お菓子屋さんにも行けるのかしら?」


「お望みでしたら」


エリュシアがレオナ王女に向き直り、ぺこりと頭を下げた。

「レオナ王女、ありがとうございます!」


レオナは微笑みを返したが、その笑顔がほんのわずかに固かった気がしたのは、気のせいだろうか。


こうして俺とレグニア、レオナ王女とグレン団長と部下二名、エリュシアとルーナとナディアという、なんとも大所帯での街歩きが決まった。


「ねぇ、これって……なんだか楽しそうな展開ね。後ろからこっそりついていけないかしら」

背後で母がミーナにひそひそと囁いている。


「奥様、さすがにそれは、やめておいた方が……」


「ちょっとだけなら、いいじゃない?」


「奥様……侯爵夫人ということをお忘れなく!」


(全部聞こえてるよ。とにかく恥ずかしいことはやめてください)


俺は静かに玄関の扉を閉めた。


***


午後の快晴の空の下、俺たちは王都の城下町へ出かけた。

街の中心部は、色とりどりの旗や布がはためき、商人たちの呼び声と客の笑い声があふれている。


香辛料の匂い、焼き立てのパンの香り、行商人の楽器が奏でる軽快な音楽……五感が一度に刺激される賑わいだった。


「ここが王都の中心広場よ。ひとの街はいかがかしら」

レオナが穏やかに問いかけると、エリュシアは目を輝かせてあちこちをきょろきょろと見渡した。


「すごく賑やかです。活気がありますね!」


見るものすべてが宝物のように映っているのだろう。

陽光を受けたエリュシアの髪がきらきらと輝き、その周りだけ空気が明るいような気がした。


(本当に、妖精のようだ)


気づくと、俺はしばらくエリュシアをじっと見つめていた。


「……ケイス」

レオナの声に、はっと我に返る。


振り向くと、王女がこちらをまっすぐ見ていた。

笑顔だった。ただし、目の奥が笑っていなかった。


「そんなに見つめていたら、エリュシア王女殿下が恥ずかしがるんじゃないかしら」


「あ、いや……そういうわけでは」


「そうかしら」

レオナはそれだけ言って、すっと前を向いた。


その横顔は穏やかだったが、どこか少しだけ、いつもと違う気がした。

そのとき、レオナ王女の鼻がぴくりと動いた。


「ケイス、あのお店からいい匂いがしますわ」


視線の先には、可愛らしい木造の甘味処。

エリュシアがぱっと振り返り、たちまち目が釘付けになった。


「あの匂い……すごく甘い。寄っていきたいです!」


「ケイス、行きましょう」


俺を先頭に、一行がぞろぞろと甘味処へ入ることになった。

グレンの部下二名とルーナ、ナディアは店の前で警備につく。


中はこぢんまりしているが、木の香りが心地よく、窓際には小さな花が飾られていた。店員がにこやかに奥の席へと案内してくれる。


「おすすめを教えていただけますか」

俺が尋ねると、店員は嬉しそうに顔を輝かせた。


「本日でしたら、蜂蜜とナッツの焼き菓子が特においしゅうございます。それと、季節の果実を使った紅茶もぜひ」


「では、それを人数分いただけますか」


「かしこまりました!」


レオナが店内をゆっくりと見回しながら言った。

「こういうお店、好きだわ。王宮にはない、こういう温かさがあるわね」


「王女様はよく街に?」


「なかなか来られないの。だから今日は楽しみにしていたのよ」


「それは良かったです。ゆっくりしていってください」


レオナがふっと表情を緩めた。そのわずかな笑みが、普段の凛とした王女とは少し違って見えた。


エリュシアはすでにメニューの絵を覗き込み、店員に「これは何ですか」「これはどんな味ですか」と矢継ぎ早に質問していた。


店員も慣れない問いかけに少し戸惑いながらも、丁寧に答えている。

やがて木の皿に、数種類の焼き菓子と果実入りの紅茶が並べられた。

甘い香りがふわりと広がり、思わず喉が鳴った。


***


「エリュシア王女、お味はいかがですか」


「うん……美味しい。でも――」


エリュシアがぽつりと呟いた。

「ケイスが作ってくれたお菓子の方が、もっと美味しかったわ」


その瞬間、レオナの手がぴたりと止まった。

「……ケイスが、お菓子を作ったのかしら」


「ええ。エルフの国で、焼きたての果実タルトを作ってくれたのです。とっても美味しくて」


エリュシアが嬉しそうに答えた。

無邪気に、悪気なく。


レオナはゆっくりと俺に視線を向けた。

「私には一度も作ってくれたことが、ありませんでしたわね」


「それは……機会が、なかなか……」


(誰のせいで忙しかったと思っているんだ)

(丸投げに次ぐ丸投げで、料理をする暇などなかったぞ)

しかし当然、口には出せない。


「……次は必ず作ります。お約束します」


レオナはしばらく俺をじっと見つめていた。それからふいに視線を外し、小さく鼻を鳴らした。


「……全員、侯爵邸に戻るわよ」


後ろでグレンが、天を仰いでいた。

(侯爵邸に戻ったら、厄介事が待っているんだろうな)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ