表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幸運の転生者がのんびり異世界を救います~悪人に不運をプレゼント。ぽっちゃりですが三人の王女に溺愛されています~  作者: ゲンタ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

50/77

第50話 エルフの宴と世界樹の現状

女王ティルフィアの案内を受け、俺たちは聖樹の宮殿の内部へと足を踏み入れた。

分厚い樹皮がそのまま壁となり、枝や根が絡み合って天井や柱を形作っている。


ひとの手が加わっているのか、自然のままなのか、境界がわからない。

それでいて荘厳さと優美さが見事に調和していた。


やがて扉が静かに開かれると、目の前に広大な大広間が広がった。

樹の幹を加工した長いテーブルには、草で織られた柔らかなクロスが敷かれ、その上に色とりどりの料理が並んでいる。


透明な器には果実を煮詰めたものや花の蜜を練り込んだゼリー。

皿には香ばしく焼かれた穀物のパン、彩り豊かなサラダ、香草で和えた山菜のような料理。


エルフの国ならではの、珍しい料理がいくつも並び、瑞々しい香りが静かに立ちのぼっていた。


枝で編まれたシャンデリアには光の玉が浮かび、揺らめきながら室内を淡く照らしている。木漏れ日のように柔らかな光が広間を包み、夢の中に迷い込んだかのようだった。


「これは全部、森で採れたものなのですか」

思わず声が出た。


「ええ。森の恵みは無限です。私たちエルフは、森と共に生き、森に生かされています」

ティルフィア女王の声には、説明ではなく感謝が滲んでいた。


隣でレグニアが、料理をじっと見渡してから静かに言った。

「力を感じる食材ばかりだ。人間の国の食事とは、いろいろ違う」


そう聞くと、早く食べてみたくなる。

「食べてみていいですか」


「もちろんですわ。今夜は、アーサー子爵と黒竜様の歓迎の宴です。どうぞ存分に」


さっそく一口、果実のゼリーを口に含んだ。


「……っ」


甘みと酸味が溶け合い、舌の上でふわりと広がる。

それだけではない。体の芯から何かが満ちてくるような、不思議な感覚があった。


「おいしい……というより、なんか、体に染み込む感じがしますね」


「森の精気が宿っているのです。食べるだけで英気を養えますわ」


レグニアがこちらをちらりと見た。

「ケイスの顔が、少し生き生きしてきたぞ」


「そんなに違いますか」


「見ればわかる」


***


そんな中、ふと小柄な影が俺の隣にちょこんと腰を下ろした。

振り向くと、エリュシア王女だった。

金の髪飾りが揺れ、好奇心に満ちた瞳がまっすぐこちらを射抜いている。


「ねえ、幸運の領主さま……あなたの本当の姿、見せてくれませんか」


「えっ」


言葉を詰まらせた俺に、エリュシアはいたずらっぽく笑った。

「エルフには見えるの。あなたの本来の姿が」


「そうなんですか。でも……エルフは皆が美男美女でしょう。それに比べて、俺の今の姿の方が愛嬌があって良いと思っています。それに、外見より何を守りたいか、何をなしたいかの方が大事ですから」


エリュシアがその言葉をゆっくりと噛みしめるように黙った。

「……でも、どうしても見たいの」


「では、明日、ひとの少ないところでお見せしましょう」


「本当?」


少女の顔がぱっと輝き、嬉しそうに両手を叩いた。

その無邪気さに、女王ティルフィアもそっと口元を綻ばせた。


「あの子はまだ幼いのですが、あなたに強い興味を持っているようです。どうか仲良くしてやってください」


宴の間、エリュシアは俺の隣を離れず、矢継ぎ早に質問を重ねてきた。


「人間の国って本当に森がないの? どうやって食べ物を育てるの?」


「水と光があれば、耕した畑で作物が育ちますよ」


「人間の食べ物はどんなもの? 甘いものはある?」


「甘いお菓子なら、いろいろあります」


「どんな味? どれくらい甘い? 明日、見せてくれる?」


「それは、世界樹のことが無事に終わってからにしましょう」


「絶対だよ!」


ぎゅっと手を握られ、思わず苦笑した。

その様子を見守っていた女王ティルフィアが、静かに盃を置いた。


「さて、アーサー子爵。肝心の件についてお話しせねばなりませんね」

その一言で、宴の穏やかな空気が少しだけ引き締まった。


「ここ一年あまり、世界樹がみるみる力を失っています。本来、世界樹の力は計り知れないもの。この国に近づくだけで、すべての生き物がその力を感じられるほどです」

「そのおかげで魔物も寄り付かず、特別な実りも生まれる。しかし今は、その力が弱まり、魔物が国境を越えようとしています」


「原因は突き止めておられますか」


女王はゆっくりと首を振った。


「それがわからないのです。世界樹に宿る精霊たちも沈黙したまま。だからこそ、あなたの"幸運"に賭けてみたのです。幸運のひとよ――あなたの力が、我らエルフの未来を照らす鍵となるやもしれません」


その目に、希望と不安が入り混じった光が宿っていた。


宴の音楽は静かに流れ続けていた。

しかしその旋律は、まるで世界樹が奏でる哀歌のように、俺の胸をじわりと締めつけた。


(自信はない。でも、できることをやってみるしかない)


俺は遠くで揺れる光の玉をしばらく眺めた。

明日は、世界樹に会うことができるな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ