表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幸運の転生者がのんびり異世界を救います~悪人に不運をプレゼント。ぽっちゃりですが三人の王女に溺愛されています~  作者: ゲンタ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/47

第45話 天恵領と呼ばれる

レグニアが、泉の水と薬草を使ってポーションを調合してくれた。

濃い緑色をしたその液体は、一口飲むだけで全身に力がみなぎり、目が冴えわたり、体の芯から新しい息吹が湧き上がってくるようだった。


「おぉ……! 元気になった!」


「ふふん、我の腕にかかればこんなものだぞ」

レグニアが珍しく得意げに胸を張った。


(さすがドラゴンだ。材料を見ただけで的確に作り上げてしまう)


「この薬草群生地、できれば誰にも荒らされたくないんだが、何かいい方法はないかな」


「安心しろ。ドラゴンの結界を張っておく。小動物や鳥は通せるが、人間や魔物は近づけないようにする」


「さすが黒竜! 頼もしすぎる。本当にありがとう」


結界が張られた群生地と泉は、困窮する領民にとって貴重な収入源になるはずだ。

薬草があれば、病人や怪我人を救うこともできる。


俺たちは泉のそばで一日休んだ後、街道へ戻り、西へ進んだ。

目指すのは、隠密調査の際に老人と出会った村だ。


***


やがて目的の村に到着した。


前回の調査時よりも農地はさらに荒れ果てていた。

それでも、村には農民たちが戻ってきており、家屋の修繕をしながら懸命に復旧へ取り組んでいた。


俺の姿を見つけた老人と孫娘が駆け寄ってくる。

やがて森で話した農民たちも次々と集まってきた。


「お父上のロイ様から、各村に食料を配っていただいております。本当に助かります」


村人全員が一斉に頭を下げた。


「フェルステッド侯爵が投獄され、ケイス様が新たにこの地域の領主になられたと伺いました。領主ご就任、誠におめでとうございます。我らも力を尽くして畑を耕してまいります」


「ありがとう。その畑なのだが、今はどういう状態だ」


老人が重々しく口を開いた。

「二年以上も放置されておりましたので、雨で養分が流れ、土は固く締まっております。作物を育てる栄養が抜け落ちてしまった土地です」


別の農夫が続けた。


「耕して柔らかくしても、もとの肥沃な土に戻るには何年もかかります。しばらくは、満足な収穫は望めません」


農民たちの顔に、諦めと申し訳なさが入り混じっていた。


「そうか」


俺は少し間を置いてから言った。


「だが――なんとかできるかもしれない」


俺は畑の真ん中へと歩を進めた。


***


農民たちには離れてもらう。意識を集中し、バランススキルを発動する。

『大幸運60%』


瞬間、風が止まり、大地がうなりを上げた。

乾ききっていた土が黒々と色を変え、ふかふかと柔らかくなっていく。

指でつまめば、しっとりとした栄養の匂いが立ち上る。


かつての肥沃な土地が、目の前で蘇っていくのがわかった。

その様子を見ていた農民たちが騒ぎ出した。


「おおっ!」

「荒れ地だった畑が……!」

「この土、ふかふかだぞ!」

「荒れる前よりいい状態じゃないか!」


歓声を上げ、笑顔で土を握りしめる農民たち。そ

の目には、確かに希望の光が宿っていた。


「これなら、すぐにでも種が蒔けるはずだ」

「ありがとうございます……! ケイス様は、このようなお力をお持ちだったのですね」


彼らの顔に力が戻っていくのを見て、胸の奥が温かくなる。

農民たちが一斉に農作業へと動き始めた。


「この調子で、領地の畑を全部豊かにしてくるよ」


老人が深く頭を下げた。


「悪い領主を追い出しただけでなく、荒れ果てた畑を蘇らせてくださった。あなた様は私たちにとって、まさに幸運の領主様でございます」


その言葉が、じわりと胸に染み込んでくる。

(幸運の領主様、か……)


俺は少しだけ空を見上げた。

(悪くないな)


***


俺とレグニアは、領地の西の端から東の端へと移動しながら、荒れ果てた畑を豊かな土地へと変えていった。


ある村では、泉が枯れて困っていた。

俺は枯れた泉のほとりに立ち、スキルを発動した。

『大幸運60%』


静寂の後、泉の中央からゴボゴボと水が湧き出す。

最初は細い流れだったが、すぐに澄みきった地下水が豊かに溢れ出し、再び村を潤し始めた。


「水が……水が戻ってきたぞ!」

「これで畑が生き返る!」


村人たちが手を取り合い、涙を流して喜んでいる。


しかし、さすがに体が重くなってきていた。

スキルを発動するたびに、じわじわと消耗が積み重なっていくのがわかる。

それでも、次の村へ向かう足は止まらなかった。


新しい領主が荒れ果てた畑を蘇らせているという噂は、瞬く間に領地全体へと広がっていった。

俺が村を訪れるたびに人々が集まり、「ありがとうございます、幸運の領主様!」と声を上げた。中には手を合わせて拝む者までいた。


かつて重税に喘ぎ、疲れ果てていた顔が、まるで別人のように変わっていく。

その変化を目にするたびに、胸の奥に静かな熱が灯った。


***


一ヶ月後――。


領内の全ての畑の回復に目処が立ち、俺はいったん王都へ戻ることにした。

侯爵邸の玄関を開けると、母と妹リリィ、そしてミーナが笑顔で駆け寄ってきた。


「おかえりなさい! 病気とかケガとかしていない?」


「ちょっと疲れたけど、なんともないよ」


その夜、父に領地の状況を報告した。

「運がいいことに、農地の回復に目処がつきました。それと、薬草が群生する泉も見つけました」


父は腕を組み、しばらく黙ってからゆっくりとうなずいた。

「お前は妙に運のいいところがあるな。だが、領地経営は運だけでは続かんぞ。先のことをよく考えて動け」


「はい、肝に銘じます」


(いや、"運"で何とかなっちゃうんですけどね)

俺は内心でそう呟きながら、神妙な顔でうなずいた。


***


そのとき、従者が告げた。

「商人のガルド殿がお見えです」


俺が使いを送っておいたのだ。

ガルドは以前、詐欺事件の際に俺が助けた商人だ。

今ではアーサー家に忠誠を誓い、頼りになる協力者になってくれている。


「ケイス様、領主に任じられたと伺いました。おめでとうございます」


「ありがとう、ガルドさん。実は話があって来てもらったんだ。私の領地に、薬草が群生する泉を見つけた。一緒に現地を見に行ってくれないか」


ガルドの目が大きく見開かれた。

「それは……まさに天の恵みです! 現地を確認できれば、すぐに薬工房を建てられます。薬を王都に流通させれば莫大な利益になりますし、領地の街にも薬問屋を構えたい。いやぁ、ケイス様といると、どんどん運が開ける気がしますよ!」


「ただし、当面の収益は領民の生活を支えることに充てる。飢えさせるわけにはいかないからな。しばらくは利益が出ないと思ってくれ」


ガルドは少しも躊躇わずに頷いた。

「もちろんです。ケイス様のお考えに従います。儲けより先に、ひとが生きられる土台を作る。それが本当の商いというものですから」


その言葉に、俺は心から安堵した。

この男を選んで正解だったと、改めて思った。


***


こうして俺の領地は、いつしか"天恵領"と呼ばれるようになっていった。


豊かな泉と薬草、蘇った畑。誰が言い始めたのかはわからない。

気づいたときには、その呼び名が領地全体に広まっていた。


「天恵領か……」

俺は照れくさくなって、小さく笑った。


「悪くない響きだな」


民の笑顔が増えていく。

かつて疲れ果てていた顔が、日を追うごとに明るくなっていく。

その変化を目にするたびに、胸の奥に静かな熱が灯った。


「この領地を、本当の意味で天恵の土地にしてみせる」

声に出すと、不思議と覚悟が固まる気がした。


隣でレグニアが静かに言った。

「やってみせろ。私も手伝う」


少し間を置いてから、彼女はもう一言だけ付け加えた。

「神との約束にも、きっと答えられる」


その言葉が、夕暮れの風の中に静かに溶けていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ