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幸運の転生者がのんびり異世界を救います~悪人に不運をプレゼント。ぽっちゃりですが三人の王女に溺愛されています~  作者: ゲンタ


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第38話 レオナ王女への報告

俺とレグニアは、いったんフェルデリア領を後にして王都へ向かった。

農民たちから得た証言は一つ一つ丁寧に文章にまとめ、袋に大切にしまってある。


「ケイス、真面目だな」


「苦しめられた農民たちの言葉を、きちんと報告したいから」


レグニアはそれ以上何も言わなかった。

ゴーレムおじさんが黙々と手綱を握る御者台を眺めながら、俺も口を閉じた。


王都へ向かう街道を進むにつれ、景色が重く沈んでいくように感じた。

収穫の季節であるはずなのに、道沿いの畑は荒れたままだ。


行き交う人々の足取りは重く、顔には疲労と諦めの色が滲んでいる。

誰も笑っていない。


フェルデリア領だけの話ではないのかもしれない。

貴族の圧政は、この国のあちこちに根を張っているのではないか。


「なあケイス」

レグニアが低く呟いた。


「この国は一度壊して、一から作り直したほうがいいんじゃないか」


俺は街道の先に目を向けたまま、少し考えてから答えた。

「そうかもしれない。でも、レオナ王女みたいに国を良くしようと本気で動いているひともいる。まずは、そのひとたちを支えたいと思う」


「あのスキルで、か」


「どこまで役に立てるかはわからない。でも、全力でやってみるよ」


しばらく、馬車の音だけが続いた。

王都の城壁が見えてきたとき、俺はふと思った。


(フェルデリア領の農民たちは、今頃どうしているだろう)


老人が孫娘と再会した場面が、なぜか頭から離れない。

あの隠れ家のひとたちが報われる日が、早く来ればいい。


そのためにも、明日の報告をしっかりやらなければ。

俺は袋の結び目をもう一度確かめ、前を向いた。


***


王都に戻った翌日――。


「どうせ今日も訓練場だろうな」

俺はそう呟き、レグニアとともに騎士団本部へ向かった。


訓練場に足を踏み入れると、鋼の打ち合う音と掛け声が響き渡り、汗と熱気が混じり合った空気が肌に触れた。


その中に、ひときわ目を引く姿があった。

胸当てを外し、剣を手にしたまま呼吸を整える女性。


最後の稽古相手を打ち倒したところか、額に汗を光らせ、金髪が乱れていた。

こちらに気づいた王女が、タオルを手に取りながら歩み寄ってくる。

その瞬間、なぜか胸の奥で何かが跳ねた。


(……なんだろう。会うたびに、王女がますます……)


汗に濡れた額、乱れた金髪、ほんのり赤らんだ頬。

鍛錬の中にある凛とした気高さ。

そういうものが、じわりと目に入ってくる。


(おい、なにドキッとしてるんだ、俺は)


「ケイス。待っていたわ。長旅ご苦労さまでした」


「あ、はい。ただいま戻りました」

俺は慌てて一礼した。


隣のレグニアは相変わらず無表情だ。

王女を前にしても動じる様子が微塵もない。


(まあ、神様に仕えるドラゴンだからな。人間の王族など、眼中にないはずだ)


「フェルデリア領の調査結果をご報告します」


「わかったわ。場所を移しましょう」


***


騎士団の会議室に通され、席に着くとすぐに本題へ入った。


「まずは隠密調査、本当にご苦労さまでした。では聞かせてちょうだい」

王女は表情を引き締め、聞き漏らすまいという目でこちらを見ている。


俺はまとめた報告書を開きながら、一つずつ順を追って話した。


生活できないほどの重税によって放棄された農地。

森へ逃げ込んだ農民たち。

街でも商人が重税に喘いでいること。


「森へ逃げた者たちの中には、商隊を襲う者も出ています。ただ、商隊に傷をつけたことは一度もなく、奪うのも商品の一部だけだそうです。生きるために、そうするしかなかったものと」

「重税の目的は、フェルステッド侯爵が、第三王子を次期国王に推すための賄賂を捻出するためでした。捕らえた兵士の隊長は、それの何が悪いという顔をしていました」


「……なんてこと」


王女は目を伏せ、拳をゆっくりと握りしめた。

怒りを言葉にしまいと、必死に堪えているのがわかった。


「ただ、この件を王に報告するには物証が必要です。フェルステッド侯爵が実際に賄賂を渡したという、決定的な証拠が!」

「ケイス、どうすればいいかしら」


声はやや上ずっていたが、それは焦りではなく怒りのせいだった。


(どうすればって言われても……)

(調査も、その後の処理も、気づけば全部俺任せになっていないですか)


王女がグレンに視線を向けた。

グレン騎士団長が静かに口を開いた。


「当面は、王都でのフェルステッド侯爵の動向を探り、侯爵邸の出入りを監視するしかありません。不審な動きがあれば、必ず手がかりになるはずです」


(そうですよ! 騎士団、もっと頑張れ)


「それよ……! 騎士団長、お願いするわ」


「承知しました。極力目立たぬよう、慎重に」


俺は報告書をテーブルに置いた。

「これが現地での調査結果をまとめたものです。お役立てください」


王女は真っ直ぐにこちらを見て、深く頷いた。

「ありがとう。本当に、感謝するわ」


会議室を出ると、廊下にレグニアが壁にもたれて待っていた。

「終わったか」


「ああ。あとは騎士団が動いてくれるのを待つだけだ」


「ケイス」

レグニアが静かに言った。


「フェルデリア領の農民たちは、どうなると思う」


俺は少し考えた。

「王女が動いてくれれば、変わるはずだ。時間はかかるかもしれないけど」


「お前は……ひとを信じるのが得意だな」


「信じないと、何も始まらないから」


レグニアはそれ以上何も言わなかった。

ただ小さく息を吐いて、廊下を歩き出した。

その横顔が、いつもより少しだけ柔らかく見えた気がした。


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