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幸運の転生者がのんびり異世界を救います~悪人に不運をプレゼント。ぽっちゃりですが三人の王女に溺愛されています~  作者: ゲンタ


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第34話 商人隊が頻繁に野盗から襲われてます

騎士団での事務処理から解放されるまで、二週間かかった。

膨大な書類をどうにか片づけきった。

これは、少し胸を張っていい仕事だったと思う。


(それにしても……この国には、こういう作業を効率よくこなせる役人はいないのだろうか)


そして改めて感じた。

(レオナ王女には、本当に人望がある)


本来なら剣を振るうのが仕事の騎士たちが、文句ひとつ言わずに地道な事務処理を続けていた。つらかったはずだ。


それでも誰一人投げ出さなかったのは、王女への忠誠心以外に理由がない。

その忠誠心に、俺は素直に心を打たれた。


(ただ……書式を統一するなんて、事務処理の基本だと思うんだが。それをせずに今まで、忠誠心だけで頑張ってきたこと自体が、むしろ驚きだ)


思わずため息が漏れた。


そんな折、迎えに来たレグニアが感心したように口を開いた。

「横で見ていたが……ケイス、お前なら事務官としても十分やっていけるな」


「そんなことないよ。ちょっとした工夫だ。やろうと思えば誰にでもできる」


「いや、あの騎士たちにとっては地獄だった作業だぞ。それを救ったのだから、もっと自信を持て」


しばらく考えてから、俺は答えた。

「……ありがとう。スキルの力を借りなくても、自分の頭と手だけで誰かの役に立てた。それが……素直にうれしかったよ」


レグニアは何も言わなかった。

ただ、少しだけ目を細めた。


***


ようやく、騎士団の事務部屋から解放された。


二週間、あの暑苦しい部屋で頑張ったのだ。

書類との格闘だけならまだよかった。

問題は臭い足、汗の染みた服の匂い、そして四六時中漂うむさ苦しい空気だ。


(あんなの、二度とごめんだ)


外の風が、妙においしかった。

(解放されたぞ……!)


侯爵邸に着くと、母とミーナが奥から出てきた。

「ケイス、今日は早いじゃない。仕事は片付いたの?」


「……なんとかね」

それだけ答えると、ぐったりと椅子に腰を下ろした。


ミーナがお茶を持ってきてくれる。

温かい液体が喉を流れていくだけで、少し人心地がついた。


「ありがとうございました、って何度も言ってもらったよ」

それだけで十分だった、と思った。


「そうね、お疲れ様でした」

母が苦笑しながら肩を叩いてくれた。


そこへメイドが静かに入ってきた。


「お客様がお待ちです」


***


案内されて応接室に入ると、懐かしい顔がこちらを振り向いた。

「ケイス様、お久しぶりです」


以前、詐欺事件のときに助けた商人――ガルドだった。

しばらくは当時の話で盛り上がった。


ミーナが紅茶を運んで一礼し、扉が閉まると、ガルドの表情が変わった。

「実は……最近、商人隊が野盗に頻繁に襲われているのです」


声に切実さがあった。


「護衛はつけています。ですが野盗の数が増えすぎて、どうにもならない状況で」


「野盗が増えすぎて……」

俺は少し考えてから言った。


「野盗が増えるということは、まともに暮らせなくなったひとが増えているということですね」


「まさにその通りです。好き好んで盗賊になるひとなど、ほとんどいませんから」

重い話だった。


商人たちの経済活動だけでなく、国全体の物流が脅かされている。

たまたま出くわした山賊退治とは、次元が違う問題だ。


「最近襲撃に遭った商人隊の名前と場所を、できるだけ書き出していただけますか」


差し出した紙に、ガルドは黙って筆を走らせた。

一つ、二つ……十を超え、二十を超えていく。

やがて紙が埋まった。


「……思っていた以上に深刻ですね」


「護衛の費用がかさみ、商隊を出すのを避ける商人も出てきています。このままでは王都の市場に物が届かなくなり、庶民の暮らしにも影響が出るでしょう」


流通が止まれば物価が上がる。

物価が上がれば、暮らしが立ちゆかなくなるひとが出る。

そうなれば、また野盗が増える。


(悪循環だ)


「まずこの資料を、父上とレオナ王女に見せます。対応が決まり次第、改めてご連絡します」


「ありがとうございます。どうかよろしくお願いいたします」


深々と頭を下げるガルドを見ながら、俺は静かに息を吐いた。

のんびりしていられる時間は、なさそうだった。


***


父の書斎――。


午後の日差しが、分厚いカーテン越しに差し込んでいた。

俺が資料を差し出すと、父は黙って目を通し始めた。

ほどなく、眉間に深いしわが刻まれた。


「襲撃場所の多くが……かつて私が属していたリュカ・フェルステッド侯爵の領地だな」

父はゆっくりと資料を置いた。


「野盗が増えているということは、侯爵の領地内で暮らしていけなくなった人々が急激に増えているということだ。誰も好き好んで野盗にはならないからな」

言葉に、重い実感がこもっていた。


「私の方でも、フェルステッド侯爵の領地で何が起きているか調べてみよう」


それから父は静かに息を吐き、俺を見据えた。

「この話、レオナ王女に持っていくつもりだろう」


「……はい」


「であれば、友人として力になって差し上げるのだ」


父は少し間を置いた。


「ただし、王女には実情を十分に調べてから動くよう助言する方がいい。あの方は行動力がありすぎる。それが強みでもあるが、足元をすくわれることもあるだろう」


「……わかりました。前のように、王女が危険な目に遭わないようにします」


(父の言う通りだ。放っておけば、資料を見た瞬間に飛び出していくに違いない)


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