第24話 復讐のために、仕えていたのね
これほどのことを、臣下である貴族がやれてしまう。
(いったいこの国は、どうなっているのか)
横を見ると、レグニアも同じことを考えているようだった。
鋭い瞳が、静かに何かを見定めようとしている。
(そういえば、グレイス王国の王様って、どんな人物なのだろう)
「王女様。私も謁見するとのことですので、王のお人柄など、お聞きかせいただいても、よろしいでしょうか」
レオナは少し考えてから、口を開いた。
「一言で言えば、"いいひと"ね。誰に対しても穏やかで、怒ることもほとんどない。謁見のときは緊張しなくて大丈夫」
少し間を置いて、小さく付け加えた。
「ただ……国を治める長としては、少し迫力に欠けるかもしれないけれど」
「ありがとうございます」
レオナはふとケイスの顔を見た。
(ぽっちゃりとした体型に、どこか抜けた顔。でも頭の回転は悪くないようね)
それからそっと目をそらした。
(命も救ってくれたし、友としてなら頼りになりそうね)
***
「騎士団長、王への謁見を手配してください」
「ええと――ケイス? あなた、何をしているの」
「暗殺者たちが使っていた武器を集めているんです」
(武器の産地がわかれば、刺客の出所が絞れるかもしれない)
(それが新たな証拠になる)
俺は短剣を一本拾い上げ、レグニアに差し出した。
「レグニア、いろんな地方の武器を見てきたって言ってたよね。これ、どこのものかわかる?」
(何千年も生きているわけだし、人間には興味がなくても、武器とかには詳しいかもしれないよね)
レグニアは無言で受け取り、刃を光にかざした。
しばらく眺めてから、静かに言う。
「ガルディア地方の鍛造だ。独特の痕がある」
レオナの目が鋭くなった。
「ガルディア地方……ロザミール侯爵の影響下にある地方じゃない」
「騎士団長、この武器も押収してください。証拠になります」
グレンが頷き、部下に指示を出す。
レオナが俺を見た。
「他に何かわかることは?」
「一つ確認させてください。王女の部屋が襲われるまで、物音はありましたか」
「……なかったわ。本当に静かだった」
「では刺客たちは、衛兵を倒した後、迷うことなく王女の私室へたどり着いたことになります」
俺は言葉を選びながら続けた。
「つまり、内部に手引きした者がいたと考えるべきです」
レオナは一瞬、息を呑んだ。
「……そうだわ。騎士団長、白鷲宮のメイドを全員、今すぐここへ」
ほどなく、十人のメイドが部屋に連れてこられた。全員が一様に、怯えた表情を浮かべている。
***
(よし……やってみよう)
俺は静かにスキルを発動した。
『不運70%』
メイドたちの表情が、一斉に曇る。
不安が、恐怖に変わっていく。
その中の一人が、突然目を見開いた。
次の瞬間、出口へ向かって走り出す。
「動くな!」
騎士たちが叫ぶ。
しかしメイドは止まらない。
必死に駆けようとして、絨毯に足を取られて転倒した。
起き上がろうと床に手をつく。
滑る。また転ぶ。手をつく。また滑る。
騎士の一人が困惑した顔をしている。
「いったい、なにをしているのでしょう」
「なにかを隠そうと、焦っているのだろう」
グレンが静かに制した。
レオナが静かに近づき、床に這いつくばったメイドを見下ろした。
「ずいぶん慌てているようだけれど……何かやましいことでも?」
「わ、私が……ロザミール侯爵の指示で……暗殺者を手引きしました……」
室内が、しんと静まり返った。
メイド自身が一番驚いていた。両手で自分の口を塞ぐ。
(なんで……なんでしゃべってしまったの……これでは、死罪確定じゃない)
だがすでに、全員が聞いていた。
レオナはしばらく黙ってから、静かに問いかけた。
「……なぜ、そんなことを」
メイドの目に、涙が滲んだ。
「私は……レオナ様がかつて不正を暴いた貴族の娘です」
「数年前……私の父が関わっていた税の横領を、レオナ様が暴かれました」
「あの件で家は潰れ、父は処刑されました。母は病に倒れ、弟や妹は飢えに苦しんで……あの日から、あなたを憎んで生きてきました」
レオナの目が、一瞬だけ揺れた。
思い当たることがあったのだろう。しかしすぐに、静かに前を向いた。
「そこへロザミール侯爵に手を差し伸べていただきました。そして、恨みを晴らす機会を与えられました」
(なぜ、こんなことまでべらべらと……もう終わりだわ)
「つまり、復讐のために、メイドとして仕えていたのね」
「……はい。復讐が、私のすべてでしたから」
言いかけて、口を閉じた。
目に浮かぶのは、弟と妹の顔だった。
自分がいなくなった後の、二人の人生。
後悔と憎しみと、それでも消えない愛情が、涙になって流れていた。
***
レグニアが小さく呟いた。
「……相変わらずだな」
「身柄を確保せよ!」
グレンの号令が飛び、メイドは数人の騎士によってその場で拘束された。
レオナは一瞬、目を閉じた。
深く息を吸い、ゆっくりと吐く。それから目を開け、顔を上げた。
「これで、ロザミール侯爵が暗殺事件に関与していたという重要な証人が手に入ったわ」
静かな声だった。
だが、その奥に火があった。
「騎士団長、準備を急いで。これで侯爵は終わりよ」
(ここから先は、どんどん危険が積み重なっていくだろうな)
(でも、止まるわけにはいかないか)




