第11話 不運80%、無敵です
不運80%に調整した直後から、傭兵たちの様子がおかしくなった。
傭兵の一人が、俺たちを脅かすために剣を抜こうとした。
だが鞘の留め具が、なぜか異常に固い。
力任せにガチャガチャしながら前に進む。
留め具に気を取られ、足元には注意がいかない。
路面の石畳で足を滑らせ、派手に背中から転倒。
頭をゴンと打ちつけ、白目を剥いてそのまま失神する。
(さすがに、不運80%!)
(やることなすこと、見事に不運な方向に進むな)
「お、おい! 急に転ぶなって! 巻き込むなって!」
慌てた背後の傭兵が、倒れた傭兵に思いっきり足をぶつけて体勢を崩す。
失神中の傭兵が脇腹を蹴り上げられ、クワッと目を開く。
しかし、そのまま動かなくなる。
一人目、沈黙。
「おっととと」
足をぶつけた傭兵が、バランスを崩し、倒れそうになる。
慌てて、路面に手をつこうとする。
しかし、そこは水たまり。
ズルッと滑って顔面から石畳にダイブ。
「ぶぎゃっ!」
鼻血と一緒に前歯が飛び散った。
二人目、戦意喪失。
「はぁ!? お前ら何してんだよ! あっ、ちょっ……足が、つ、つった!」
一番後ろで様子を眺めていた傭兵が、急に足を押さえて飛び跳ね始めた。
片足ケンケンで奇妙なステップを踏み、まるで酔っ払いの踊り。
無理に壁に手をつこうとして――ゴキッ。嫌な音が響く。
「ぎゃああああ!」
自分の体重で手首を骨折、そのままうずくまって泣き叫ぶ。
はい、三人目も戦意喪失。
「バカかよ、お前ら……ん? うわああああっ!」
残りの傭兵二人が前に出る。
一人は剣を、もう一人は槍を手に持っていた。
しかし剣の傭兵が、路上に転がっていた犬の糞を思いっきり踏む。
豪快に尻もちをついて、尾てい骨を打ち、痛くて涙目のまま動けない。
さらに不運の連鎖は止まらない。
尻もちをついた拍子に槍が横向きに倒れ、一歩前に踏み出した槍の傭兵の尻に、ドスッと突き刺さった。
「ぐおおおおっ!?」
尻に槍が刺さった傭兵が、痛さのあまり飛び跳ねる。
壁に槍の柄が当たり、更に深く突き刺さった。
「ぎゃあっ、ぎゃあっ!」
もはや怖くて、少しも動けなくなる。
涙目の金縛り状態だ。
これで、四人目、五人目とも戦意喪失。
ガルドが、呆然としたまま口を開いた。
「……ケイス様。これは、いったい」
「たまたま、じゃないかな。運良くいってるんだ。気にせずいこう」
元・店主たちは顔を見合わせ、それからじわじわと笑い出した。
誰かが「なんとかなりそうだ」と呟き、全員が深く頷いた。
(不運の五連コンボだ!)
(幸運80%の元・店主たちに、不運80%の傭兵が挑むとこうなるんだ)
***
レグニアは傭兵たちを眺め、呆れたように小声で呟いた。
「敵が勝手に自滅していく……これはある意味、最強だぞ」
「いや……最凶の方か」
「そうかもしれない」
「とにかく……絶対に敵にしたくない相手だ」
「だれも、こんな情けない負け方は死んでも嫌だ」
***
「傭兵どもは、動けなくなったみたいだし」
「今のうちに、店の中に乗り込みましょう」
「ケイスさん、私、いま、人生で最高にツキが回ってきている気がするんです」
「私も同じです。なにをやっても上手くいかせる自信があります」
元・店主たちが力強い眼差しで頷いている。
(元・店主たち、無敵モードに突入か?)
「もう騙されない。絶対に奪われないぞ!」
「今度は俺たちが、人生を取り戻す番だ!」
元・店主たちの一人が、木の扉を蹴り開けた。
そして、全員で中に入る。
***
帳簿がきれいに並び、豪奢な椅子が置かれた室内。
部屋の中は、まるで貴族の迎賓室のようだ。
だがそこにも三人の傭兵が待ち構えていた。
「誰だ、てめぇら! 無断で入ってくんじゃねぇ!」
傭兵三人が縦に並んでゆっくり近づいてくる。
全員が腰の剣に手をかけ、先頭の一人が抜きかけた刃をこちらへ向けた。
ケイスはその瞬間、スキルを発動。
傭兵たち全員の運を、不運80%に調整した。
「うわっ!?」
一番後ろの傭兵が、普段なら絶対転ばない床のほんの小さな段差に躓いた。
傭兵は足をもつれさせて、真ん中にいる傭兵にぶつかる。
ぶつかられた傭兵の抜きかけた剣が、先頭の傭兵のケツに刺さる。
「ぎゃあああっ! ケツに!」
「済まない。わざとじゃないぞ」
ケツから、慌てて引き抜いた剣の柄が、後ろの傭兵の股間に炸裂。
「ぐわああっ! 金的が……!」
そのまま仰け反り、棚の角に頭をぶつけて昏倒。声も出なくなった。
「わ、悪い!」
急いで剣を前に。
「ひぃぃ! またケツに! てめぇ、二回もふざけんなよ!」
ケツに二度も剣を刺された傭兵が、剣を抜いたまま、後ろを振り返る。
だが、よろけてバランスを崩し、支えようと床についたはずの剣が、間違って後ろの傭兵の足に突き刺さる。
「いってぇぇぇ! 仕返しか!」
「ちがう」
「おい、足から剣を抜くなよ」
「血が止まらなくなるからな」
「うるせえ! 俺のケツの血はどうすんだよ!」
「とにかくお互い落ち着こう」
「そうだな」
「それにしても、なんだよこれ!」
「呪いか何かなのか!?」
(不運の三連コンボ達成!)
(もう動かない方がいいよ)
傭兵たちは、本能的に動くと危険だと判断。
とにかく、怖くてピクリとも動けない。
ひたすら、脂汗を垂らしながら、じっと痛みに耐えている。
***
(よし! 傭兵たち、動けないようだ)
ケイスはゆっくりと息を吐き、冷静にガルドたちへ告げた。
「奴らはもう動けない。奥へ進みましょう」
ケイスは慎重に、奥の部屋へと歩を進めた。
動けず呻く傭兵たちを横目に、ゆっくりと一歩ずつ。
そこには、ガルドや職人たちからすべてを奪った"あの男"がいるはずだった。




