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モラハラ婚約者があまりにも酷いので、やり返すことにした【連載版】  作者: セトガワ トウ


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20/25

20話 嫌がらせされてます

 放課後に学校でチラシを配っていたところ、アレジオに軽く小突かれた。


「少し話がある。ついてくるんだ」

 

 彼は有無を言わさず、どんどんと廊下を歩いていく。

 私が確実にくると確信しているからだし、実際そうしなきゃいけないのは少し悔しいね。

 ひと気のない廊下の端で立ち止まると、目をつり上げながら詰問する。


「店のオープンってどういうことだい? なぜ、僕に黙ってそんなことをする? なにが狙いか、簡潔に答えるように」

「ええと、チラシの通りですよ。私も商売を始めようと思いまして」

「なぜ始める?」

「借金返済がキツいんです」

 

 どこかの伯爵家様がケチって中々出してくれないから。

 そう口に出そうになったけど、喉元で止めておいた。

 これ以上アレジオを興奮させるのも面倒くさそうだ。

 アレジオは一度、深く呼吸をした後に言う。

「なら、そこは父上に頼んでおくよ。その代わり、店のオープンは無しだ」

「それはちょっと……」

「なぜ? まさか君、借金返済してウチとの縁を切ろうとしているのか?」

 

 アレジオめ、こういうときは中々鋭い読みをするよね。

 私の肩を掴んできたんだけど、ミシというくらい力が入っていて痛い。

 

「そんなこと、言ってないじゃないですか」

「僕は認めないよ。どうしてもオープンしたいなら、夏休みの間だけなら許す」

 

 夏休みなんて、まだ数ヶ月先のことだ。

 一旦中止させて、あとは有耶無耶にする作戦だろう。

 その手にはのりませんよ、と。


「いくらアレジオ様でも、私の行動をそこまで制限できません。そんな契約書があるのなら、私の前に持ってきてくださいね?」


 アルミラが食べてくれたので、妻の利益は夫のもの……という巻物はこの世にない。


「クッ……」


 血が滲むほど唇を噛みしめるアレジオに背を向けて、私は軽やかステップでチラシ配りに戻った。


 ロリナも手伝ってくれたおかげもあり、すべて渡し終えた。

 二人で達成感に包まれながらハイタッチをする。

「いい感じね。あんたの店、流行るんじゃない?」

「そうなったら、ロリナのおかげですね」

「まーねー」


 二人で楽しく話しながら玄関口を出たときのことだ。

 ビリビリに破り捨てられた紙が落ちているのに気づく。

 嫌な予感がしつつ拾い上げて繋げると、私が印刷したチラシだと判明する。


「ハァ!? 誰よ、こんなことしたの!」

 

 ロリナは周囲を見回すが、私たち以外には人がほとんどいない。


「性格悪い奴もいたものね。リナリー、あんまり気にしない方がいいわよ」

「はい、そうします」

 

 そう答えたが、実際は犯人がわかっていた。

 ……絶対にアレジオでしょ!

 さっきの仕返しもあるだろうけど、多分私が稼ぐことを警戒している。

 アレジオからすれば、私が貧乏であることでマウントを取れるからだ。

 それに店が大成功したら、家同士のパワーバランスも少し変わる。

 だから、あんなに必死だったんだ。

 モヤモヤしながら、この日は帰った。

 

 翌朝、学校に行く前に店舗に立ち寄って、私は心臓が止まりそうになった。


「——なに、これ……」


 この間掃除して綺麗になった庭が、ゴミだらけだったのだ。

 誰かが少し捨てたってレベルじゃない。

 庭が埋め尽くされるくらいやられている。

 腐った野菜や肉、馬糞のような汚い汚物などが多かった。

 犯人は一人じゃないと思う。

 ほんの一晩でこんな量を捨てるのは人数かけないとできない。

 アレジオが息のかかった者にやらせたか、そういう輩を雇ったのだろう。


「負けてなるものかっ——!」

 

 私はスコップを取り寄せ、すぐに作業に移った。 

 あらゆるお掃除グッズを使用しても、綺麗にするには何時間もかかった。

 学校についたのは、昼休みの終わり頃だった。

 教室に行くなり、私はアレジオの元に向かう。


「……アレジオ様は、絶対に私の邪魔をしたいんですね」

「ン? 遅れてきたと思ったら、急にどうしたんだい?」

 

 首を傾げながら、アレジオは不思議そうな顔をした。

 この演技に、私は腹の底から怒りが沸いてくる。


「私の店舗の庭に、ゴミが捨てられていました。ご存じありませんか?」

「ご存じありませんよ〜。なぜ、僕がそんな真似をするのかな。証拠でもあるのかい?」


 私の怒りの猛攻もここで難なく止められた。

 ないんだよね……証拠が……。

 昨日の帰りの時点では綺麗だったから、おそらく夜中にやられたのだろう。

 そうなると目撃者も少ないし、いてもその人たちとアレジオの関係性を繋げるのは難しい。


「婚約者を疑うなんて、人として良くないぞリナリー。謝ったら、今回だけは許そう」

「……すみませんでした」

「それでいい。女は素直で従順なのが一番だからね、ハハハ!」

 

 アレジオの高笑いはだいぶ神経にくるけど、ここは我慢して教室を出ていく。

 今夜はトレイルカメラでも設置しようか?

 いや……もうこうなったら店舗に寝泊まりするしかない!

 ただ、そうなると不安もあった。


「——リナリー? リナリ−、聞こえる?」


 ハッ、とする。

 気づくと私のすぐ横にフィロー様がいて何度も声をかけてくれていた。


「ご、ごめんなさい。考え事をしていて!」

「うん、そんな感じしたよ。かなり思い詰めてたね」

「……お店のことで、ちょっと」

「良かったら、少し話してみてよ。僕できることがあれば協力する」


 顔だけじゃなくて内面までイケメンやー!

 心の中で崇めながらも、私はいま受けている嫌がらせのことについて相談した。

 一応、アレジオが犯人だと疑っていることは伏せる。

 確証もないしね。

 話を聞いたフィロー様の目つきが鋭くなった。

 普段の柔らかくて大らかな雰囲気とは違って、デキる将軍みたいな目つきだ。


「リナリーは、どうするつもり?」

「店舗に泊まろうかなって」

「仮に今夜も来たとして……相手は一人とは限らない。暴力的な手段に出るかもしれない。対応できる?」

「うぅ……」

 

 ハッキリ言って全く自信がない。

 戦うための武器は取り寄せられる。

 ただ、私自身が戦闘能力に長けるわけではないからだ。

 こっちの世界の剣や魔法を使う荒くれに襲われたら、あっさりと殺されるかも。

 私の困った様子を目にしたフィロー様は、即決した。


「僕も行くよ」

「えっ!? そ、そんなのダメですよ!」

 

 私事で王子に怪我させるなんてあってはいけない。

 でもフィロー様の決意は固いようで、首をゆっくりと横に振る。


「いや、行く。大丈夫、策があるんだ」

「ほ、本気ですか? 危険な目にあうかもしれないんですよ……」

「危険な目にあうのは、相手の方さ。それじゃ今夜、お店に向かうね」

 

 フォロー様は爽やかなウインクを残して歩き去っていく。


「お城の強い兵士と一緒に来てくださいねー!」

 

 大きな声を上げると、片手をあげて応えたのでホッとする。

 城の訓練された精兵であれば、悪い輩が相手であっても怖くない。

 教室に戻ると、ロリナが私の肩に手をかける。


「あんた、午前中どうしたの? なんかあった?」

 

 私は一瞬言葉に詰まる。

 お店のことを伝えて、ロリナにも今夜協力してもらおうか?

 彼女なら炎の使い手として優秀だし、十分な戦力になってくれる。

 

「……いえ、少し寝坊しちゃって」

「昼までって寝過ぎよ。どうせ夜更かししてたんでしょ?」

「そんな感じです」

 

 ロリナなら協力してくれるだろうが、今回は伝えずにおく。

 お城の兵士が手伝ってくれるし、危険な事には巻き込みたくない。

 


 家で夕食を終えると、私は店舗に向かう。

 周囲は薄暗くなっており、ここから徐々に夜も深まっていく。

 お店に着いて、まずホッとした。

 庭は綺麗なままだ。

 やっぱり日中のひと目があるときは、変なことできないよね。

 扉を開けようとしたとき、人の気配がして振り向く。


「リナリー、待たせたね」

「フィロー様……」

 

 私はフィロー様の近くにいき、周囲を確認する。

 

「お城の兵士の方は……?」

「いないよ」

「後から、合流するんですね」

「いや、来ないよ」

「……え?」

「僕一人だけだよ。兵士も必要ないかなって」

 

 一点の曇りもない笑顔を浮かべ、爆弾発言をするフィロー様。 

 ——アルミラーッ!!

 美味しいご飯いくらでもあげるから、いますぐ助けにきてっ!

 私は心の中で叫びながら、すっかり暗くなった夜空を仰ぎ見た。


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