頼もしい仲間
「わたしが『氷の魔女』のシルフィアよ! Aランク冒険者なんだから、アンタたちみたいなBランク風情が気軽に話しかけていい相手じゃないのよ、本来ならね!」
「……へえ、へえ。そりゃあすごいこって。俺はボルグだ。こっちのうるせぇのがシエルで、無愛想なのがクローザー。俺たちも一応、Bランクのパーティだ」
テアトラムの活気ある食堂の大きなテーブル。
ドヤ顔で胸を張るシルフィアに対し、ボルグは腕を組みながら、まだ半信半疑といった様子で自己紹介を返した。
ボルグも『氷の魔女』の噂は聞いていた。
しかし、何十匹もの魔物を一瞬で氷像に変える大魔導士が、まさか自分の腹の辺りまでしか背丈のない幼女だとは、想像もしていなかったのだ。
「……にしても、お前みたいな小っちぇえのがAランクねぇ……。魔法の腕は確かかもしれねぇが、体力とかすぐ切れそうだな」
「なっ……! 誰が小さいのよこの筋肉ダルマ! わたしの魔法の前にひれ伏しなさいよ!」
「わわっ! 二人とも、ここで魔法使うのはナシですよ!」
イザヨイが慌てて制止に入るが、その横で、目をキラキラと輝かせている人物がいた。
「まーっ! シルフィアちゃん、なんて可愛いのっ!」
「えっ……な、なによ……」
シエルが、身を乗り出してシルフィアの手を両手でギュッと握り締めた。
突然のスキンシップに、シルフィアが戸惑いながら後ずさる。
「Aランクなんて関係ないわ! こんなに小さくて一生懸命で……。ああっ、お姉さんが美味しいケーキ、いっぱい頼んであげるからね! 髪の毛も結び直してあげようか?」
「だ、だから子供扱いするな……っ! イザヨイ! 何とかしなさいよ、この人!」
母性が暴走しきったシエルの怒涛のハグ攻撃に、シルフィアはタジタジになりながらイザヨイに助けを求めている。
イザヨイの「お姉さん(というより同性としての頼もしさ)」とはまた違う、完全な「母親」ムーブをかましてくるシエルは、ツンデレのシルフィアにとって苦手なタイプらしい。
「……全く、どこに行っても騒がしい連中だ」
クローザーが、カオスと化したテーブルの端で、一人静かに深い溜息をついた。
だがその鋭い視線は、周囲の客や入り口に向けられ、常に警戒を怠っていない。
「ははは……。まあまあ、みんな仲良くしましょうよ」
イザヨイが苦笑いしながらシエルを引き剥がし、ようやくテーブルに落ち着きが戻った。
「それで、イザヨイ。この街の現状はどうなっているんだ? 道中、魔物の死骸が転がっていたが……」
ボルグが表情を引き締め、本題を切り出した。
シエルとクローザーも、真剣な顔でイザヨイに視線を向ける。シルフィアもフォークを置き、静かに耳を傾けた。
「……うん。ここ数日、テアトラムは二度の大規模な魔物の襲撃を受けたんだ」
イザヨイは、街の人やシルフィアから聞いた情報を整理して、三人に説明を始めた。
オーガやオークを含めた数百匹の魔物のスタンピード。
シルフィアの活躍によって城門の突破は免れたものの、被害は甚大であること。
そして、その襲撃がただの自然発生的な暴走ではなく、森の奥に潜む『黒い瘴気を纏った謎の魔物』によって統率されている可能性が高いこと。
「黒い瘴気……。ダイーザが言っていた噂と一致するな」
「ああ。偶然ではないだろう。その『親玉』を放置しておけば、いずれまた大規模な襲撃が起きる」
クローザーが冷静に分析する。
「そう。だから今は森に偵察を出して、敵の動きを探りつつ防衛を固めている段階なのよ。……わたしとイザヨイは、次に奴らが攻めてきた時、確実に仕留めるためにここで待機してるってわけ」
「なるほどな。事態の深刻さは分かった」
ボルグはドンッとテーブルを叩き、力強く宣言した。
「だったら、俺たちもこの街の防衛に加わる! イザヨイとお前だけに、こんな危険な役回りを押し付けるわけにはいかねぇからな!」
「当然よ! イザヨイちゃんの背中は、私たちがしっかり守るんだから!」
「……俺の矢も、好きに使ってくれ」
三人の頼もしい言葉に、イザヨイはふわりと嬉しそうに笑った。
「ありがとうございます、皆さん。すごく心強いです」
「ふんっ。まあ、Bランクが三人も増えれば、雑魚散らしの手間くらいは省けそうね。特別に、このシルフィア様の指揮下に入ることを許可してあげるわ!」
シルフィアが偉そうにふんぞり返るが、その口元は微かに緩んでいた。
最強の美少女魔導士、幼女魔導士、そして過保護なBランク三人組。
強力な戦力が集結したテアトラムの街で、来るべき『第三の襲撃』に向けて、共に英気を養うのだった。




