過保護との再会
それからあっという間に二日が経過した。
テアトラムの街には、あの絶望的な魔物の襲撃が嘘だったかのような、穏やかな平和が訪れていた。
商人たちの持ち込んだ物資のおかげで市場の活気も戻っている。
街の人々の顔からも、少しずつだが怯えた色が消え、「もしかしたら、もう魔物は来ないんじゃないか」という楽観的な空気が漂い始めていた。
そして、イザヨイにとってもう一つ良いニュースがあった。
駐屯所での騒動の後、領兵たちが「本物の氷の魔女はあっちの小さな女の子だ」と街中に必死に触れ回ってくれたおかげで、イザヨイが魔女だと勘違いされることは(ほぼ)なくなったのだ。
「ふふんっ! 当然よ! わたしの真の実力とカリスマ性が、ようやくこの街の連中にも理解できたってわけね!」
街を歩いていると、すれ違う住民から「シルフィア様ありがとうございます!」と声をかけられるたび、シルフィアは杖を振ってドヤ顔を披露していた。
「良かったね、シルフィアちゃん。これでやっと、美味しいお酒が頼めるんじゃない?」
「……お酒はまだいいわよ。フルーツ水の方が好きだし」
イザヨイがからかうと、シルフィアは少し頬を赤くしてプイッとそっぽを向いた。
平和な日常。このまま何も起こらず、十日後に王都の騎士団が到着すれば、この街の防衛クエストは無事にクリアとなる。
(おっぱい防具の職人探しも、マクミラン様がカルゼオンで進めてくれてるはずだしな。最高の展開だぜ)
イザヨイもまた、この平穏な空気にすっかり安心しきっていた。
そんな、ある日の午後。
広場でのんびりと立ち話をしていた二人の耳に、突然、聞き覚えのある……というより、絶対に聞き間違えるはずのない、バカでかい怒号が飛び込んできた。
「だから! 俺たちはイザヨイの仲間だっつってんだろうが!! さっさと通しやがれ!!」
「ちょっとボルグ、落ち着きなさいよ! 兵士さん、怪しい者じゃありません。私たちはカルゼオンからの増援の冒険者でして……」
「気持ちは分かるが冷静になれ」
「えっ……?」
イザヨイが弾かれたように振り返ると、広場の入り口、検問を行っている領兵たちの前で、見覚えのある巨漢の戦士、法衣の僧侶、そして弓使いの三人が、盛大に揉め事を起こしていた。
「ちょっ、あの人たち……!!」
イザヨイが慌てて駆け出すと、揉め事の張本人たちもイザヨイの姿に気付いた。
「「「イザヨイ(ちゃん)ッ!!!」」」
ボルグ、シエル、クローザーの過保護三人組は、領兵の制止も振り切り、弾丸のような猛スピードでイザヨイの元へと突進してきた。
「なんでここに!?」
「なんでじゃないわよ!!」
シエルが涙目でイザヨイに飛びつき、ギュッと抱きしめた。
「あんたが突然『テアトラムの防衛に行ってくる』なんて伝言だけ残して消えちゃったから、私たちがどれだけ心配したと思ってんのよ!!」
「そうだぞイザヨイ! 魔物の大群に襲撃されてる街に、お前一人で行かせるわけにいかねぇだろうが!! 馬を潰す勢いで追いかけてきたんだぜ!!」
ボルグも顔を真っ赤にして、興奮気味に身振り手振りを交えて叫ぶ。
「……無事で何よりだ。怪我はないな」
クローザーは一歩引いた位置から、安堵の息を吐きながら鋭い視線でイザヨイの全身(怪我の有無)をチェックしている。
「あはは……。みんな、本当に来てくれたんだ」
イザヨイはシエルに抱きつかれたまま、呆れと同時に、深い温かさを感じていた。
伝言を残したとはいえ、こんな危険な戦地に、ただのパーティメンバーの一人のために、命がけで駆けつけてくれたのだ。
「でも、どうやってここまで? 馬車でも四日はかかる距離なのに……」
「そりゃあお前、ボルグが『一番速い馬と馬車を言い値で買え!』って大騒ぎして……」
「わぁぁっ!! それ以上は言うなシエル!!」
ボルグが顔を真っ赤にしてシエルの口を塞ごうとする。
その様子を見て、イザヨイはついに堪えきれずに吹き出した。
「ふふっ、あははははっ! もう、本当にみんな過保護すぎるよ! でも……ありがとう。来てくれて嬉しいよ」
イザヨイが心からの笑顔を向けると、三人もホッとしたように顔を見合わせ、笑い合った。
だが、その感動的な再会シーンを、ジト目で睨みつけている存在が一人いた。
「……ちょっと、アンタたち。誰の許可を得て、わたしの後輩にベタベタ触ってんのよ」
「あん?」
ボルグが振り返ると、そこには、自身の身の丈ほどもある杖をドンッと地面に突き立て、腕を組んで不機嫌そうにふんぞり返る、ツインテールの幼女が立っていた。
「誰だこのチビッ子は。迷子か?」
ブチッ。
シルフィアの堪忍袋の緒が、本日も盛大に切れる音がした。
「チ……チビッ子だとぉぉぉッ!? わたしはAランク冒険者の『氷の魔女』シルフィア様よ!! テアトラムの防衛の要に向かって、なんて口の利き方してんのよ、この筋肉ダルマァッ!!」
「な、なんだとコノヤローッ!!」
「ちょ、二人ともストップ! 落ち着いて!!」
イザヨイが慌てて二人の間に割って入る。
再会の感動はどこへやら。
過保護な仲間たちと、ツンデレなAランクロリ先輩の、プライドを懸けた新たな修羅場が、テアトラムの広場で幕を開けるのだった。




