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シルフィアの覚悟

「本当に申し訳ございませんでした……! 氷の魔女様の御尊顔を存じ上げず、大変な非礼を……!」

「ふ、ふんっ! 分かればいいのよ! 次は間違えないでよね!」


 駐屯所の片隅で、イザヨイが懸命にシルフィアの背中を撫でて慰める。


「よしよし、お姉さんが悪かったからね」


 勘違いしたテアトラムの兵士たちが平謝りするという地獄のような時間が十数分続いた。

 ようやくシルフィアの涙も乾き、機嫌が(表面上は)直ったところで、騒動は収束を見せた。


 兵士たちの言い分によれば、襲撃の最中は大混乱で、シルフィアの姿を間近で見た者は少なく、「すごい大魔法を使ったAランクの女冒険者」という情報だけが一人歩きしてしまっていたらしい。

 そこに、いかにも大魔導士然としたイザヨイが現れれば、勘違いするのも無理はない。


「コホン。……お見苦しいところをお見せしました。シルフィア殿、改めて我々テアトラム領兵一同、貴女のこれまでのご尽力に心より感謝申し上げます」


 テアトラムの兵士長が深く頭を下げ、ようやく会議の本題が切り出された。


「さて、本題です。昨日の作戦会議の通り、我々は防衛に専念しつつ、敵の動向を探る方針を固めました。……本日中には、少数精鋭の斥候部隊を『迷いの森』の入り口付近へ派遣します。これで、敵が再び大群をなして襲撃してくるタイミングや、動きの兆候は掴めるはずです」

「ええ、それが賢明ね。親玉が動く兆候があれば、わたしもすぐに対応できるわ」


 シルフィアは腕を組み、先程のダダっ子が嘘のように、凛としたAランク冒険者の顔つきで頷いた。


(本当、情緒のアップダウンが激しい子だな)


 その切り替えの早さに、イザヨイは内心で苦笑する。


「そして……シルフィア殿に、折り入ってお願いがございます」


 兵士長は居住まいを正し、真剣な眼差しでシルフィアを見つめた。


「実はこの非常事態を受け、王都へ急使を送っております。おそらく、十日もあれば王都の騎士団本隊がここへ到着し、我々に加勢してくれる手筈となっております」

「王都の騎士団が? へえ、それは心強いわね。で、お願いって?」

「はい。……それまでの間、どうかこの街に滞在し、引き続き防衛の要として我々に力を貸していただきたいのです」


 十日間。

 それは、いつ襲ってくるか分からない恐怖と対峙し続けるには、あまりにも長く、神経を削られる期間だ。

 ましてや、相手はただの冒険者。危険な街を見捨てて安全な土地へ逃げる権利も十分にある。


 だが、シルフィアは一秒の迷いもなく、堂々と胸を張った。


「当然でしょ。最初からそのつもりよ」


 その声には、子供っぽさなど微塵もなかった。

 そこにあったのは、強者としての自覚と、弱者を守り抜くという気高い覚悟だけだ。


「わたしがこの街を見捨てるわけないじゃない。あの不気味な黒い瘴気を払って、この街の人が本当に安心して眠れるようになるまで、わたしは絶対に逃げないわ」

「……っ! ありがとうございます! なんと頼もしい……!」


 兵士長が感激のあまり感涙し、深く頭を下げる。

 周囲の兵士たちからも、今度こそ本物の「氷の魔女」への深い尊敬と感謝の眼差しが向けられた。


(カッコいい……。やっぱりこの子、中身はちゃんと『英雄』なんだな)


 横で見守っていたイザヨイも、改めてシルフィアの背中の大きさに感心し、自然と笑みがこぼれた。


(……ってことは。十日経てば騎士団が来て防衛も安定する。つまり、俺のおっぱい防具の職人探しも、安全に再開できるってことだな!)


 イザヨイの中身おっさんゲーマーとしての打算的な計算も、しっかりと成り立っていた。

 王都の騎士団が来れば、この防衛クエストはクリア扱いになるだろうし、それまでに黒い瘴気のボスを倒せれば完璧だ。


「よしっ! 私も、それまでシルフィアちゃんと一緒にこの街を守りますよ!」

「アンタはEランクなんだから、わたしの足手まといにならないように、しっかり後衛でサポートしなさいよ! 間違っても前に出ないこと!」


 イザヨイが元気よく宣言すると、シルフィアは「ふんっ」と鼻を鳴らした。


(俺も前に出たいんだけど……まあ、今は立てておこう)


「はいはい、了解です、シルフィア先輩!」

「よ、よろしい!」


 イザヨイがからかうように敬礼すると、シルフィアは少しだけ照れたように顔を赤くした。


 テアトラムの防衛戦は、まだ終わらない。

 正体不明の黒い瘴気と、いつ来るとも知れない第三の襲撃。

 天才幼女魔導士と、チート魔導士(おっぱい防具難民)の二人は、来るべき決戦に向けて静かに闘志を燃やすのであった。

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