勘違い再び
二人は肩を並べてテアトラムの街を巡回し続けた。
シルフィアが杖を鳴らして歩く姿を見ると、街の人々は確かに安堵の表情を浮かべ、声をかけてくる。
その度にシルフィアは、
「ふんっ、任せなさい!」
と、偉そうに(しかしどこか照れくさそうに)胸を張って応えていた。
そんな平和な巡回を続けていると。
「あ! おられましたか、シルフィア様!」
背後から、テアトラムの領兵が慌てた様子で小走りに駆け寄ってきた。
「何よ。また魔物でも出たの?」
「いえ、襲撃の兆候は現在のところ確認されておりません。ですが、カルゼオンからの増援部隊との合同で、今後の防衛と森への偵察作戦について最終確認を行いたいとのこと。至急、北門の駐屯所までお越しいただけますでしょうか」
領兵の言葉に、シルフィアはキリッとしたAランク冒険者の顔つきに戻り、深く頷いた。
「分かったわ。すぐに行くわよ。……アンタも来るんでしょ、イザヨイ」
「うん、お供しますよ」
イザヨイも頷き、二人は領兵の案内に従って北門の駐屯所へと向かった。
駐屯所は、前線の緊張感が漂う物々しい空気に包まれていた。
テアトラムの兵士たちと、アンドリュー率いるカルゼオンの白銀の騎士たちが入り混じり、地図を囲んで慌ただしくやり取りをしている。
その中へ、イザヨイとシルフィアが足を踏み入れた。
「シルフィア殿、お待ちしておりました。こちらへ……」
作戦の指揮を執っていた武官が二人を迎え入れようとした、その瞬間だった。
「おお……」
「な、なんて美しい……」
「……見ろよ、あの服……それに、あの……っ」
駐屯所にいたテアトラム側の兵士たちの視線が、一斉に、そして完璧にイザヨイへと釘付けになった。
無理もない。
血と泥と汗に塗れた兵士たちが集まる無骨な屯所に、夜空の星を織り込んだような豪華絢爛な『星屑の聖衣』を身に纏い、透き通るような銀髪と、コルセットで爆発的なボリュームを誇示する双丘を揺らす、絶世の美少女が現れたのだ。
そして、その場にいた一人の若いテアトラム兵が、完全に魅了された顔でポツリと呟いてしまった。
「……あれが、噂の『氷の魔女』様か……。なんと神々しい……」
「「「おぉぉ……!!」」」
「美しい……!」
その一言を皮切りに、テアトラムの兵士たちの間で感嘆のどよめきが連鎖的に広がっていった。
「ち、違う! あのお方はイザヨイ殿だ!」
カルゼオンの騎士の一人が慌てて訂正しようと声を上げるが、その声は兵士たちのどよめきに掻き消されてしまう。
そしてその惨状を、イザヨイの足元で聞いていたシルフィアの堪忍袋の緒が――昨夜に引き続き、木っ端微塵に吹き飛んだ。
「きぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃッッ!!!」
「ひゃっ!?」
イザヨイが悲鳴を上げて飛び退くほど、シルフィアは真っ赤な顔をして大爆発した。
「だぁぁぁかぁぁぁらぁぁぁッ!!! わたしが!! わたしが本物の『氷の魔女』シルフィアなのよぉぉぉっ!!」
シルフィアは持っていた大きな杖を「ドバンッ!」と床に叩きつけ、涙目で地団駄を踏みながら周囲の兵士たちを睨みつけた。
「なんでアンタたち揃いも揃って目ぇ節穴なのよ!! そのデカおっぱいはEランクのただのド新人! 魔物を凍らせてアンタたちを助けてあげたのは、このわたしなの!! なんで誰も信じてくれないのよぉぉぉっ!!」
「え、あ、いや……」
兵士たちは泣き叫んでダダをこねるシルフィアと、戸惑ったように苦笑いするイザヨイを交互に見比べ、困惑してしまった。
「うぇぇぇんっ! もう知らないっ! 魔物が来ても助けてあげないんだからぁっ!」
ポロポロと涙を流し、イザヨイのドレスの裾を八つ当たりのようにバンバンと叩くシルフィア。
(あーあ……。さっきの「無理して日常を保つ人たちを守る」って言ってた、超カッコいいAランク冒険者の威厳が、綺麗さっぱり消え失せちゃったよ……)
イザヨイは顔を引き攣らせながら心の中で深くため息をつき、ひたすら苦笑いするしかなかった。
いくら立派な志を持っていようとも、彼女の根幹にあるのは「子供扱いされたくない、認められたい」という年相応(?)の承認欲求なのだ。
それが、イザヨイの「大人の女の象徴」の前に理不尽に粉砕されるのだから、彼女の悲劇には同情の余地がある。
「あー、ごめんねシルフィアちゃん、ほら、泣かないで」
「アンタが慰めると余計に惨めなのよぉぉっ!!」
前線の緊張感が漂う駐屯所は、天才魔導士(見た目幼児)の理不尽な号泣と、困惑する兵士たちによって、完全にカオスな空間へと変貌してしまうのだった。




