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街の現状

「急げ! 少しでも早くテアトラムへ到着するのだ! 馬を潰しても構わん!」


 カルゼオンを出立した増援部隊は、馬を休ませる時間すら惜しんで街道を北へと急いだ。

 通常の商隊や冒険者の足ならば5~6日はかかるという距離を、軍馬の限界を引き出し、交代で御者を引き継ぐという強行軍によって、2日以内で走破するという無茶な計画だ。


(まあ、エターナルクレイドルでもエリア間のファストトラベルが開放される前は、騎獣(マウント)で延々とフィールドを走ってたしな。こういう長距離移動もRPGの醍醐味ってもんだ)


 中身がゲーマーのイザヨイにとって、馬車の激しい揺れによる『おっぱいの揺れとコルセットの食い込み』という物理的苦痛さえ我慢すれば、あとはただ風景を眺めているだけなので、どうということはなかったのだ。


 そして、翌日の日が暮れ、空が深い群青色に染まり始めた頃。


「……見えました! 前方、テアトラムの城壁です!」


 先頭を走っていた騎士の声に、アンドリューが手綱を引き絞る。

 イザヨイも馬車の窓から顔を出した。


「うわ……こりゃあ、すげぇな」


 街道の先に見える、高い石造りの城壁に囲まれたテアトラムの街。

 しかし、イザヨイの目を引いたのは街の威容ではなく、その城壁の周囲に広がる光景だった。

 血の匂いと腐臭が立ち込める平原には、無数のゴブリンやオークなどの魔物の死骸が、文字通り散乱していたのだ。

 地面は魔法の炎で焼け焦げ、あちこちに矢が突き刺さっている。

 まさに、激しい防衛戦が行われた生々しい爪痕だった。


「急げ! 街の状況を確認する!」


 アンドリューの号令で、部隊は死骸の転がる平原を抜け、街の正門へと駆け寄った。

 堅く閉ざされていた門の前では、煤けた鎧を着た領兵たちが、バリケードの修復や負傷者の搬送などの作業に追われていた。


「誰だっ!?」


 警戒して槍を構える領兵たちに対し、アンドリューが馬上から大声を張り上げる。


「私はカルゼオン領主が嫡男、アンドリュー・ヴェルリス! これより我が部隊は、テアトラムの防衛増援として合流する! 門を開けい!!」

「ヴェ、ヴェルリス卿の部隊か! 助かった、よくぞ来てくださいました!」


 領兵たちの顔に安堵の色が浮かび、重い軋み音と共に城門が開かれた。


 馬車から降り立ったイザヨイは、街の中を見回してホッと息を吐いた。

 外の凄惨な光景とは打って変わって、街の建物には破壊された様子はなく、石畳も綺麗なままだ。

 どうやら、領兵と冒険者たちの決死の防衛線により、魔物の侵入は防がれたらしい。

 とはいえ、広場には怪我をして座り込む人々や、疲れ果てて眠りこける兵士たちが溢れており、街全体が野戦病院のような様相を呈していた。


「母上! エレノア! 無事ですか!?」


 アンドリューは馬を降りるなり、血相を変えて避難民の群れの中へと飛び込んでいった。

 彼の焦りは無理もない。

 これほどの大規模な襲撃が行われた後だ。いくら街の内部が無事とはいえ、家族の顔を直接見るまでは安心できないだろう。


 しかし、避難してきた人々や兵士たちが入り乱れるこの喧騒の中で、特定の人物を探し出すのは困難を極めた。


「すまない、ヴェルリス家の方々を見なかったか!?」


 アンドリューが手当たり次第に声をかけるが、疲れ切った人々は首を横に振るばかりだ。


(ふーむ。家族探しはイケメン騎士様たちに任せるとして。俺は俺で、仕事の状況確認をしないとな)


 イザヨイはアンドリューとは別行動を取ることにした。

 魔物の襲撃は今のところ『追い払った』状態らしいが、これで終わりとは限らない。

 敵の編成、異常発生の兆候、そして何より――ダイーザが言っていた『異常な黒い瘴気を纏った化け物』の正体。

 それを突き止めなければ、クエストクリアにはならないだろう。


「すみません、ちょっといいですか?」


 イザヨイは、広場の端で武器の手入れをしていた、比較的余裕のありそうな冒険者風の男に声をかけた。


「ん? なんだ嬢ちゃん、見ない顔だが……って、おおっ!?」


 男は振り返り、イザヨイの星空のようなドレスと絶世の美貌にギョッと目を丸くしたが、イザヨイはそんな反応を慣れた様子でスルーし、質問を重ねた。


「私、カルゼオンからの増援で来た者です。今回の魔物の襲撃について、詳しい状況を聞きたいんですけど……どんな魔物が攻めてきたんですか? 今はどこへ?」


 イザヨイの瞳に、ゲーマー特有の「情報収集(フラグ立て)」の鋭い光が宿る。

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