情報収集
「そうか、カルゼオンからの増援か。助かるぜ嬢ちゃん。ここ数日、マジで生きた心地がしなかったからな」
冒険者の男は、イザヨイの尋常ではない美しさに少し頬を染めつつも、安堵したように息を吐き出して話し始めた。
「最初はおかしなことなんてなかったんだ。何日か前から、ポツポツと魔物が街の近くに現れるようになったが……数も十匹に満たねぇくらいでな。ゴブリンとか、森の狼とか、その程度のもんだった。領兵や、俺たちみたいな手の空いてる冒険者で十分対処できるレベルさ」
「ふむふむ。それが、急に増えたんですね?」
イザヨイが相槌を打つ。
「ああ。何日か前の夜だ。突如として、森の奥から地響きが鳴ったと思ったら……百は余裕で超える魔物の大群が、街の城壁目掛けて押し寄せてきやがったんだよ!」
男は当時の恐怖を思い出したように、身震いをして身をすくめた。
「その時は、街中の兵士と冒険者が総出で矢を射掛け、魔法を撃ち込んで、なんとか撃退できた。……だが、地獄は今日だ」
「今日、二回目の襲撃があったんですね」
「そうだ。一回目よりも、さらに数は多かった。オークやオーガなんかのデカい魔物まで混じっててな。正直、今度こそ城門を突破されると覚悟したぜ」
イザヨイは少し眉をひそめた。
(オーガまで混じった数百の魔物のスタンピード。そんなのが押し寄せてきたら、いくら防衛線を張っても、城門の一つや二つは破壊されてもおかしくない。……でも、この街は完全に無傷だ)
イザヨイは、城壁の方へ視線を向けた。
激戦の痕跡はあるものの、防壁自体は強固に保たれており、魔物が内部に侵入した形跡はない。
「あの……カルゼオンの冒険者から、『異常な黒い瘴気を纏った化け物』が出たって噂を聞いたんですけど。それって見ましたか?」
ダイーザの言葉を思い出し、イザヨイが尋ねる。
「黒い瘴気? いや……そんな気味の悪いもんは見てねぇな。数は多かったが、魔物自体は普通の個体だったと思うぜ」
男は首を横に振った。
(噂のレアモンスターはいなかったのか。……じゃあ、なんでこの街はそんな無傷で済んでるんだ?)
イザヨイが不思議そうに首を傾げると、男はニヤリと得意げに笑って声を潜めた。
「嬢ちゃん、不思議に思ってるだろ? あの大群をどうやって防いだのかって」
「ええ、すごく気になります」
「へへっ。実はな……二回目の襲撃の時、この街にとんでもねぇ助っ人が居合わせたんだよ」
男の目に、畏怖と憧憬の色が混ざり合う。
「その名も、『氷の魔女』だ」
「氷の、魔女……?」
イザヨイの口から、間の抜けたような声が出た。
全く聞き覚えのない二つ名だ。エターナルクレイドルの知識の中にも、そんなNPCやボスキャラの記憶はない。
「ああ! ギルドじゃAランクに指定されてる、凄腕の女冒険者さ! 偶然この街に滞在してたらしいんだが、魔物の大群を見るなり、たった一人で城壁の前に立ってな」
男は興奮したように語り続けた。
「凄まじかったぜ! あの女が杖を振るった瞬間、押し寄せてきた何十匹ものオーガやオークの群れが、一瞬にしてカッチカチの『氷像』に変わっちまったんだ! その氷像が防壁代わりになって、後続の魔物どもが立ち往生したところを、俺たちが一斉に矢を射掛けたってわけさ!」
「へええっ! それはすごいですね!」
イザヨイは素直に感嘆の声を上げた。
対象を氷像に変える魔法。おそらくは《ダイヤモンドダスト》か、それに類する氷結魔法だ。
オーク戦で使用した魔法だが、何十匹もの魔物を一気に凍らせて物理的な防壁にするとは、なかなかトリッキーで面白い戦術である。
「もし、あの『氷の魔女』様がいなかったら、間違いなく城門は突破されて、今頃この街は血の海だっただろうぜ。本当に女神様に見えたね。あれで大きかったら惚れちまうところだった」
男は深く溜息をつき、空を仰いだ。
「なるほど。その『氷の魔女』さんの活躍があって、街は守られたんですね。よく分かりました、おじさん、色々と教えてくれてありがとうございます!」
「おう! 嬢ちゃんも、こんな物騒な時に来たんだから、あんまり無茶すんなよ! その可愛い顔に傷でもついたら勿体ねぇからな!」
「あはは、気をつけまーす!」
イザヨイは手を振り、男の元を離れた。
(Aランク冒険者、『氷の魔女』か……。俺以外にも、この世界で広範囲の高位魔法を使いこなせる人間がいるんだな)
中身がゲーマーのイザヨイにとって、強力な冒険者の存在は、非常に興味をそそられる情報だった。
「黒い瘴気」の魔物がいなかったのは気になるが、もし三回目の襲撃があるのなら、その『氷の魔女』と共闘する熱いイベントが発生するかもしれない。
(よし、他の人にも聞いてみるか……)
イザヨイは『星屑の聖衣』の胸元を軽く押さえ、足取りも軽く、喧騒の広場を再び歩き出すのだった。




