実用性重視
「さあイザヨイちゃん! 次はこの店よ! ここの服は王都の流行を取り入れてるから、すっごく可愛いの!」
カルゼオンの大広場。
シエルに腕を引っ張られるようにして、イザヨイは立ち並ぶ店の一つへと連行された。
店内には色とりどりのドレスや、フリルがあしらわれた可愛らしい普段着が所狭しと並んでいる。
「うわぁ、綺麗! これも似合いそう! あ、こっちの赤いのもイザヨイちゃんの銀髪に映えるわね!」
シエルは目を輝かせながら、次々と服を手に取り、イザヨイの体に合わせていく。
そのテンションの高さは、まさに「お気に入りの着せ替え人形を見つけた」時のそれだ。
だが、当のイザヨイの反応はといえば――
「あはは……。そうですね、綺麗ですね……」
顔を引き攣らせて、なんとか生返事をするのが精一杯だった。
(うわぁ……興味ねぇ……。というか、女の子のファッションの良し悪しなんて、中身が男の俺に分かるわけないだろ……)
並んでいる服は確かに仕立てが良いのだろうが、イザヨイから見ればただの布の塊である。
それに、本当に可愛い服を着たいのであれば、彼には切り札があるのだ。
(だいたい、可愛さと性能を両立した『星屑の聖衣』がインベントリにあるんだぞ。あんな最高レア装備と比べたら、その辺の店の服なんて全部コモンアイテムにしか見えないんだよなぁ)
ゲームのキャラクリで選び抜いた至高のデザインを知っているイザヨイにとって、この店に並ぶ服は、どれも視覚的な魅力に欠けていた。
「イザヨイちゃん、これ着てみて! 絶対似合うから!」
シエルが押し付けてきたのは、胸元に大きなリボンがついた、ヒラヒラとしたパステルカラーのワンピースだった。
「……えっと、シエルさん。お気持ちはすごく嬉しいんですけど」
イザヨイはワンピースを受け取るのをやめ、真剣な顔でシエルを見つめ返した。
せっかくの女子会(?)なのだ。
ここは、中身が男の自分一人では絶対に店員に聞き出せなかった、あの切実な悩みを、同性であるシエルの力を借りて解決する絶好のチャンスではないか。
「私、今探してるのは、可愛い服じゃないんです。……もっと、実用的な下着が欲しくて」
「えっ? 下着? 前にミスリル糸の下着を買ったじゃない」
シエルが不思議そうに首を傾げると、イザヨイは声を潜め、周囲を気にしながら身を乗り出した。
「実は……。これを、ガッチリとホールドして、絶対に揺れないように固定できる服が欲しいんです」
イザヨイは、両手で己の豊かな双丘を下から持ち上げるようなジェスチャーをした。
「戦闘中これが重くて、揺れて、邪魔で仕方ないんです! 押し潰すんじゃなくて、軽くしてくれるような、すごいインナーを探してて……」
その切実な、中身は完全にゲーマーとしての実用性重視の訴えに、シエルはパチリと瞬きをした後、ハッとして店内に並ぶ服をぐるりと見渡した。
「あ……」
シエルの視線が、店にある可愛らしい服の数々と、イザヨイの圧倒的な質量を誇る胸元を交互に往復する。
(そ、そうよね……。よく見たらこのお店の服、細身の女の子向けのデザインばっかりだわ。イザヨイちゃんのこの規格外のサイズじゃ、胸の部分が絶対に入らないか、無理に着ても前がはち切れそうになって不格好になるだけ……)
同性であるシエルでさえ、お風呂でその破壊力を目の当たりにしている。
あれを完璧に収納し、なおかつ戦闘に耐えうるホールド力を持った服など、この街の普通のアパレルショップにあるはずがなかった。
「……ごめんね、イザヨイちゃん。私、すっかり浮かれちゃってて……あなたの悩みに気づけなかったわ」
シエルは手に持っていたワンピースをそっと棚に戻し、申し訳なさに肩を落とした。
「可愛い服を着せたいなんて、私の自己満足だったわね。本当に大切なのは、あなたが安全に、快適に戦えることなのに……」
「い、いや! シエルさんが謝ることじゃないですよ! 私の方が、なんかワガママ言ってごめんなさい!」
イザヨイが慌ててフォローするが、一度沈んでしまったシエルのテンションはなかなか戻らない。
「可愛い服を探す」という目的が物理的なサイズ問題で頓挫した二人は、重苦しい空気のまま、どんよりとした顔で服屋を後にした。
(おっぱい問題……。俺の想像以上に、異世界での生活とファッションのハードルを上げてるぞ……。早く領主様、アラクネの職人を見つけてくれー!)
カルゼオンの明るい日差しの中で、イザヨイは自らの胸の重みと共に、重いため息をつくのだった。




