ボルグの評価
「さぁ、イザヨイちゃん! デートはまだ続くわよ! 次はどこへ行こうか!」
活気にあふれるカルゼオンの大通り。
シエルは上機嫌にイザヨイの腕に自分の腕を絡ませ、距離を詰めて歩き出した。
「あはは、そうですね、どこに行きましょうか」
イザヨイは顔に引き攣った笑顔を張り付けながら、心臓をバクバクと鳴らしていた。
外見は美少女同士の微笑ましい仲良しのお出かけ。だが、イザヨイの中身は紛れもなく『男』である。
シエルの柔らかい胸が腕に当たる感触、ふわっと漂う花のようないい匂い。
同性という安心感からか、無防備に密着してくるシエルの距離感は、かつて非モテゲーマーだったイザヨイにとって、物理的にも精神的にも刺激が強すぎたのだ。
(ち、近ぇ! シエルさん、そんなに腕に絡みついたら……! 落ち着け、俺は今『女』なんだからな!)
必死に邪念を振り払い、ただの「仲の良い女友達」のフリを装うイザヨイ。
しかし、そんなイザヨイのドキドキをよそに、シエルの目的は完全に別のところにあった。
シエルは少し声を潜め、意味ありげな視線を向けてきた。
「ねえねえ、イザヨイちゃん。ズバリ聞くけど……ボルグのこと、どう思ってる?」
「えっ? ボルグさんですか?」
突然の質問に、イザヨイは面食らった。
「そう! 今日、朝からあいつ様子がおかしかったじゃない? 絶対、イザヨイちゃんと昨日の夜に何かあったんだと思うのよね~。……イザヨイちゃんから見て、ボルグってどんな男?」
シエルの目はキラキラと輝き、完全に『恋バナ(恋愛相談)』のスイッチが入っている。
だが、その意図を全く察していないイザヨイは、腕を組んで真面目に考え込んだ。
「どうって……。力があって、討伐ですごく頼りになる、立派な前衛の要ですよね。大斧で敵を吹っ飛ばすところとか、すごくカッコいいですし」
「うんうん! それで?」
「あとは……そうですね、私たち後衛をしっかり守ってくれる、頼れる先輩って感じです」
「……それだけ?」
「え? はい。パーティの前衛としては、それ以上ないくらいの評価だと思いますけど」
イザヨイのあまりにも実務的で、戦闘面のみに特化した評価に、シエルはズコーッと盛大にずっこけそうになった。
「頼れる前衛の要」。
確かにその通りだが、恋する乙女が気になっている相手への評価としては、あまりにも色気がない。
(うわぁ……。イザヨイちゃん、恋愛感情ゼロっていうか、完全に『頼もしい仲間』としてしか見てないわね。ボルグ、前途多難すぎるわ……)
シエルは内心で、朝から顔を真っ赤にして逃げ出した巨漢の戦士に深く同情し、密かに落胆のため息をついた。
だが実はイザヨイには、先ほどの評価の他にもう一つ、ボルグに対して抱いている思いがあった。
(ボルグさん、不器用だから剣を諦めて、斧一本で強くなったって言ってたよな。あそこまで自分の短所を受け入れて、長所を磨くために泥臭く努力する姿勢……本当に男としてカッコいいと思う)
昨夜、大衆浴場の前で聞いた、不器用な戦士としてのルーツと、誇り。
それは、ゲーマーとしてのイザヨイの胸を熱くさせるエピソードだった。
イザヨイはそれをシエルに話すつもりはなかった。
(あんな弱音、ボルグさんは俺だからこぼしてくれたんだろうし。同じ男として、あんなカッコ悪くてカッコいい秘密を、他人にペラペラ喋るわけにはいかないよな)
男同士の友情(イザヨイは外見は女だが)、あるいは戦友としての絆。
ボルグのプライドを守るため、イザヨイはあえて「前衛としての評価」しか口にしなかったのだ。
「……ま、まぁ、いいわ。頼りになる先輩ってのも悪くないしね!」
シエルは気を取り直して、強引に話題を切り替えた。
「さあ、難しい話は終わり! 今日は女の子同士、美味しいもの食べて楽しみましょ!」
「そうですね!」
おっぱい防具への情熱を燃やす中身おっさんと、恋のキューピッドを自称するお節介な僧侶。
噛み合っているようで全く噛み合っていない二人の女子会デートは、カルゼオンの街を賑やかに進んでいくのだった。




