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元パーティメンバー

 翌朝。

 カルゼオンの冒険者ギルドは、今日も依頼を探す冒険者たちの喧騒で活気に満ちていた。

 イザヨイは、ボルグたちと共にギルドの掲示板へと向かっていた。


「よーし、今日はもうちょっと手応えのある依頼を探すぞ。ヘビーボア討伐なんてどうだ?」

「そうね。イザヨイちゃんもいるんだし、多少は無茶しても大丈夫でしょ」

「ああ。だが、無用な油断は禁物だ」


 三人が和気藹々と依頼を物色していると。


「おいおい、どこの底辺パーティかと思ったら、ボルグじゃねぇか」


 突然、背後から人を小馬鹿にしたような甲高い声が響いた。

 振り返ると、そこには派手な装飾の施された革鎧を着た、軽薄そうな顔立ちの男が立っていた。

 背中には双剣を背負い、取り巻きのように数人の冒険者を従えている。


「……ダイーザ」


 ボルグの顔から笑顔が消え、露骨に嫌そうな顔で眉間に皺を寄せた。

 クローザーとシエルも、同じように険しい顔で男を睨みつける。


「その顔を見るのは久しぶりだな。まだその重ったるい斧振り回して、冒険者気取ってんのか? お前みたいな鈍くさいパワーバカは、大人しく村に帰って鍬でも握ってた方がお似合いだぜ?」


 ダイーザと呼ばれた男は、ヘラヘラと笑いながらボルグの大斧を指差して嘲笑した。


「てめぇ……! まだそんなこと言ってやがるのか!」


 ボルグが顔を真っ赤にして怒鳴り、今にも掴みかかりそうな勢いで一歩前へ出る。

 それと同時に、クローザーが静かに弓に手をかけ、シエルも前に進み出た。


「ちょっとアンタ! ボルグは私たちの立派な前衛よ! アンタみたいな逃げ足ばっかり速いペテン師と一緒にしないで!」

「ああ。ボルグの一撃は、お前のようなチャラチャラした双剣使いとは比べ物にならない。……消えろ」


 シエルとクローザーの鋭い言葉に、ダイーザは舌打ちをした。


(……なんか、面倒くさい絡み酒みたいなのが来たな。元仲間? ギスギスしてんなぁ)


 イザヨイはそんなドロドロの人間関係ドラマを、一歩引いた位置から完全に他人事として眺めていた。

 自分には関係のないNPC同士のイベントくらいにしか思っていない。


 しかし――


「ん?」


 ダイーザの視線が、ボルグたち越しに、その後ろで所在なげに立っていた銀髪の美少女を捉えた瞬間。

 男のヘラヘラした薄ら笑いが、見事にピタリと止まった。


「なっ……!?」


 ダイーザの目が、限界まで見開かれた。

 透き通るような白い肌、星屑のように輝く銀糸の髪、そして冒険者の地味なチュニックを着ていても、どうしても隠しきれない、その暴力的なまでの双丘(おっぱい)の質量と、完璧に整った絶世の美貌。


「お、おい……嘘だろ……」


 ダイーザはボルグたちを完全に無視し、取り憑かれたようにイザヨイの前へと歩み寄った。


「あの……何か?」


 イザヨイが小首を傾げて戸惑うと、ダイーザは突然、芝居がかった手つきでイザヨイの手を取り、自身の胸に当てた。


「あ、麗しの乙女よ……! まるで天界から舞い降りた女神か、妖精の化身か……! 俺の心は今、君のその瞳に射抜かれてしまった……!」

「えっ? は?」


 あまりにも唐突でクサすぎるナンパに、イザヨイの脳内処理が追いつかない。


「ちょっとてめぇ!! 俺の仲間に何しやがる!!」


 我に返ったボルグが激怒し、ダイーザの襟首を掴んで強引にイザヨイから引き剥がした。


「おいボルグ! お前……こんなとんでもない美人が仲間なのか!? なんでお前みたいなむさ苦しいオッサンと、こんな天使が一緒にいんだよ!! おかしいだろ!!」


 襟を掴まれたまま、ダイーザが信じられないというように叫ぶ。


「うるせぇ!! イザヨイは俺たちの大事な仲間だ! お前みたいな軽薄な男に触らせるか!」

「はっ! どうせ無理矢理パーティに入れたんだろ!? こんな底辺パーティで、こんな美人が満足できるわけねぇじゃねぇか!」


 ボルグとダイーザが顔を近づけて口論を始める。

 しかし、その傍らで、さらに面倒な火種が投下された。


「ちょっとアンタ……! さっきから聞いてれば『こんな美人』『こんな天使』って……」


 シエルが、般若のような形相でワナワナと震え始めた。


「じゃあなによ! 私がいる時は、私のこと『天使』だなんてこれっぽっちも言わなかったじゃない!! 私だって、これでも街じゃそこそこモテる方なのよ! 失礼しちゃうわね!!」


 シエルの怒りの矛先が、ダイーザに向き始めた。


「い、いや、シエル! お前は別だ! お前はなんというか、頼れる母ちゃんみたいな……」

「かぁぁっちゃぁぁぁん!!?」


 ダイーザの余計な一言が、完全にシエルの導火線に火をつけた。


「もう黙っていろダイーザ。シエル、深呼吸だ」

「ふーっ……!」


 クローザーが必死に仲裁に入ろうとするが、ギルドの中心で展開される四つ巴の修羅場は、もはや収拾のつかない状態に陥っていた。


「……あのー」


 その混沌の渦の中で、完全に蚊帳の外に置かれたイザヨイが困ったように声を上げるが、誰も聞いていない。

 すると、ダイーザがボルグの手を振り解き、シエルの怒声をスルーして、再びイザヨイの前にしゃがみ込み、恭しく手を差し伸べた。


「美しいお嬢さん。こんな鈍くさい力馬鹿や、ヒステリックな女のいるパーティなんて辞めて、俺たちと一緒に来ないか? 俺の『疾風の双剣』が、君にふさわしい贅沢な冒険を約束しよう。……さあ、君の名前は?」


 甘ったるい声と、上目遣いのドヤ顔。

 絵に描いたようなナンパ男の誘い。

 イザヨイからすれば、「何言ってんだコイツ、キモいな」と一蹴するところだ。


(……うわぁ、どうしようこれ。適当に断って喧嘩が酷くなっても嫌だし、かといってボルグさんたちに迷惑かけるのもな……)


 絶世の美少女の皮を被っているイザヨイは、「男からのマジナンパ」に直面し、対処法が分からずに冷や汗を流して困惑しきっていた。

 周囲の冒険者たちも野次馬として集まり始め、イザヨイの次の言葉を固唾を飲んで見守っている。

 美少女ゲーマーの最大の試練が、Aランク魔物ではなく、ウザいナンパ男によってもたらされようとしていたのである。

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