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村の現状

 荷台の事故から二日目の午後。

 イザヨイを乗せた討伐隊の馬車は、土煙を上げながら南の山麓を目指して走り続け、ついに目的の村へと到着した。


「……酷いな、これは」


 馬車から降りたイザヨイは、眼前に広がる光景に息を呑んだ。

 山間に拓かれたのどかなはずの村は、無残な有様だった。

 家屋の屋根は引き剥がされ、畑は荒らされ、あちこちの地面には鋭い爪で抉られたような巨大な傷跡が残っている。


 幸いなことに、完全に焼け野原になっているわけではなく、何人かの村人たちが瓦礫を片付けたり、負傷者の手当をしたりと、必死に復興に向けて動いている姿が見えた。


「これは……思っていた以上に被害が大きいな。風の刃による切断痕と、上方からの質量攻撃……やはり『空からの災厄』か」


 先頭の馬車から降り立ったアンドリューが、兜を小脇に抱え、険しい顔で周囲を見回す。

 彼の指示で、騎士たちがすぐさま周囲の警戒に散っていく。

 馬車の荷台からは、テントや食料などの救援物資が次々と降ろされ始めた。


「おお……っ! あ、あなたは……カルゼオンの騎士団の方ですね!?」


 騎士の白銀の鎧と、ヴェルリス家の紋章が描かれた馬車に気付いたのだろう。

 泥だらけの服を着た年配の男が、藁にもすがるような思いでこちらへ駆け寄ってきた。

 村長だ。


「ええ。領主マクミラン・ヴェルリスの命を受け、調査と討伐に参りました。私は副団長のアンドリューと申します。村長殿ですね。状況をお聞かせ願えますか?」


 アンドリューが腰をかがめ、村長と目線を合わせて静かに問いかける。


「はい、はい……っ。助かります、本当に……! あれは三日前の夕暮れ時でした。近くの岩山の方から、巨大な翼を持つ竜の群れが現れまして……」


 村長は震える声で語り始めた。


「空を覆い尽くすほどの数でした。家畜を攫い、家を壊し、逃げ遅れた村人たちを……っ! あいつらは、山の上に巣食っているに違いありません! このままでは、村は全滅してしまいます!」

「巨大な翼を持つ竜の群れ。……間違いない、ワイバーンですね。数は大体、どれくらいでしたか?」

「恐ろしさで正確には数えられませんでしたが……五、六体はいたかと。それと、一際大きな、まるで山のような竜が……あれが群れのボスに違いありません」


 村長の悲痛な報告を聞き、アンドリューの顔がさらに厳しさを増す。


「ご苦労様でした。我々が必ず討伐してみせます。皆様は、騎士たちの指示に従い、支給品を受け取って安全な場所へ避難してください」

「ああ、ありがとうございます……! ありがとうございます!」


 村長は何度も頭を下げ、騎士たちが食料や毛布を配っている方へと戻っていった。


「五、六体……それに、巨大な個体が一体、か。……イザヨイ殿」

「はい……」


 イザヨイは短く応えた。


 村の惨状を目の当たりにし、イザヨイの心には、ゲーマーとしての「金策クエスト」という軽い気持ちとは全く違う、静かな怒りが込み上げていた。


 ゲームのNPCの村が焼かれるイベントムービーとは違う。

 目の前で涙を流す老人、怯える子供たち。

 この村の人々にとって、ワイバーンはシステム上のモンスターではなく、生活を、命を奪う現実の脅威なのだ。


(やっぱり、生身の人間が理不尽な力に怯えてるのを見るのは、いい気分じゃないな……)


 イザヨイは密かに拳を握り締めた。


(ここで俺が、あの飛竜どもを全部ぶっ飛ばしてやる。村の平和と、俺のマイホームと、おっぱいの揺れない防具の資金のために……!)


 決意を新たに、イザヨイはアンドリューの目を見据える。


「群れでの強襲。やはり手強い相手です。イザヨイ殿、貴女の魔法に頼ることになりますが、よろしいですね?」

「任せてください。一匹残らず、私が叩き落としますから」


 その揺るぎない声と、迷いのない瞳に、アンドリューは僅かに目を見張ったが、すぐに大きく頷いた。


「では、私は部隊を――」


 アンドリューが指示を飛ばそうとした、その時だった。


「ギャオォォォォォンッ!!」


 突如として、南の空から、空気を震わせるような甲高い咆哮が響き渡った。

 地面がビリビリと共鳴し、村人たちが恐怖の悲鳴を上げる。


「来たか……!!」


 太陽が西の山に沈みかけ、空が赤黒く染まり始めた空の彼方。

 山頂の影から、五つの巨大な影が滑空してくるのが見えた。


「総員、陣形を取れ! 市民を馬車の後ろへ誘導しろ!」


 アンドリューが剣を抜き放ち、声を張り上げる。

 騎士たちが盾を構え、一糸乱れぬ動きで防衛陣を敷き始めた。


(さてと。おっぱいの揺れを気にしてる場合じゃないな……!)


 空を埋め尽くす飛竜の群れを前に、イザヨイは一歩前へ進み出た。

 銀髪を揺らしながら、イザヨイは空に向かって不敵な笑みを浮かべ、迫ってくるワイバーンを睨んだ。

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