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領主との対面③

 静まり返る応接室で、アンドリューの宣言が低く響いた。

 その青い瞳には、騎士としての疑念と、強者に対する武人としての純粋な探求心が入り混じっている。

 視線を真正面から受け止めたイザヨイは、コトリとティーカップを置き、ふわりと微笑んだ。


「私の魔法を、実際に見て確かめたいということですね?」

「左様。ただ話を聞くだけでは、領主である父も、私も貴女の力を手放しで信じるわけにはいかないのです」


 アンドリューは居住まいを正し、さらに言葉を続けた。


「……実は、父上。一つ提案がございます」

「提案だと?」


 マクミランが訝しげに眉をひそめると、アンドリューはイザヨイと父を交互に見つめながら、その口を開いた。


「このカルゼオンより南方に位置する村から、ある魔物に襲われたとの急報が入っていることはご存じの通りです」

「……うむ。あの厄介な飛竜の件だな。早急に調査隊を編成し、事態を把握しなければならん」


 マクミランの言葉に、アンドリューが深く頷く。


「その調査の任、この私が直接出向こうと考えておりました。ですが……そこに、このイザヨイ殿にも同行していただき、もしもその魔物が姿を現したならば、討伐を依頼したいのです」

「なっ……!?」


 マクミランが弾かれたように立ち上がり、机に手をついた。


「正気かアンドリュー! 相手は『ワイバーン』だぞ!? 確かに調査は必要だが、あれは空を支配する飛竜であり、個の力だけでもAランク級の化け物だ! それに加えて、奴らは群れで行動することが多い。グリフォン以上に厄介な、まさに災厄そのものではないか!」

「父上のおっしゃる通りです」

「ならば何故だ! あれこそ騎士団が総力を挙げて、慎重に立ち向かうべき相手だろう! それを身元の知れぬ少女一人に討伐を任せるなど、領主として許可できん!」


 父の激しい剣幕にも、若き天才騎士は一歩も引かなかった。

 むしろ、その眼差しは、先程よりも冷徹な合理性を帯びていた。


「……だからこそ、です」


 アンドリューはイザヨイの方へ向き直り、その可憐な顔に突き刺すような視線を送った。


「グリフォンを無傷で、しかも単独で討伐したというのなら。その規格外の魔法は、ワイバーンの群れにすら対抗し得るはずだ。もしイザヨイ殿がそれを成し遂げれば、村の脅威は一掃され、我々はイザヨイ殿の実力をこの目で確かめることができる。まさに、一石二鳥ではありませんか」

「……………………」


 もしイザヨイが本当にそれほどの実力者であれば、村は救われ、疑念は実力と共に晴れる。


 しかし、もしもグリフォン討伐が嘘であり、虚勢を張っているだけの小娘だった場合、ワイバーンの餌食になるだけだ。

 騎士としての責任と、相手の命を天秤にかけた、氷のような決断。


 マクミランは苦々しい顔で息子を睨んだが、アンドリューの瞳に浮かぶ決意を見て、ゆっくりと息を吐き、重く頷いた。


「……イザヨイ殿。息子の無礼な申し出、どうか許してほしい。だが、我々としても、村の危機は一刻を争うのだ。貴女の力が真実であるならば……どうか、カルゼオンの民を救ってはくれまいか?」


 領主としての懇願。

 そして、イケメン騎士からの値踏みするような挑発。

 普通であれば、恐怖で逃げ出すか、怒って立ち去る場面だろう。


 しかし、彼らの目論見など、中身がゲーマーのイザヨイにとっては、また別の形で映っていた。


(おっ、新しい討伐クエスト発生か。ワイバーンの群れ……。空飛ぶ相手だし、ちょっと的が小さくて素早いから面倒だけど、雷弱点はグリフォンと同じだ。それに、ワイバーンの翼膜とか牙って、結構いい値段で売れたはず……!)


『ワイバーンの群れ』。

 それは、イザヨイにとって「効率の良い金策イベント(おっぱい防具の資金稼ぎ)」以外の何物でもなかった。


(よし、ここはこのイケメン騎士の目の前でド派手にぶっ飛ばして、領主からの信用もガッツリ稼いでやるか。……いや、でもおっぱいの揺れ対策してないから、今回も魔法だけでサクッと終わらせるか)


 イザヨイは立ち上がり、花が綻ぶような、それはもう最高に美しい笑顔をアンドリューに向けた。


「はい! 喜んで引き受けさせていただきます。村の皆さんが困っているなら、放ってはおけませんからね」

「……!」


 そのあまりにも躊躇のない即答と、清らかすぎる純真な笑顔。

 死地へと向かう恐怖など微塵も感じさせない姿に、逆にアンドリューの方が虚を突かれ、ほんの一瞬だけ、胸の奥で何かが跳ねるような感覚を覚えた。


(な、なんだ……この自信は。ただの世間知らずの強がりか? それとも、本物の……)


 疑念の裏に隠された、得体の知れない美少女への底知れない興味。

 アンドリューは慌ててその感情を押し殺し、表情を引き締め直した。


「……承知いたしました。では、直ちに出発の準備に取り掛かります。イザヨイ殿、お力添え、感謝いたします」

「はい! よろしくお願いしますね、アンドリュー様!」


 イザヨイがウキウキとした足取りで応接室を出て行く後ろ姿に、アンドリューは複雑な目で見送った。


 こうして、身元不明の最強美少女と、王都の若き天才騎士による、ワイバーン討伐調査隊が結成されたのである。

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