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新たな決意

「ふぅ……。さあ、イザヨイちゃんも早く入りましょ。汚れを落とさないとね」


 シエルが赤い暖簾をくぐり、ホッとした様子で脱衣所へと足を踏み入れた。

 その後ろを、イザヨイはコソコソと、まるで処刑台へ向かう罪人のような足取りでついていく。


(……落ち着け。怪しい素振りを見せたら逆に怪しまれる。俺は今、普通の美少女。同性同士なんだから、堂々としてればいいんだ)


 中身が男である以上、ここは文字通り『禁断の園』だ。

 若い女性たちがキャッキャと黄色い声を上げながら湯浴みを楽しんでいる……そんな夢のような光景を、心のどこかで(いや、かなり前面に出して)期待していた自分がいる。


 だが……現実はそう甘くなかった。


 イザヨイは深呼吸をし、恐る恐る脱衣所の全貌を見渡した。

 想像していたよりも広い。

 そして何より気になる先客は――


 脱衣所にいたのは、イザヨイとシエルを除けば、年配の女性が数人だけ。

 若くて肌の露出を惜しげもなく晒しているような美少女など、一人もいなかった。

 大衆浴場の利用料が高いというボルグの言葉を裏付けるように、客層は限られているらしい。

 イザヨイは、ホッとしたような、それでいてどこか猛烈に残念なような、非常に複雑なため息をこぼした。


(……現実はこんなもんか。エロゲみたいに美少女がいっぱいいるわけじゃないよな)


 イザヨイは内心で、安堵と、ほんの僅かな――いや、かなりの落胆が入り混じった複雑なため息を吐いた。

 緊張の糸が少し解けたと同時に、「異世界の女湯」という響きに対する淡い期待が打ち砕かれたのだ。


「どうしたの? 緊張してる?」

「いえ、なんでもないです。ちょっとお湯が楽しみで」


 しかし落胆するのは早かった。

 隣の棚で、シエルが早速ローブを脱ぎ始めたのだ。


「イザヨイちゃんも早く脱ぎなよ。体が冷えちゃうわよ?」

「あ、は、はい……!」


 シエルの言葉にハッと我に返る。

 イザヨイは視線を逸らそうと努力しつつも、ゲーマーの悲しいサガか、視界の端でシエルの着替えをチラ見してしまっていた。


(おおっ……)


 イザヨイの視線が、無意識にシエルの方へと吸い寄せられた。

 普段はゆったりとした法衣に隠れているが、下着姿になったシエルのプロポーションは、年相応に引き締まり、健康的でしなやかなラインを描いていた。

 特に無防備な背中から腰にかけてのくびれが、非常に……良い。


(うおっ……シエルさん、脱ぐと結構すごいな。……いやいや、俺は何を考えてんだ! 見ちゃダメだ!)


 イザヨイは慌てて自分のチュニックの裾を掴み、ブンブンと頭を振った。

 煩悩を振り払うように、自らの装備を一気に脱ぎ捨てる。


(よし、もうここまできたら腹を括るしかない!)


 えいやっ、と下着を脱ぎ捨てる。

 白磁のように滑らかな肌が露わになり、同時に、一日中コルセットや下着で窮屈な思いをしていた巨大な双丘が、ぷるんと解放感に満ちた揺れを打った。


(ふぅ、やっと苦しいのから解放され……)


 イザヨイがホッと息を吐いた瞬間。

 隣で着替え終わっていたシエルの動きが、ピタリと止まった。


「……っ」


 布が落ちた瞬間、脱衣所の空気が一瞬だけ止まったような気がした。


「そ、そんなに大きいなんて……。服の上からでも分かったけど、脱ぐとすっごいわね……」


 静かな脱衣所に、シエルの無意識の呟きがポツリと落ちた。

 イザヨイがギクッとして横を見ると、シエルの視線はイザヨイの顔ではなく、完全にその圧倒的な暴力たる『二つの果実』へと釘付けになっていた。


「えっ? あ、その……」

「ご、ごめんなさい! 服を着てる時も凄いスタイルだとは思ってたけど……改めて見ると、なんていうか……破壊力が違うわね……」


 シエルが顔を真っ赤にして、両手で顔を覆う。

 同性から見ても直視を躊躇うほどの巨乳。白磁のような肌に、重力に逆らうように自己主張する二つの果実。

 キャラクリエイトの限界突破が生み出した造形美は、女湯においても隠し切れないオーラを放っていたらしい。

 脱衣所にいた年配の女性たちも、「おやまあ、立派だこと」とヒソヒソ声を上げているのが聞こえる。


「あはは……じゃ、じゃあお風呂行きましょうか!」


 イザヨイは顔から火が出そうになりながら、両腕で胸元を隠すようにして、逃げるように浴場への扉を開けた。


(これ以上見つめられれば、変な声が出てしまいそうだ……!)


 石造りの広い浴槽には、こんこんと熱いお湯が注ぎ込まれている。


「うわぁ、本当に大きなお風呂だ……!」


 掛け湯を済ませ、イザヨイはたまらず一番乗りで湯船へと足を踏み入れた。

 じんわりと熱い湯が、つま先から徐々に全身を包み込んでいく。

 一日中重たい胸を支えていた肩の凝りが、お湯に溶け出していくようだ。


「……ふはぁぁ、やっぱりお風呂は最高だなぁ……」


 イザヨイは顎までお湯に浸かり、だらしなく顔を綻ばせた。

 異世界に来て一番の至福の時。

 後から入ってきたシエルも、イザヨイの隣に腰を下ろす。


「あー、極楽極楽……生きてて良かったって思える瞬間よねぇ。イザヨイちゃんの魔法も凄かったけど、今日は本当に疲れたわ」

「ええ、お疲れ様です。シエルさんも、ゆっくり休んでくださいね」


 女同士の、のんびりとしたお風呂トーク。

 中身はおっさんだが、状況だけ見れば完璧に百合の花咲く癒しの空間だ。

 イザヨイは呑気にお湯の感触を楽しんでいた。

 だが、その平穏は数分も持たなかった。


「……ん?」


 イザヨイは、隣から胸元に視線が集中していることに気が付いた。

 視線を落とすと、自分のお湯に浸かった胸元が、浮力によって持ち上がり、水面をプカプカと漂っていたのだ。


(……嘘だろ。おっぱいって、浮くのか!?)


 中身が男のイザヨイにとって、それは完全に未知の物理現象だった。

 豊かな脂肪の塊がお湯の浮力に持ち上げられ、 水風船のように水面でタプタプと踊っている。


(うわ、けっこう目立つ。シエルさん、さっきから視線泳ぎまくってるし……)


 周囲を見渡すと、お婆ちゃんたちもシエルも、直接言葉には出さないものの、明らかにその『浮遊する双丘』にチラチラと視線を送っている。

 そりゃそうだ。規格外の大きさが水面でリズミカルに揺れているのだから、気にならない方がおかしい。


(同性の目でもこんなに気まずいなんて……! 男湯なんか間違えて入ってたら、死人が出てたかもしれない……!)


 イザヨイは顔を真っ赤にしながら、両手で必死に胸をお湯の中に押し込み、膝を抱えるようにして体を小さく丸めた。

 癒やしの時間になるはずが、己の身体のせいで全く落ち着かない。


(……決めた)


 お湯の熱さとは別の意味で顔を熱くしながら、イザヨイは湯船の中で一つの大きな野望を抱いた。

 前衛で自由に戦うこと。


 そして――


(いつか絶対に、誰の目も気にせず、一人でのんびり入れるような、豪華な風呂付きの『自分の家』を建ててやる……!)


 金貨五十枚という大金を手にした今、それは決して叶わぬ夢ではないはずだ。

 揺れる胸、視線、そして数々の苦難。

 銀髪の美少女の皮を被った元ゲーマーは、新たなる目標に向かって、お風呂の中で決意を新たにするのであった。

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