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驚愕の査定結果

 カルゼオンの街に夕闇が迫る頃、四人の冒険者は無事にギルドへと帰還した。

 重い足取りを引きずりながらも、その顔には疲労よりも達成感と興奮が色濃く浮かんでいる。


「ふぅ……。重かったぜ。クローザー、お前のも出せ」


 ボルグがカウンターにドサリと巨大な麻袋を二つ置いた。

 ギルド内は夕刻ということもあり、一仕事終えた冒険者たちでごった返していたが、ボルグたちが戻ってきた瞬間に空気が少しだけ静まった。

 受付嬢はいつもの笑顔で出迎えるが、その目に飛び込んできた麻袋の異常な大きさに、すぐに表情を引き締めた。


「お帰りなさいませ、ボルグさん。……それは、まさかガルーダの素材ですか?」

「ああ、こっちの小さい袋がガルーダだ。……いや、こっちは俺たちが狩ったわけじゃねぇけどな」


 クローザーが補足するように、一回り小さな袋の口を開けた。

 そこには、千切れかけた黒い羽毛と、凶悪な猛禽の爪が無造作に放り込まれている。


「やっぱり……! 北の岩山のガルーダですね。確認します。……ええ、討伐証明部位、確かに。お見事です、Bランクパーティの面目躍如ですね!」


 受付嬢が安堵の笑みを浮かべ、書類にチェックを入れる。

 だが、ボルグはニヤリと笑い、もう一つの、一際巨大な麻袋をドンッと叩いた。


「驚くのはまだ早いぜ、嬢ちゃん。本命はこっちだ」

「……? そちらは一体……」


 受付嬢が不思議そうに袋を覗き込み、そして――一瞬、呼吸を止めた。


「ひっ……!?」


 悲鳴にも似た息の呑み方が、周囲の冒険者たちの注意を引く。

 袋の中には、黄金に輝く巨大な羽と、強靭な獅子の牙、そして皮の一部が、血に濡れたまま収められていたのだ。

 それは、滅多に見ることのない、Aランクの証。


「こ、これは……まさか! グリフォンの……素材……!?」


 受付嬢の声が震えていた。

 無理もない。Aランクの魔物であるグリフォンは、カルゼオン近郊の生態系においては頂点に位置する存在であり、国軍の討伐隊が編成されるレベルの災害だ。


「おいおい、冗談だろボルグ。お前らBランクパーティが、グリフォンを狩ったっていうのか!?」

「バカ言え、いくらボルグの旦那でも、グリフォン相手じゃ一分ももたねぇよ!」

「死骸を拾ってきたんじゃないのか!?」


 周囲の冒険者たちから、一斉に疑義の声が上がる。

 だが、ボルグは不敵な笑みを崩さず、親指で背後を指し示した。


「俺たちが拾ったのはガルーダの方だ。グリフォンをブチ殺したのは……そこのイザヨイだ」


 全員の視線が、ボルグの指差す先――カウンターから少し離れた場所で、控えめに立っている銀髪の少女へと注がれる。

 美しく、華奢で、とてもAランクの化け物と戦えるようには見えない。


「イ、イザヨイ様が……!? また、魔法で……?」


 受付嬢が三度目の驚愕に目を丸くする。

 昨日のオーク討伐ですら半信半疑だったというのに、今回はAランクのグリフォンだ。

 Eランクの新人が単独で討伐するなど、ギルドの歴史上でも前例がない。


「ああ。俺たちも最初は信じられなかった。でもな……」


 ボルグは声を落とし、真剣な眼差しで受付嬢を見た。


「この目で、はっきりと見たんだ。あの細腕から放たれた氷の嵐がグリフォンを叩き落とし、雷の槍が脳天を貫くのをな。俺たちは指一本触れてねぇ。完全な単独討伐だ」

「……ああ。あれは規格外の大魔法だった。イザヨイの魔法がなければ、今頃俺たちは岩山の土になっていただろう」

「本当に凄かったのよ!」


 クローザーも深く頷き、ボルグの言葉を裏付け、シエルも両手を組んで熱弁を振るう。


「そ、そこまで言うのなら……」


 受付嬢は呆然としながらも、プロとしての職務を思い出し、奥の部屋から査定係のベテラン職員を呼び出した。

 ベテラン職員も素材を見るなり血相を変え、震える手で鑑定の魔法具を起動させた。


「間違いない……。グリフォンの討伐証明部位と、最上級の魔石だ。しかも、傷口から強力な氷と雷の魔法の痕跡が検出されている……!」


 その結果報告に、ギルド内は水を打ったように静まり返った。

 そして、受付嬢が震える手で一枚の羊皮紙と、ずっしりと重い革袋をカウンターに置いた。


「さ、査定が終わりました。ガルーダの依頼達成報酬が金貨三枚。そして、グリフォンの素材売却と、ギルドからの特別討伐報酬を合わせまして……」


 受付嬢がゴクリと喉を鳴らし、金額を読み上げる。


「総額……金貨五十三枚となります」

「「「ごっ……!!?」」」


 ボルグ、シエル、クローザーの三人の声が、綺麗に重なって裏返った。


「ご、五十三枚!? ウソだろ、オイ……!」

「金貨五十枚って……王都に一軒家が建つ金額じゃないの!?」

「……俺の数年間分の稼ぎより多いぞ……」


 三人はカウンターに置かれた革袋を前に、石像のように固まってしまった。

 金貨五十枚。

 それは、普通の平民が家族を養いながら、慎ましく数年間は一切働かずに遊んで暮らせるほどの莫大な大金だ。

 Bランクパーティである彼らでも、数ヶ月かけて危険な依頼を何度もこなしてようやく手に入るかどうかという金額。


「い、イザヨイ……! 聞こえたか!? 金貨五十三枚だぞ!!」


 ボルグが振り返り、イザヨイに向かって叫ぶ。

 しかしイザヨイはといえば……


(おっ、結構いい金額じゃん)


 と、内心で呑気に思っていた。

『エターナルクレイドル』のカンスト金額を見慣れていたせいで、金銭感覚が完全にバグっているのだ。


(まあ、この世界のお金の価値だと、五十三枚ってのはかなり凄いんだろうな)


 周囲の冒険者たちが、


「あの嬢ちゃん、一体何者なんだ……」

「Aランクソロ討伐なんて、Sランク級じゃねぇか……」


 と、畏怖の眼差しを向けてくるのを感じながら、イザヨイはコホンと咳払いをして、ボルグたちの元へと歩み寄った。


「皆さんのおかげです。今回も、四人で分けましょう」

「「「バカ言えっ!!!」」」


 三人の先輩冒険者から、昨夜以上の凄まじい勢いで拒絶の叫びが叩きつけられる。


「俺たちは昨日と違って、マジで何もしてねぇんだぞ!? こんな大金、受け取れるわけねぇだろ!」

「そうよイザヨイちゃん! これは全部あなたの実力で勝ち取ったお金よ! 私たちはお小遣い程度で十分だから!」

「……俺たちのプライドがへし折られる。頼むから全額受け取ってくれ」


 必死に固辞する三人の態度に、イザヨイは困ったように眉を下げた。

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