募る不満
「おいおい、ウソだろ……。Aランクのグリフォンを……1人で倒しやがった……」
「しかも、あんなに強力な魔法を連発するなんて……!」
「……規格外、という言葉すら生温い」
土煙が完全に晴れ、静寂を取り戻した岩山。
そこには、全身を氷と雷に焼かれ、事切れた巨大なグリフォンの死骸が生々しく横たわっている。
ボルグ、シエル、クローザーの三人は、信じられないものを見るような目で、その亡骸と、涼しい顔で立つ銀髪の少女を交互に見比べた。
やがて、我に返ったように三人がイザヨイの元へと駆け寄ってくる。
「イザヨイ! お前、とんでもねぇな!!」
ボルグが興奮のあまり、両手でイザヨイの肩を掴んでガクガクと前後に揺さぶった。
当然、その勢いで豊かな双丘がこれでもかと暴れ回り、イザヨイは顔を顰める。
「わわっ、ちょ、ボルグさん……揺らさないでください……っ!」
「こらボルグ! イザヨイちゃんが困ってるじゃないの!」
シエルが慌ててボルグの手を払い除け、代わりに自分がイザヨイの両手をギュッと握り締めた。
彼女の瞳はキラキラと輝き、尊敬と興奮が入り混じった熱を帯びている。
「本当に凄いわ、イザヨイちゃん! 《ダイヤモンドストーム》なんて凄まじいの魔法使えるなんて! あなた、間違いなく天才魔導士よ!」
「ああ。あの威力の雷撃魔法を連発できる魔力も、冷静な判断力も……全てが一流だ。お前がいれば、どんな魔物だって恐れるに足らないな」
クローザーまでもが、普段の無愛想な態度を崩して手放しで褒め称える。
Eランクの新人がAランクの魔獣を単独で討伐したのだから、彼らが興奮するのも無理はない。
三人の先輩冒険者からの熱烈な賞賛。
だが、その言葉を受けるイザヨイの心境は、どこか冷めていた。
(……天才魔導士ねぇ。まあ、レベルはカンストしてるから魔法の威力もそれなりに出るけどさ)
イザヨイは愛想笑いを浮かべながら、内心で深いため息をついた。
シエルたちは「三発で倒した」ことに驚愕しているが、イザヨイにとっては「三発も撃たされた」という不満の方が大きい。
(グリフォンくらい、ネメシスソードで殴れば一撃で粉砕できたのになぁ……)
イザヨイのステータスは魔法も使えるが、物理攻撃力の方が圧倒的に高く設定されている。
最初の《ダイヤモンドストーム》で飛行能力を奪い、地面に叩き落としたところまでは想定内の立ち回りだった。
だが、そこからトドメを刺すために、威力の劣る魔法を二発も消費しなければならなかったのは、イザヨイにとって完全なる手痛いロスである。
もし前衛に出て剣を振るえていれば、落下してきたグリフォンの首を一刀の元に刎ね飛ばし、戦闘はよりスマートかつ一瞬で終わっていたはずだ。
(魔法に頼ると時間がかかるし、MPも無駄に消費する。やっぱり、どう考えても俺のスタイルは前衛でのインファイト一択だ)
チラリと、自分の胸元へと視線を落とす。
少し肩で息をするたびに、そこにある柔らかな質量が自己主張を繰り返している。
グリフォンとの戦闘中も、魔法を撃つために腕を上げるだけでコルセットが肉に食い込み、不快な圧迫感があった。
走ったり剣を振ったりすれば、あの『胸帯』で痛感したように、物理的な苦痛と激しい揺れが襲ってくるのは火を見るよりも明らかだ。
(クソッ……このおっぱいのせいで、俺は本来の火力の半分も出せてないじゃないか)
魔法使いとしてチヤホヤされる現状に甘んじるつもりはない。
剣で斬り結び、斧のように力で敵をねじ伏せる。
あのアドレナリンが沸騰するような、前衛での熱い戦いこそが、ゲーマーとしてのイザヨイが最も愛するプレイスタイルなのだ。
「イザヨイ? どうした? そんな難しい顔して」
ボルグが心配そうに覗き込んでくる。
自分が「もっとスマートに殴り殺したかった」などと不満を抱いていることなど、彼らには想像もつかないだろう。
「あ、いえ! なんでもないです。ちょっと魔力を使いすぎたみたいで」
イザヨイは慌てて笑顔を取り繕った。
「そうよね、あれだけの大魔法だもの。……無理させてごめんね、イザヨイちゃん」
「気にしないでください。それより、あのグリフォンの素材、高く売れそうですよね?」
「ああ、間違いない。ガルーダ以上の特大のボーナスだぜ! よし、急いで解体して街に戻ろう!」
ボルグが血抜き用のナイフを取り出し、クローザーも解体の手伝いに向かう。
シエルはイザヨイを気遣いながら、周辺の警戒を怠らない。
仲間たちが作業を進める中、イザヨイは一人、自分の胸元をそっと押さえながら固く決意した。
(絶対に……おっぱいが揺れない方法を見つけ出してやる。そして、ボルグさんみたいに最前線で暴れ回ってやるんだ……!)
可憐な天才魔導士として崇められながらも、彼女(彼)の内心では、前衛復帰への血の滲むような(?)野望が、静かに、しかし熱く燃え上がっていたのである。




