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化け物退治

 黄金の羽毛と獅子の躯を持つ魔獣が四人を凝視していた。

 Aランク指定の化け物、グリフォン。

 その圧倒的な存在感に、ベテランであるボルグたちでさえ足が竦む。


「……退がれ。俺が囮になる。お前らはイザヨイを連れて、全力で街へ逃げろ!」


 ボルグが大斧を構え、震える足に力を込めて一歩前へ出た。

 それは戦士としてのプライドであり、パーティを守るための決死の覚悟だった。

 しかしその太い腕を、背後から華奢な手がそっと掴んで引き止めた。


「ダメですよ、ボルグさん」

「イ、イザヨイ……!? バカ野郎、何してやがる! あいつはオークキングなんかとは格が違う! 俺が時間稼ぎをしてる間に逃げ――」


 怒鳴り散らそうとしたボルグの言葉は、イザヨイの真っ直ぐな瞳に射抜かれて止まった。

 その銀髪の少女の瞳には、恐怖も絶望もない。

 ただ静かに、燃えるような闘志が宿っていたのだ。


「私を信じてください。あいつ、私がやります」

「お前……」


 その揺るぎない声色。

 ボルグは一瞬、言葉を失った。

 常識で考えれば、Eランクの新人がAランクの魔獣に勝てるはずがない。

 だが、昨日のオーク集落での常軌を逸した魔法の威力が、彼の脳裏をよぎる。

『この子なら、あるいは……』

 理屈を超えた直感が、ボルグに斧を下ろさせた。


「……わかった。だが、危なくなったら俺が何があっても割って入る。いいな?」

「はい、ありがとうございます」


 イザヨイが微笑んで前へ出ると、ボルグはシエルとクローザーを振り返り、顎でしゃくった。


「イザヨイに任せるぞ。俺たちは援護に回れ」

「正気なの!? 相手はグリフォンよ!?」

「……分かった。ボルグの勘を信じよう」


 シエルが悲鳴を上げかけるが、クローザーが弓を構えながら短く応えた。

 三人が後方に下がり、警戒態勢に入る。


 その動きを見て、自分から逃げない矮小な人間たちに苛立ったのか、グリフォンが空気を震わせる咆哮を上げた。


『ギェルルルルルァァァッ!!』


 巨大な翼が羽ばたき、突風を巻き起こしながら、イザヨイ目掛けて急降下してくる。

 獲物を確実に引き裂く、死の滑空。


(……来るか。雷は通りそうだけど、まずはその機動力を削がないとな)


 イザヨイは一歩も引かず、右手を虚空へとかざした。

 風圧で銀髪が激しく乱れ、スカートがバサバサと煽られる。

 だが口元は微かに弧を描いていた。


「凍てつく白銀の息吹よ、全てを削り取る嵐となれ」


 短い詠唱。

 だが、それに込められた魔力は、大気そのものを凍り付かせるほどに濃密だった。

 イザヨイの指先から、青白い光が奔流となって噴き出す。


「《ダイヤモンドストーム》!」


 直後、グリフォンを迎え撃つように、空間そのものが氷の竜巻へと変貌した。

 猛烈な吹雪と、無数に飛び交う鋭利な氷の刃が、急降下してきたグリフォンの巨体を容赦なく飲み込む。


「ギェェェッ!?」


 氷の嵐の中で、グリフォンが苦悶の声を上げる。

 《ダイヤモンドダスト》のような絶対的な凍結効果はない。

 しかし、その代わりに物理的な破壊力を極限まで高めた氷塊の乱舞が、鋼のように硬い黄金の羽毛を切り裂き、獅子の皮膚を抉っていく。

 さらに、極低温の嵐は確実にグリフォンの体温を奪い、関節や翼の付け根から徐々に氷結させていった。


「な、なんだあの魔法は……!?」

「吹雪……? あんな高位の広範囲魔法、見たこともないわ!」


 後方で見守っていた三人が、寒さに震えながら驚愕の声を上げる。


 数秒後。

 嵐が吹き抜けた後、空中で完全にバランスを崩したグリフォンが、その重い巨体を岩肌へと叩きつけられた。


 ズゴォォォンッ!!


 地響きと共に土煙が舞い上がる。

 片方の翼は凍り付き、全身からは血が滲んでいる。

 だがAランクの生命力は伊達ではなかった。


「ルルルゥゥ……ッ!!」


 グリフォンは血と氷に塗れながらも、憎悪の籠った目でイザヨイを睨みつけ、這い蹲るようにして立ち上がろうとした。

 四肢の筋肉が隆起し、凍り付いた関節を無理やり動かそうとする。


「……さすがにしぶといな。でも、もう飛べないだろ?」


 イザヨイは冷徹に言い放ち、左手を空へと突き上げた。

 雲一つない青空から、不吉な紫電の輝きが収束していく。


「貫け、《ライトニングスピア》!」


 天空から降り注いだ一本の巨大な雷の槍が、真っ直ぐにグリフォンの背中を打ち抜いた。

 バチバチという激しい放電音と共に、焦げ臭い肉の匂いが辺りに立ち込める。


「ギャルァァァッ!!」


 致命傷に近い一撃。

 しかし、グリフォンはなおも倒れない。

 前足で地面を掻き毟り、血反吐を吐きながら、最後の一撃を放とうと首をもたげる。


「まだ動くか。なら……もう一発!」


 イザヨイの詠唱すらない二度目の魔法発動。

 再び上空から光が走り、二本目の《ライトニングスピア》が、今度はグリフォンの脳天を正確に貫いた。


 カッ!!


 目も眩むような閃光が弾け、落雷の轟音が岩山にこだまする。

 今度こそ、グリフォンの巨体がビクンと大きく跳ね、そして……二度と動かなくなった。


 黒い焦げ跡を残した黄金の羽毛。

 だらりと地面に投げ出された、獅子の躯。

 そこには生々しい血と肉の匂い、そして強大な命が失われた証である「巨大な死骸」が、圧倒的な質量を伴って横たわっていた。


「……ふぅ。これで終わりだね」


 イザヨイは乱れた銀髪を指で払い、ホッと息をついた。

 激しい動きはしていないので、おっぱいの揺れも最小限で済んだ。

 魔法万歳、である。


 静寂が戻った荒野で、イザヨイはくるりと振り返り、呆然と立ち尽くす三人の仲間たちに向かって、無邪気な笑顔を見せたのだった。

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