過保護組の心配
会議を終え、アルドリックやアンドリューたちから過分なまでの感謝をされながら屋敷を辞したイザヨイとシルフィア。
二人は待機していたボルグ、シエル、クローザーと合流し、宿屋の食堂へと向かった。
テーブルに熱々の肉料理とエールが並べられたところで、イザヨイは先ほどの会議で決定した最終作戦を三人に打ち明けた。
「……というわけで、王都からの騎士団が到着次第、私が一人で『迷いの森』の奥へ行って、あの黒い瘴気の親玉を倒してくることになったから」
あっけらかんと告げられたその内容に。
「「「はぁぁぁっ!?」」」
案の定、過保護三人組の絶叫が食堂の天井をビリビリと震わせた。
周囲の冒険者たちが「またあのパーティか」と生温かい視線を送ってくるが、ボルグたちはそれどころではない。
「お前、バカ言ってんじゃねぇ!! 一人で森の奥に行くだと!? 相手はワイバーン以上の化け物かもしれないんだぞ!?」
「そうよイザヨイちゃん! いくらなんでも危険すぎるわ! どうしても行くなら、私たちも一緒に行くからね!」
「……同感だ。未知の領域に単独潜入など、偵察のセオリーから大きく外れている。万が一罠に掛かれば、どんな魔法も意味をなさない」
彼らの反応は、イザヨイにとっては予想通りのものだった。
仲間を死地へ一人で行かせるなど、この絆の強いパーティが許すはずがない。
「皆さん。これはもう決定事項で……」
イザヨイが宥めようとした、その時だった。
「アンタたちうるさいわね! 過保護もいい加減にしなさいよ!」
隣でフルーツ水を飲んでいたシルフィアが、ドンッとジョッキをテーブルに叩きつけ、三人をキッと睨みつけた。
「シ、シルフィア……? だがな、いくらなんでも……」
「大丈夫よ」
シルフィアは腕を組み、Aランク冒険者の威厳を込めた低い声で、ボルグたちの反論をピシャリと遮った。
「わたしだって最初は反対だったわ。でも……この子の実力は、このわたしが保証する。悔しいけど……イザヨイのあのデタラメな魔法火力があれば、どんな化け物だって一撃で塵になるわ」
「シルフィアちゃん……」
「それに! もしアンタたちが一緒について行って、万が一足手まといにでもなったら、アンタたちを庇って広範囲魔法を撃てなくなるでしょ! 逆に危険になるのよ!」
「うぐっ……」
シルフィアの理路整然とした指摘に、ボルグとクローザーは呻き、シエルも言葉に詰まった。
確かに《ダイヤモンドダスト》ような大魔法は、巻き込まれる味方がいない単独行動でこそ、最も無慈悲に、そして安全に真価を発揮するのだ。
「……でも」
それでもまだ納得しきれない様子の三人に、イザヨイはそっと、シエルの手を握り返し、ボルグとクローザーの目を見つめた。
「ボルグさん。シエルさん、クローザーさん」
イザヨイは、ふわりと、だが揺るぎない覚悟を込めた笑顔を浮かべた。
「私を、信用してくれませんか」
「イザヨイ……」
「皆さんが心配してくれているのは、本当に嬉しいです。でも、これは私にしかできない仕事なんです。……絶対に、あの親玉を倒して、無傷で皆さんの元に帰ってきます。だから、待っていてください」
その真っ直ぐな瞳。
かつてオーク集団を一掃した時や、コボルトリーダーから仲間を救った時と同じ、絶対的な自信。
ボルグはギュッと拳を握り締め、深く息を吐き出すと、ガシッと自分の頭を乱暴に掻き回した。
「……あぁ、もう! 分かったよ、分かった!! お前がそこまで言うなら、これ以上は足は引っ張らねぇ!」
「ボルグ……」
「だけどな、イザヨイ!」
ボルグはイザヨイを真っ直ぐに指差した。
「約束しろ! 少しでもヤバいと思ったら、親玉なんてどうでもいいから、尻尾巻いて全速力で逃げてこい! 命より大事なモンなんてねぇんだからな!」
「そうよ! もし帰ってこなかったら、私が森ごと燃やし尽くして探しに行くんだからね!」
「……俺もいつでも援護射撃ができるよう待機している。忘れるな」
三人の不器用で、けれど深い愛情に満ちた言葉に、イザヨイの胸の奥が熱くなった。
「はい! 約束します!」
イザヨイが元気よく頷くと、シルフィアも少しだけ嬉しそうに口角を上げた。
「……じゃあ、街の防衛は俺たちに任せとけ。王都の騎士団が来るまで、一匹たりとも城壁には近づけさせねぇ」
「ええ。イザヨイちゃんが安心して森に行けるように、私たちがシルフィアちゃんをしっかりサポートするわ!」
「アンタたちがわたしのサポートってのが引っかかるけど……まあ、足手まといにならない程度に使い倒してあげるわ!」
こうして。
テアトラムの防衛と、黒い瘴気の元凶討伐を巡る激しい議論は、仲間たちの強い絆と信頼のもと、無事に決着を見たのである。
(よーし、これで後顧の憂いはない! あとは王都の騎士団が到着するのを待って、ラスボス戦だ!)
イザヨイは運ばれてきた熱々の肉料理に齧り付きながら、目前に迫った大型イベント(おっぱい防具への最終試練)に向けて、闘志と食欲を爆発させるのだった。




