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魔物の襲撃③

(……マジか。この世界の魔法のレベル感、完全に勘違いしてたわ)


 シルフィアの必死な形相を見て、イザヨイの脳内に冷や汗が流れた。


『エターナルクレイドル』のシステム上、プレイヤーは全てのスキルツリーを習得することは不可能だった。

 限られたスキルポイントを割り振らなければならないため、イザヨイは「前衛(物理)特化」をベースにしつつ、牽制や雑魚処理に便利な「一部の広範囲魔法(氷と雷)」だけをピンポイントで習得するというピーキーなビルドを組んでいた。


 だからこそ、氷魔法専門のツリーを進めれば《ダイヤモンドダスト》よりもさらに強力な、絶大魔法も存在するはずなのだ。


(俺は氷特化じゃないから、この魔法が手札の中で一番使いやすいだけなんだけど……。もしかして、《ダイヤモンドダスト》ってこの世界じゃ『究極奥義』みたいな扱いなのか?)


 思い返せば、《アイスストーム》と《ダイヤモンドダスト》。

 威力、範囲、凍結力、全てにおいて後者が圧倒的に上位互換である。

 当然、ゲーム内でも消費MPは跳ね上がり、詠唱時間も長くなるため、乱発は難しい魔法だった。


 しかし――レベル200のカンストステータスを誇るイザヨイにとって、MPの枯渇などあまり心配はいらず、カンストレベルのステータスよってほぼノーモーションで発動できるのが『当たり前』の感覚になってしまっていたのだ。


(そりゃあAランクから見たら、俺のやってることってチート丸出しのバグキャラ以外の何物でもないよな……)


「ちょ、ちょっと! アンタ、なんで黙ってるのよ!」


 シルフィアが、イザヨイのドレスの裾をグイグイと引っ張って詰め寄ってくる。


「アンタ、本当は何者!? Eランクの新人なんて絶対に嘘でしょ! どこかの国から追放された大賢者とか、寿命をごまかしてるエルフの長老とかじゃないの!?」

「え、あ、いや、えっと……それはその……」


 イザヨイは目が泳ぎ、完全にしどろもどろになっていた。


『俺、実はネトゲ廃人のおっさんで、カンストキャラに転生したんだ』などとバカ正直に答えるわけにはいかない。

 ならばどう誤魔化せば納得してもらえるのか、全く言い訳が思い浮かばない。


「ほら、言いなさいよ! アンタ何者なのよ!? 答えないならアンタのその無駄なおっぱいごと――」


 シルフィアが怒り心頭で杖を振り上げた、その時だった。


『ギャルルルォォォォッ!!』


 二人が作り上げた「氷の防壁」の隙間から、凍結を免れた後続のオーガやオークの群れが、再び怒号を上げて防衛線へと突進してきたのだ。

 シルフィアとの言い合いで数秒間魔法の展開が止まっていたため、防壁を迂回してきた魔物たちがかなり接近している。


「ああっ! シルフィアちゃん、魔物が来るよ! 今はそれどころじゃないって!」

「っ……!!」


 シルフィアもハッと我に返り、迫りくる魔物の圧に舌打ちをした。


「……くっ! 今はこれ以上聞かないけど、この戦闘が終わったら、洗いざらい吐いてもらうからね! 覚悟しなさいよ!」


 シルフィアはイザヨイをキッと睨みつけ、すぐに前方を向いて杖を構え直した。


「あんたは右! わたしは左の抜けを塞ぐわよ! 絶対に一匹も防衛線に近づけさせないわ!」

「りょ、了解です先輩!!」


 Aランク冒険者としての使命感が勝ったことに安堵しつつ、イザヨイもまた右手を構えて魔力の充填を始めた。


「《アイスニードル》!! 《アイスニードル》!!」


 シルフィアが必死に氷の矢を連射して魔物の足止めを行う。


「《チェーンライトニング》!」


 イザヨイはシルフィアの負担を減らすように、消費MPの少ない(だが高威力の)連鎖雷撃を放ち、氷の壁の間を抜けようとする魔物たちを次々と黒焦げにしていく。


(……やばい。この戦闘が終わったら、絶対シルフィアちゃんに質問責めにされる……。どうやって設定(素性)をでっち上げよう……)


 迫り来る千の魔物の群れよりも、戦闘後のロリ先輩からの追及の方が恐ろしくて、イザヨイは冷や汗をダラダラと流しながら、無表情で大魔法を連発し続けるのだった。

 防衛線は、二人の美少女魔導士の圧倒的な火力によって、維持されていた。

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