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たかが子爵家のキャナル  作者: 瀬崎遊


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キャナルの兄の場合


 漸く落ち着く所に落ち着いたとほっと息を吐いた。

 父は知らないようだが、母が昔、キャナルに「王宮は伏魔殿ですよ」と言ったことが王宮に行きたくないと言い出したきっかけである。


 今の今まで尾を引いていたが、キャナルは伏魔殿の意味を正しく知っているんだろうか?

 それとも母の言い方が怖かっただけなのだろうか?


「キャナル」

「なんですか?」

「伏魔殿って意味知ってる」

「王宮のことです。昔、お母様が言ってました」

「完全に間違っているね」

 首を傾げる妹は可愛いと思うが、やっぱり間違って覚えていると思った。


「伏魔殿とは確かに王宮に近いものはあるかもしれないけど、悪魔が住む殿堂とか、陰謀、悪事が多発するところのことだからね。どっちかっていうと、王宮より殿下の側こそが伏魔殿かもしれないよ。母上もなぜキャナルにあんな嘘を教えたんだろう?」


 背後から母の声がした。

「可愛い娘を王宮になんてやりたくなかったからですよ」

「被害甚大ですね。宰相様が死にそうになっていましたよ」

「反省しました。まさかキャナルの心にここまで染み込んでいるとは思いもしませんでした」

「子供を怖がらせるのも程々にしなくてはなりませんね。僕の子供には言わないでくださいね」


「もう、言いませんよ。キャナルで懲りました。でも、キャナル、王宮は伏魔殿で間違いないですよ。今は平和で王宮にも嫌な人がいないように見えるかもしれませんが、人を貶めようとする人はいくらでもいます。気を抜いてはいけませんよ」

「はい。お母様」

 母がキャナルの頬を指先で撫で、手の届かない場所に行く娘を思い遣っているのがわかった。


「あなたは小さい頃からどのような形であれ、王宮に入るかもしれないと思っていました。頭も良かったですしね」




エイデンの場合


 私のキャナルは美しいと思う。

 他の誰もそう思わなくても私は美しいと思うのだからそれがすべてだ。


 キャナルは小さい頃からなぜか王宮に来るのを嫌がっていた。

 小さく震えるキャナルはとても可愛らしかった。


 親に言われていたのか、あの頃のキャナルの気質だったのかは分からないが、キャナルは輪の中には入らず、建物から少しでも距離を取りたいと体現していた。


 そんなキャナルの側で父上や母上から聞いた物語を私は聞かせていた。

 その時だけは震えが止まり、キラキラした目で私を見ていたものだ。


 本当に可愛かった。

 大きくなっても王宮は苦手なようで「遊び来て」と誘っても来てくれるのは1年のうち数えるほどだった。

 会いたかったから、私から会いに行くことにしたけど。

 他のどの子にも会いたいと思うことはなかった。

 ただ、キャナルに会いたかった。




アリアルの父の場合


 アリアルが学校に行けなくなってから早いものでじきに卒業式だ。

 アリアルの卒業は認められなかった。

 試験だけでも合格していれば卒業できたのだが、地頭も良くなかったし、合格できないのは仕方がないことだろう。


 退学するのか、来年学校に通うかどちらか決めるよう言われたが、アリアルは学校に行けるのだろうか?

 というよりか、人として暮らしていけるようになるのだろうか?


 衣装の右袖を破いて帰ってきてから1人で喚いたり、殿下がここに居ると言ったりする。

 昔のようにキーキー言ったりするようなことはなくなったが、昔も今もおかしいことは変わりない。



 妹のファリが学園に通うようになる。

 異常な姉と同じ学園に通うのは辛いだろう。

 アリアルの退学届を学園に提出した。

 ファリはアリアルと血の繋がりがあるようには思えないほど穏やかで賢い子だ。

 我が家はファリの婿入りしてくれる相手を探すことに決めた。

 

 そのためにもアリアルをどこかの施設にでも入れなければならないと思っている。


「ファリにアリアルという負の遺産を残すことは申し訳ないと思っている」

「よろしいのですよ。お父様。昔に比べれば今の方がましです」

「すまないな」

「お母様もこの間、同じことを謝っていらしゃいました」



  防音設備を設置して、アリアルの部屋を屋根裏部屋に替えることにした。

 お客様が来られた時に困るのだ。

 アリアルの叫び声がして。


 アリアルの事はある程度調べたが、あんなふうになる理由がわからないままだ。


 預かってくれる施設が見つからない。 

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