霧幻の迷洞樹 その③
リアムを探しながら、迷路を降る僕の耳に、遠くから響く爆音が聞こえてくる。
「今のは…爆雷音の音…! トゥリー、今のでマッピングできますか!?」
「発信源への最短ルート表示、動体反応は3ですわ」
「この反応、さっきの大蛇じゃないですか…? 急がないと…」
僕はその音を、居場所を知らせるために放たれた音だと思っていた。だが、僕がリアムの元に駆けつけた時、その考えはひっくり返された。
そこにいたのは、頭部を損傷し動かなくなった蛇と、何事もなかったかのように辺りをうろつく黒い鳥。
「あ、瑛太さん…すみません、はぐれちゃって」
「謝るのは僕の方です。守ると言っておきながら、危険な目に合わせてしまって申し訳ありません。この蛇…リアムさんが倒したんですよね」
「え、ああ、まあ…あの鳥が危ないって思ったら、つい」
どうやら僕は彼をみくびっていたらしい。僕にはトゥリーがいるが、誰かのために命を賭けられるほどの勇気はない。
「…強いですね、リアムさんは」
「え、いや、この糸のおかげですから」
「そうじゃなくて、気持ちの話です。あの蛇に立ち向かうなんて凄い勇気じゃないですか」
「へっ!? い、いや、あー…ありがとうございます、あはは…そ、そうだ、あの鳥がいるってことは、きっともうすぐ目的地ですよ!」
僕が褒めたことが照れくさかったのか、リアムは話を変えてそそくさと先へ進む。同い年のはずなのだが、青臭くて羨ましい…なんて思いながら僕はそれを追いかけた。
だんだんと霧が晴れる。開けていく視界は、まさに楽園と言うべき場所だった。バスケットファーンひとつぶんのその部屋は、コウハイフウチョウの楽園だった。
北東に大きく開いた穴から覗く光に照らされて、フウチョウの羽が翡翠のように輝く。羽についた苔を、まさに、光背のように太陽に向けている。
「光合成、ですわね」
詳しい仕組みはわからないが、捕食者のいないこの場所で、羽の苔と共生して生きているのだろう。リアムはその胸元の蒼い羽に触れた。
「…すみません、ここまで守ってくれたのに」
この絶景に、僕とリアムは同じことを考えていた。この楽園に手をつけることは許されない、と。
「…実は、僕が昨日泊まった村の村長…トリクスさんが村民を集めて特訓してるんです。リアムさんも、あれだけの勇気があるんですから、特訓してもらえばきっと勝てますよ」
「…そうかな…うん、そんな気がしてきた」
リアムは力強く言う。この景色に惑わされたのではない。この旅を通して前向きになったんだと思う。
「あ、見てください、あれ」
リアムの指差す先、遠くに見える海の中には、何かが白く煌めいている。
「グレートバリアリーフですよ! 本当に存在してるなんて…」
「……え?」
「ああ、そういえば、ここに来て日が浅いから知らないんでしたっけ」
いや、知っている。よく知られた観光地──それがこの異端な地に、どうしてあるのか。少し考えれば答えはすぐに出た。
「…どうして気付かなかったんだ」
この世界は、紛れもない『地球』そのものだということに。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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コウハイフウチョウ
鳥綱 スズメ目 フウチョウ科 ウロコフウチョウ属 コウハイフウチョウ
迷洞樹の湿度の高さから羽にコケ植物が生え、結果共生できるようになったフウチョウ。天敵が入ることのない迷洞樹の最深部で静かに暮している。




