霧幻の迷洞樹 その②
霧幻の迷洞樹、という名だけあって、奥に進むとだんだん霧が濃くなっていく。普通ならとっくに方向感覚を失って帰れなくなっているだろう。
「リアムさん、僕から離れないでくださいね」
「わ、わ、わかってます…!」
トラップに怖気づいてしまったのか、さっきまでの威勢は見る影もなくなってしまった。まあ首が飛びかけたのだから仕方ないだろう。
しかし、非情にも大自然は次の刺客を送り出したようだ。音もなく近寄るそれに、この時は僕も気付いていなかった。
濃霧に浮かび上がったのは、大きく口を開いた大蛇の顔。気づいた僕は咄嗟にリアムを突き飛ばしたが、避ける余裕もなく口が閉じられる。
「…っ、衝雷銃!」
口目掛けて電撃を放つ。一瞬の閃光が蛇の口を灼き、大きくのけぞった後気絶。
「あ、危なかった…」
「見たところニシキヘビの一種のようですわ。毒は持たないようですが、締め付けられると骨折ではすみませんわ」
「それ以前に丸呑みされるとこだったんですが…」
「ところで瑛太様、リアムが見当たりませんわ」
トゥリーに言われて気づいた僕は、慌てて振り返る。この濃霧、少し離れただけで居場所がわからなくなってしまう。
「リアムさん、聞こえますかー!?」
しかし返事がない。すぐそばにいれば返ってくるはずだ。別の蛇に襲われたかと心配するも、周囲に反応はなかった。
辺りを詮索すると、床が抜けた跡を見つける。どうやら突き飛ばした衝撃で脆くなった木が折れてしまったようだ。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「いたた…」
迷洞樹を構成する木がクッションとなり、大きな怪我はなかった。しかし、瑛太とはぐれたことを察すると、リアムはだんだんと焦り始めた。
ここまで強がってはいたが、いよいよリアムは後悔の方が大きくなって気持ちが沈んでしまった。彼に従って帰っていれば良かったのに、と。
そんなリアムの横を、黒い小鳥が通り過ぎる。それはまさに、噂に聞く極楽鳥のようだった。
リアムは顔を上げる。直前の憂鬱はどこかへ消え去り、代わりに二つの感情が芽生えた。ひとつはコウハイフウチョウを見つけた喜び。
そしてもうひとつは、顔を上げた先にいる、先ほどよりひと回りもふた回りも大きい蛇に対する恐怖であった。
天国と地獄が同時に訪れたような状況に、リアムの思考は掻き回される。だが、大蛇の目が目の前の黒い鳥を追っていることに気づいた時、予想外の結論が脳から弾き出された。
「助けなきゃ…!」
いつのまにか、さっき拾った魔術デバイスを握りしめていた。そしてリアムは周囲を見回した。きっとアレがあるはずだ…と。
「あった、よし…爆雷音!」
目的の物を視界に入れると、リアムは魔術を唱える。瑛太が使っていたのは、奇しくも誰でも使えるEランク魔術。デバイスから爆音が鳴り響く。
蛇の意識がリアムへと向かう。獲物を吟味するように近づく蛇。リアムは背筋が凍るのを我慢して走った。
蛇は攻撃体制に入る。リアムは蛇の方には目もくれず、姿勢を低くして目的の場所に滑り込む。腐った死骸の山にリアムは頭から飛び込んだ。
次の瞬間、蛇は一瞬にしてリアムに食いかかる。だが、蛇はリアムを捉えるばかりか、身体が八つ裂きになってしまった。
「やっ…た?」
蛇は、アリの幼虫の出すピアノ線のような糸に引っかかったのだった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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オラリアニシキヘビ
爬虫綱 有鱗目 ニシキヘビ科 オマキニシキヘビ属 オラリアニシキヘビ
超大型かつ攻撃的な樹上棲ヘビ。毒は持たず、人間を含む哺乳類を絞め殺して丸呑みにする。
※この作品に登場する動物は、一部を除き創作されたものです。現実を元に創られていますが現実には存在しません。




