霧幻の迷洞樹 その①
「燃魂響が出ない…!?」
「どうやらこの森の湿度が高すぎて発火ができないようですわ!」
猿は体制を立て直し、もう一度こちらに向かってくる。
「なら…身体強化!!」
体に少しの電流が奔る。向かってくる猿の手を逆に掴み、地面に叩きつける。柔道の授業はうろ覚えだが効いているようだ。僕はそのまま寝技で絞め落とし、猿を気絶させる。
考えた通りの動きだ。筋肉の反応速度を上げる、という単純な魔術だが、その効果は絶大だ。力の弱さも義手で物理的に補うことができる。
「す…すごい…」
「あ、ありがとう……でもこれ、すごい疲れますね…」
「使用後はカルシウムが不足します。しっかり栄養を取ってくださいませ」
そういうのは先に言って欲しかった。思えば食べ物は持ってきていないし、痙攣した腕でここから先は行かなきゃいけないのか。
「あ、僕、弁当持ってきてます」
「貰っていいんですか?」
「はい、助けてもらって、さらについてきてもらってるんですから、これくらいは」
僕たちは、開けた球状のホールで、弁当を開いて食べる。やはりオラリアの魚は塩が効いていて美味しい。味としては鮭っぽい感じだ。
食事を終え、再び僕らは迷洞樹を進んでいった。先ほどのような球状の部屋はいくつもあり、ゲームで言うなら宝の部屋のようだった。
「なんでこんな部屋ができるんでしょうね」
「恐らく、バスケットファーンのせいかと。ここに入る前、木にくっついていた球体を見たと思いますわ」
「それなら僕も見たよ。触ったら中からあのアリがいっぱい出てきて襲われたけど…」
なるほど、あの球状の木が締め殺されてできた空間が部屋になっているのか。
「…というかあの部屋、なんか色々落ちてない?」
リアムが指差した先には、木の実や小動物の死骸などが溜められた部屋。おおかた、さっきの猿が集めておいたものだと思うが…目を引くのは、その山の一番上に置かれているものである。
「…あ、あれって、魔術デバイス!?」
「ま、待って! 行っちゃダメ!」
彼も人並みに魔術に興味があったらしく、一目散に駆けていく。僕が引き留めても聞こえない様子なので、その辺に落ちていた木の棒を投げつけた。
木の棒はリアムの横を通り、その部屋に入った途端バラバラに切り裂かれた。流石のリアムも驚いて立ち止まる。
「なっ…!?」
「この部屋、ピアノ線みたいなのが張られてます。もし飛び込んでたら首が飛んでましたよ」
「く、首…!?」
「これは…先ほどのアリが営巣に使う糸のようですわ。もともとあった巣が朽ちて糸だけが残ったのでしょう」
糸というには硬すぎる気もするが、まあ深くは考えるべきじゃないだろう。僕は義手に搭載されている十徳ナイフで糸を斬り、中に入る。
よく見ると、猿の頭蓋骨らしきものも落ちている。この山、単にここで死んだ猿が持ってたものが溜まってたんだろうな。
まさかこんな天然の罠まであるとは。いよいよ迷洞樹が僕たちに牙を剥いてきたということだろうか。
「でも、この糸があったってことは、この先には野生動物は進めないってことですよね」
「地図を見る限り、他にこの先へ通ずる道もありませんわ。この先にはまた異なる生態系が確立されていると見て間違いないかと」
「なら決まりですね、この先にコウハイフウチョウがいる可能性は高い」
霧幻の迷洞樹。その恐ろしさが垣間見えると同時に、ゴールが近づいていることを実感する。僕たちはその部屋の先へと足を進めた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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ジャイアントバスケット
シダ綱 ウラボシ目 ウラボシ科 ハカマウラボシ属
着生する木が肥大化するのに伴い、球状に近づいていったドリナリア。迷洞樹の部屋の基になる。
ビッググリーンアント
昆虫綱 ハチ目 アリ科 ツムギアリ属
幼虫の吐くピアノ線のような硬い糸を使い、ジャイアントバスケットに営巣する。このジャイアントバスケットが締め殺されて枯れると、糸だけが残り自然のワイヤートラップになる。
※この作品に登場する動物は、一部を除き創作されたものです。現実を元に創られていますが現実には存在しません。




