第6話「想いが重なる距離――言葉より近く」
夜。
静かな時間。
テレビの音も消えて、部屋の中には落ち着いた空気が流れていた。
ソファに並んで座る、いつもの距離。
でも――今日は、少し違った。
「……なんか、静かだね」
みのりがぽつりと呟く。
「そうですね」
短く返す。
それ以上、言葉が続かない。
沈黙が、嫌なわけじゃない。
むしろ、心地いいはずなのに。
なぜか、意識してしまう。
隣にいるのは――自分の“妻”。
そう考えるだけで、距離が急に近く感じる。
「潤一郎くん」
「……はい」
名前を呼ばれるだけで、反応してしまう。
「こっち、見て」
ゆっくりと顔を向ける。
視線が合う。
その距離は、思っていたよりも近かった。
「……」
言葉が出ない。
何か言わなきゃいけない気がするのに、何も浮かばない。
すると、みのりが少しだけ目を細める。
「緊張してる?」
「……してます」
正直に答えるしかなかった。
その瞬間、ふっと笑われる。
「やっぱり」
でも、その笑い方は優しかった。
からかうようなものじゃなくて、どこか安心するような。
「ねえ」
少しだけ、声のトーンが変わる。
「……いい?」
その意味を、考えるより先に。
「……はい」
そう答えていた。
みのりが、ゆっくりと距離を詰めてくる。
逃げる理由なんてない。
でも、心臓の音だけがやけに大きい。
あと少しで触れそうな距離。
息がかかるほど近い。
「……好き」
小さく、囁くような声。
次の瞬間。
唇が、重なった。
――優しく。
でも、それだけじゃ終わらなかった。
離れることなく、少しだけ角度を変える。
触れるだけだった距離が、少しずつ深くなる。
思考が追いつかない。
ただ、受け入れることしかできない。
みのりの手が、そっと肩に触れる。
その温もりが、さらに現実を強くする。
時間の感覚が曖昧になる。
どれくらい続いたのか分からない。
やがて、ゆっくりと離れる。
「……っ」
息が乱れる。
何も言えない。
すると、みのりが少しだけ照れたように笑う。
「……びっくりした?」
「……はい」
それしか言えなかった。
「でも」
彼女は続ける。
「ちゃんと、伝えたかったから」
まっすぐな視線。
「言葉だけじゃなくて」
その意味が、ゆっくりと理解できる。
「……俺も、好きです」
ようやく出た言葉。
それを聞いて、みのりは少しだけ嬉しそうに目を細めた。
「知ってる」
即答だった。
思わず苦笑する。
「ずっと言ってくれてたもんね」
あの握手会から。
ずっと。
「……はい」
頷く。
すると、彼女はもう一度だけ距離を縮めて。
今度は、軽く。
優しく触れるだけのキス。
「これは、おまけ」
少しだけいたずらっぽく笑う。
その表情に、また心臓が跳ねる。
夜の静かな時間。
言葉よりも近い距離で、想いが重なった。
――夫婦としての距離が、また一歩、近づいた夜だった。
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