第18話「接触――週刊誌が“線”を繋ぎ始める日」
朝の大学キャンパス。
いつも通りの風景。
だが、潤一郎の視線だけは違っていた。
(……いる)
昨日までいなかった“違和感”。
視線の先。
キャンパス外のベンチに座る二人組。
スーツ姿。
スマホを見ながら、時折こちらを確認している。
――株式会社龍雷神・週刊誌部。
戸倉和喜と渡邊斗亜。
(来たか……)
背中に冷たいものが走る。
――同時刻。
「編集長、やっぱりあの大学です」
「確定?」
溝口朱鳥の声は冷静だった。
「みのりの出入り情報と一致してます」
「あと、例の男子大学生も」
渡邊がスマホを操作する。
「移動パターンも取れました」
「ふーん」
溝口は軽く笑う。
「“線”が繋がってきたわね」
――大学。
「潤一郎くん」
後ろから声。
振り返ると、木乃香だった。
「今日さ」
少しだけ顔を曇らせる。
「変な人いなかった?」
「え?」
「さっきから、外でずっと誰か見てる感じするんだけど」
(……気づいてる)
鋭い。
「気のせいじゃない?」
恒星が笑って流そうとする。
だが木乃香は首を振る。
「いや、あれは“見てる”」
その瞬間。
潤一郎のスマホが震える。
みのりからのメッセージ。
『今日、事務所前に週刊誌来てる』
(……同時か)
動きが一気に加速している。
――午後。
事務所前。
みのりはマネージャーと共に車へ向かっていた。
その瞬間。
「みのりさん!」
「少しだけお話を!」
戸倉と渡邊が一気に距離を詰める。
カメラが向く。
一瞬の緊張。
「何の取材ですか?」
マネージャーが即座に前に出る。
「プライベートの件で少し」
「お答えできません」
即拒否。
だが――
戸倉が一歩踏み込む。
「大学生の男性とお会いになっているという情報がありまして」
空気が止まる。
(……やばい)
みのりの表情が一瞬だけ揺れる。
しかし――
「事実無根です」
はっきりと言い切る。
その声はプロのそれだった。
「仕事とプライベートは分けています」
完璧な対応。
その間にマネージャーが車のドアを開ける。
「失礼します」
そのまま乗り込む。
車が発進する。
――回避。
ギリギリで、成立していた。
――大学。
潤一郎はスマホを握りしめていた。
(……今のは)
完全に“接触フェーズ”。
あと一歩で記事になる段階。
「まずいな……」
木乃香が呟く。
「本当に来てる」
「やっぱりただ事じゃないよ」
その目が潤一郎に向く。
「ねぇ」
「最近、何か隠してない?」
一瞬の沈黙。
周囲の音が遠くなる。
(……ここで崩れたら終わる)
だが――
「特にないよ」
即答。
表情も崩さない。
「ただの噂じゃない?」
軽く笑って見せる。
木乃香はしばらく見つめる。
――だが。
「……そう」
それ以上は踏み込まなかった。
――夜。
みのりの部屋。
「今日は危なかったね」
ソファに座りながら、みのりが言う。
「はい」
潤一郎も息を吐く。
「でも」
みのりは少しだけ微笑む。
「ちゃんと守れた」
「……ギリギリですけど」
「ギリギリでも勝ちは勝ち」
その言葉に、少しだけ救われる。
窓の外。
街の明かり。
そのどこかで、確実に動いている“目”。
「次は」
みのりが静かに言う。
「もっと踏み込んでくる」
その予感は、二人とも感じていた。
――週刊誌。
疑念。
大学。
すべてが一本の線になりつつある。
だがまだ。
真実には届かない。
それでも。
時間の問題だった。
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