第16話「再燃――疑念は静かに繋がっていく」
大学キャンパス。
昼休みの中庭は、いつも通りのざわめきに包まれていた。
「ねぇ潤一郎くん」
呼び止めたのは、新島木乃香だった。
その隣には、菅洞明日香と白濱恒星。
いつもの三人組。
「この前さ」
木乃香がスマホを見ながら言う。
「小学校の同窓会、あったんだってね」
「……ああ、うん」
潤一郎は一瞬だけ動きを止める。
「誰か行ってた?」
「兄貴が」
さらっと答える。
「へぇ、兄貴いるんだ」
明日香が興味なさそうに言う。
その時――
「それでさ」
木乃香の視線が少しだけ鋭くなる。
「その同窓会に、みのりさん来てたって話、聞いたんだけど」
空気が一瞬で変わる。
(……え)
心臓が跳ねる。
「……そうなんだ?」
できるだけ自然に返す。
「うん、偶然ってすごいよね」
木乃香は微笑む。
だが、その目は笑っていない。
――その少し離れた場所。
「おい、あれ」
瀬名昴がスマホを見ながら呟く。
「姉ちゃん、ほんとにみのりさんと同級生だったの?」
「そうだよ」
遥香が頷く。
「春奈も同じクラス」
「マジで芸能人と同じ学校だったんだ……」
明巳も驚いたように目を丸くする。
「でさ」
昴が視線を上げる。
「さっき言ってた潤一郎ってやつ」
「姉ちゃんが気にしてた人?」
「うん」
春奈が頷く。
「なんかさ」
少しだけ考える。
「みのりさんと、やけに距離近くない?」
その言葉で、空気が少し止まる。
「え?」
明巳が首を傾げる。
「いや、ただの友達って感じじゃないっていうか」
昴は腕を組む。
「……観察してる感じあるよね」
――同時刻。
大学中庭。
「それでさ」
木乃香が続ける。
「この前のイベントの話なんだけど」
潤一郎の指がわずかに動く。
「みのりさんの握手会」
その単語に、明日香が反応する。
「行ったの?」
「うん、友達と」
白濱恒星が答える。
「その時さ」
木乃香が視線を細める。
「なんか妙に落ち着いてる人、いなかった?」
「え?」
潤一郎の背中に汗が流れる。
「ファンなのに、距離感が変だったっていうか」
(……まずい)
完全に“過去の自分”が引っかかっている。
「考えすぎじゃね?」
恒星が笑う。
「そもそも芸能人だし」
「そんなもんでしょ」
だが木乃香は、小さく首を振る。
「でもね」
「違和感って、残るんだよ」
静かな声。
その頃――
「ねぇ」
瀬名昴がスマホを見せる。
「これ」
そこには、同窓会の写真。
ぼんやりと写るみのりと壯介。
そして、その少し後ろに――潤一郎。
「これさ」
昴が指を止める。
「やっぱり、距離近くない?」
「……確かに」
明巳も画面を覗き込む。
「ただの知り合いにしては」
春奈が小さく呟く。
「近すぎる」
――再び大学。
「潤一郎くん」
木乃香が静かに言う。
「その人たちと、どういう関係?」
空気が止まる。
逃げ道はない。
だが――
「昔からの知り合いだよ」
潤一郎は即答する。
壯介の言葉と同じ。
「それだけ?」
「それだけ」
短く言う。
木乃香はしばらく黙る。
そして――
「ふーん」
一歩引く。
だがその目は、まだ離れていない。
(……まだだ)
確信までは届いていない。
だが――
点と点は、確実に近づいている。
――放課後。
みのりに報告する。
「……思ったより、来てるね」
みのりは静かに言う。
「はい」
「木乃香さんも、鋭いし」
少しだけ考える。
「でも」
みのりは穏やかに笑う。
「まだ“確信”じゃない」
その言葉に救われる。
「壯介くんもいるし」
「今はまだ守れる」
窓の外を見る。
「でもね」
静かな声。
「これからは、“偶然”が減るよ」
その一言に、空気が少しだけ重くなる。
――疑念は、すでに繋がり始めている。
だがまだ。
真実には届かない。
それでも。
確実に、近づいていた。
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