閑話①(後編)「再会の裏側――揺れる視線と、隠された関係」
同窓会は、時間とともにさらに賑やかになっていった。
小柴陽菜が飲み物を配りながら笑う。
「ねぇねぇ、久しぶりすぎて誰が誰だか分かんないんだけど!」
「それお前が一番変わってるからな」
坂木公輔がすかさず突っ込む。
笑いが起きる。
「相変わらずうるさいなー」
佐々木一真が肩をすくめる。
その隣では杉林千穂が静かに微笑んでいた。
「でも、こういうのいいよね」
懐かしさが空気を満たしていく。
そこへ――
「お、瀬名姉妹じゃん!」
双子が入ってくる。
瀬名遥香と瀬名春奈。
「どっちがどっちだっけ?」
「またそれ言う!」
軽いじゃれ合い。
さらに場が明るくなる。
高橋博樹が腕を組む。
「いやほんと、全員揃うの奇跡だろこれ」
「渡邉兄弟もいるしな」
渡邉純と渡邉泰が並んで笑う。
「俺ら双子じゃねぇよ」
「名字が似てるだけだって」
そんなやり取りの中――
みのりは少しだけ、周囲から一歩引いた位置にいた。
(……まだ少し、慣れないな)
懐かしい顔ぶれ。
でも、自分は“少し違う場所”にいる感覚。
その時だった。
「でさ」
小柴陽菜が、ふと話題を変える。
「みのりちゃんってさ」
視線が集まる。
「今、彼氏とかいるの?」
空気が一瞬だけ止まる。
「えっ……」
みのりは一瞬言葉に詰まる。
その瞬間。
「またその話か」
壯介がため息をつく。
「お前ら昔からそれ好きだな」
軽く流そうとする。
だが――
「いや、でもさ」
坂木公輔が続ける。
「気になるじゃん?あの人気声優だし」
「絶対モテるだろうし」
周囲が少しだけざわつく。
みのりは静かに微笑む。
「今は、仕事中心だよ」
完璧な回答。
それ以上でも以下でもない。
「ふーん」
だが、その中で――
瀬名春奈がぽつりと呟く。
「でもさ」
「さっきから気になってたんだけど」
視線が、ゆっくりと動く。
その先にいるのは――潤一郎。
「その人、誰?」
一瞬で空気が変わる。
「え?」
潤一郎は固まる。
「さっきから普通にいるけど」
「関係者?」
視線が一斉に集まる。
(……まずい)
心臓が跳ねる。
「ただの……」
言いかけたその時。
「知り合いだ」
壯介が即答する。
あまりにも自然な口調。
「小さい頃からのな」
その一言で空気が落ち着く。
「へぇ、そうなんだ」
「じゃあ地元の友達か」
納得したように頷く周囲。
(助かった……)
潤一郎は内心で息を吐く。
だが――
「でもさ」
今度は杉林千穂が静かに言う。
「なんか距離近くない?」
その一言で、また空気が揺れる。
「え?」
「いや、別に普通じゃない?」
佐々木一真が笑う。
だが千穂は視線を外さない。
「ずっと見てるとさ」
「なんか……雰囲気あるよね」
一瞬の沈黙。
みのりがわずかに表情を変える。
(……鋭い)
壯介が軽く笑う。
「お前ら考えすぎ」
「昔から仲いいだけだって」
さらっと流す。
「だよな?」
潤一郎に視線を向ける。
「……はい」
即答する。
それ以上は言えない。
言えるはずがない。
――“夫婦です”なんて。
「ほらな」
壯介が笑う。
「解散」
軽く空気を切る。
笑いが戻る。
「まあいいや、久しぶりだし楽しもうぜ!」
高橋博樹が場をまとめる。
再び和やかな空気に戻っていく。
だが――
みのりは静かに潤一郎を見る。
(……少し、危なかったね)
視線だけで伝える。
潤一郎も小さく頷く。
(はい)
言葉はいらない。
――同窓会は続く。
笑い声の裏で。
確かに“何か”が少しずつ近づいていた。
だがまだ。
誰も真実には届かない。
――今は、まだ。
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