第13話「追跡――週刊誌に狙われた日」
「最近、“匂う”ネタないですかねぇ」
男が机に足を乗せながら言う。
株式会社龍雷神――週刊誌部。
雑多な資料と写真が積み上がる編集室。
「あるわよ」
低く、鋭い声。
椅子に深く腰掛けているのは、編集長・溝口朱鳥。
40歳。
この業界で“当てる女”として知られている存在。
「人気声優・みのり」
その名前に、場の空気が変わる。
「スキャンダル、ゼロよね?」
「ですね」
戸倉和喜が資料をめくりながら答える。
「クリーンすぎて逆に怪しいっす」
渡邊斗亜が笑いながら言う。
「だからよ」
溝口が立ち上がる。
「こういうのは、“ある”のよ」
確信に近い口調。
「徹底的に洗いなさい」
その一言で、動き出す。
――数日後。
大学帰り。
「じゃあまた明日ー」
「おう」
いつものように別れる。
潤一郎は、一人で歩き出す。
(……今日は大丈夫そうだな)
周囲を軽く確認する。
最近、少し敏感になっていた。
“バレるかもしれない”
その意識が、自然と警戒心を強くしていた。
――その少し後ろ。
「……あいつじゃないか?」
小さな声。
物陰から覗くのは、戸倉と渡邊。
「大学生……条件一致っすね」
「顔も一致率高い」
スマホに表示された写真と見比べる。
そこには――
イベント帰りのみのりと、ぼんやり写る潤一郎の姿。
「ビンゴかもな」
「追います?」
「当たり前だろ」
静かに尾行が始まる。
――一方。
潤一郎はいつも通りマンションへ向かう。
(……ん?)
ふと、違和感。
気配。
(……誰かいる?)
振り返る。
だが、誰もいない。
「気のせいか……?」
歩き出す。
だがその直後。
「今だ」
シャッター音。
カシャッ――
「っ!?」
反射的に振り返る。
一瞬だけ、黒い影が見えた。
(……まずい)
直感だった。
これは――
「撮られた……?」
心臓が一気に跳ね上がる。
だが。
次の瞬間。
「すみません!」
突然、別の学生が割り込んでくる。
「道聞きたいんですけど!」
完全に不自然なタイミング。
でも、そのおかげで。
戸倉たちの視界が遮られる。
「ちっ、邪魔だな……!」
一瞬の隙。
その間に、潤一郎は角を曲がる。
「見失った!?」
「いや、まだ近いはずだ!」
焦る二人。
だが――
その頃。
潤一郎はすでに別ルートへ。
(……危なかった……)
息を整える。
確信していた。
(今の……絶対、週刊誌だ)
ただの勘じゃない。
完全に“狙われていた”。
――夜。
「……やっぱり来たね」
みのりが静かに言う。
話を聞いたあと、少しだけ表情が引き締まっていた。
「……はい」
「タイミング的に、完全に一致してる」
冷静に分析する。
「でも」
少しだけ、安心したように微笑む。
「顔は撮られてないはず」
「え?」
「距離と角度的にね」
さすがだった。
「それに」
スマホを操作する。
「今、マネージャーにも連絡した」
すぐに対応が入る。
「もし写真が出ても、“別人”で押し通せる」
その言葉に、少しだけ肩の力が抜ける。
「……助かりました」
本音だった。
あと少しで――終わっていた。
「でも」
みのりが真剣な目で見る。
「ここからが本番」
「……はい」
「確実に、目をつけられた」
逃げ切るには、さらに慎重になる必要がある。
それでも。
「大丈夫」
みのりは、少しだけ優しく笑う。
「一緒に回避しよ?」
その言葉に、強く頷く。
――週刊誌。
確実に近づいてきた“危険”。
それでも。
二人は、まだ捕まらない。
――すべて、回避するために。
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