第11話「承認――二人の結婚を認める人たち」
「……これが、婚姻届」
テーブルの上に置かれた一枚の紙。
改めて見ると、現実味が一気に増す。
「提出、するんだよね」
みのりが静かに言う。
「……はい」
頷く。
もう気持ちは決まっている。
けれど――
「その前に」
みのりが少しだけ真剣な表情になる。
「一人、通さないといけない人がいる」
「……マネージャーさん、ですか?」
「うん」
芸能人である以上、避けては通れない存在。
「正直、怒られると思う」
苦笑しながら言う。
それでも。
「ちゃんと話す」
その覚悟は、しっかりと伝わってきた。
――数日後。
事務所の一室。
重い空気。
「……で?」
机の向こう側。
腕を組んで座る、みのりのマネージャー。
鋭い視線がこちらに向けられている。
「結婚?」
低い声。
「はい」
みのりがはっきりと答える。
「……相手は?」
その視線が、潤一郎に向く。
「……大学生、20歳です」
一瞬、沈黙。
「……は?」
明らかに空気が変わる。
「ちょっと待ってくれ」
額を押さえながら、マネージャーが深く息を吐く。
「人気声優が、ファンと、交際0日で結婚?」
整理しきれていない様子。
それでも、すぐに鋭い目に戻る。
「……本気か?」
「本気です」
みのりは迷わず答えた。
「遊びじゃない」
その一言に、重みがあった。
マネージャーは、しばらく黙る。
そして、ゆっくりと潤一郎を見る。
「君は?」
「……はい」
緊張で喉が渇く。
それでも、目を逸らさない。
「みのりさんのこと、本気で好きです」
「支えます。ちゃんと」
短い言葉。
でも、全力だった。
再び沈黙。
長い時間のように感じる。
やがて。
「……はぁ」
大きくため息をつく。
「普通なら、止める」
はっきりとした言葉。
心臓が強く打つ。
「でも」
少しだけ視線を逸らしながら続ける。
「お前がそこまで言うならな」
みのりを見る。
「覚悟、できてるんだな?」
「うん」
迷いのない返事。
それを見て、マネージャーは小さく笑った。
「……分かった」
その一言。
「ただし」
すぐに指を一本立てる。
「絶対にバレるな」
空気が引き締まる。
「スキャンダルになったら終わりだと思え」
「……はい」
二人同時に頷く。
「仕事は今まで以上にやれ」
「プライベートは完璧に隠せ」
現実的な条件。
でも――
「守れるなら、認める」
その言葉は、確かな“承認”だった。
「……ありがとうございます」
みのりが深く頭を下げる。
潤一郎も続く。
こうして。
最初の壁は、乗り越えた。
――そして。
「もう一人、いるよね?」
帰り道。
みのりが言う。
「……はい」
それは、潤一郎の母親。
――後日。
実家。
「……は?」
母の第一声だった。
「結婚?」
「はい」
「相手、誰?」
一瞬、迷う。
でも、隠すわけにはいかない。
「声優の、みのりさんです」
沈黙。
数秒後。
「……テレビとか出てる人?」
「はい」
「……で?」
じっと見つめてくる。
「本気なの?」
試すような視線。
「……本気です」
真っ直ぐ答える。
逃げない。
すると母は、しばらく黙っていた。
やがて。
「会わせなさい」
短く言う。
――数日後。
三人で向き合う。
みのりは、丁寧に頭を下げる。
「初めまして」
落ち着いた態度。
普段とは違う“しっかりした大人”の姿。
母はそれをじっと見ている。
「……あんた、本気なの?」
「はい」
即答。
「潤一郎くんのこと、ちゃんと考えてます」
その言葉に、嘘はなかった。
再び沈黙。
やがて。
「……まあいいわ」
少しだけ呆れたように言う。
「この子がここまで言うなら」
息子を見る。
「ちゃんと責任取りなさいよ?」
「……はい!」
強く頷く。
「泣かせたら許さないからね」
「……はい」
さらに強く答える。
母は小さく息を吐いて。
「……変な縁ね」
少しだけ笑った。
「でも」
みのりを見る。
「よろしくお願いします」
その一言。
それは――認めた証だった。
「……はい」
みのりも、深く頭を下げる。
こうして。
二人の結婚は、少しずつ“現実”として認められていく。
――そして。
テーブルの上の婚姻届。
二人で並んで座る。
「書こうか」
「……はい」
ペンを取る。
名前を書く。
その一文字一文字に、重みがあった。
「……これで」
「うん」
「本当に、だね」
静かに笑い合う。
交際0日。
でも、確かな想い。
そして――
多くの人に認められた関係。
「提出、しよう」
その言葉で、すべてが決まった。
――二人は、本当の意味で“夫婦”になった。
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