第10話「誓いのキス――これからも、よろしく」
朝。
カーテンの隙間から差し込む光で、目が覚める。
ゆっくりと意識が浮かび上がる中で――
「……」
すぐ隣に、みのりがいる。
穏やかな寝顔。
静かな呼吸。
(……夢じゃない)
昨日のことが、はっきりと思い出される。
改めてのプロポーズ。
「結婚してください」
「こちらこそ、お願いします」
あのやり取り。
あの時間。
全部が、ちゃんと現実として残っている。
「……」
少しだけ体を起こす。
その動きに気づいたのか、みのりがゆっくりと目を開けた。
「……潤一郎くん」
寝起きの、柔らかい声。
それだけで、胸が温かくなる。
「おはようございます」
自然と、言葉が出る。
すると、みのりは少しだけ微笑んで。
「おはよう」
その一言。
たったそれだけなのに、昨日までとは違う響きに感じた。
少しの沈黙。
でも、それは不安なものじゃない。
むしろ――安心できる静けさ。
「……ねえ」
みのりが、ゆっくりとこちらを見る。
「ちゃんと、言っておこうか」
「え?」
「これからのこと」
少しだけ真面目な表情。
でも、その目は優しかった。
「……はい」
自然と背筋が伸びる。
みのりは、ゆっくりと言葉を選びながら話し始める。
「外では、今まで通り」
「他人として」
「ちゃんと距離を守る」
それは変わらない。
守らなければいけない、大事なルール。
「でも」
そこで少しだけ、声のトーンが柔らかくなる。
「家では」
ほんの少しだけ距離を詰める。
「ちゃんと、夫婦でいようね」
その言葉に、胸がじんわりと熱くなる。
「……はい」
強く頷く。
それが、この関係のすべて。
「無理はしない」
「でも、ちゃんと向き合う」
一つ一つ、確認するように言う。
「これから、いろんなことがあると思う」
「楽しいことも、たぶん大変なことも」
少しだけ遠くを見るような視線。
それでも。
「一緒に乗り越えていこう」
まっすぐに、そう言った。
その言葉に、迷いはなかった。
「……はい」
潤一郎も、しっかりと頷く。
「一緒に、頑張ります」
その答えに、みのりは安心したように微笑む。
「うん」
短い返事。
でも、その中にすべてが込められていた。
少しだけ、沈黙。
そして――
自然と、距離が縮まる。
「……最後に」
みのりが、静かに言う。
「ちゃんと、締めよっか」
その意味は、すぐに分かった。
「……はい」
頷く。
お互いに、ゆっくりと顔を近づける。
焦ることはない。
急ぐ必要もない。
ただ、確かめるように。
――そっと、唇が重なる。
優しく。
穏やかに。
でも、その奥には確かな想いがあった。
言葉にしなくても分かる。
これが――“誓い”。
ゆっくりと離れる。
視線が合う。
「……これからも」
みのりが、静かに言う。
「よろしくね」
その言葉に、自然と笑みがこぼれる。
「……こちらこそ」
少しだけ照れながら。
「よろしくお願いします」
そのやり取りが、妙に嬉しかった。
外では他人。
家では夫婦。
誰にも知られない関係。
それでも――
確かにここにある、本物の繋がり。
あの夏の握手会から始まった想いが。
二年の時間を越えて。
今、こうして形になった。
――推しの人気声優と、交際0日婚。
少し不思議で。
でも、どこよりも幸せな物語。
その続きは、これから。
二人で紡いでいく。
終わりじゃない。
ここが――本当の始まり。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。
本作『推しの人気声優と交際0日婚しました』は、
「もし“推し”と本当に結ばれたら――」という、誰もが一度は想像したことのある願いをテーマに描いた作品です。
握手会での一言から始まった想いが、2年の時間を経て“結婚”という形になる。
現実ではなかなかありえない設定ですが、その中でも「好き」という気持ちの積み重ねや、関係が少しずつ深まっていく過程を大切にしました。
潤一郎のまっすぐな想いと、みのりの少し大人で優しい受け止め方。
“外では他人、家では夫婦”という特殊な関係の中で、二人がゆっくりと距離を縮めていく姿を楽しんでいただけたなら嬉しいです。
また、本作はあくまで“始まりの物語”です。
結婚して終わりではなく、ここからが本当のスタート。
・バレそうになるスリル
・仕事と夫婦の両立
・すれ違いや成長
――まだまだ描ける物語はたくさんあります。
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最後になりますが、
この物語に出会ってくださったすべての方へ、心からの感謝を。
それではまた、次の話でお会いできることを願って。
ありがとうございました。




