第9話「改めてのプロポーズ――もう一度、本当の意味で夫婦になる夜」
風呂上がり。
まだ少し火照った体のまま、二人はリビングへ戻る。
沈黙。
でも、それは気まずいものじゃない。
どこか落ち着かない、けれど心地いい静けさ。
「……」
みのりが、ゆっくりとソファに腰を下ろす。
そのまま、視線が合う。
言葉が出ない。
さっきまでの距離が、あまりにも近すぎて。
今さら何を話せばいいのか分からなかった。
「……潤一郎くん」
「はい」
名前を呼ばれるだけで、緊張が走る。
「こっち来て」
静かに言われて、素直に歩み寄る。
すぐ隣に座る。
距離が近い。
さっきまでと同じはずなのに、意識すると全く違う。
「……今日さ」
みのりが、少しだけ視線を落とす。
「ちゃんと、分かった気がする」
「え?」
「私たちのこと」
ゆっくりとした言葉。
一つ一つ、確かめるように続ける。
「勢いで始まったけど」
「ちゃんと、夫婦なんだなって」
その言葉に、胸が締めつけられる。
「……はい」
それしか言えなかった。
でも、それで十分だった。
少しの沈黙。
そのあと、みのりがふっと笑う。
「だからね」
ゆっくりと、顔を上げる。
まっすぐな視線。
「もう一回、ちゃんと聞きたい」
その意味は、すぐに分かった。
心臓が強く鳴る。
でも――逃げる理由なんてない。
「……分かりました」
立ち上がる。
そして、向き合う。
ほんの少しだけ距離を取って。
深く息を吸う。
「俺は」
言葉が、自然と出てくる。
「みのりさんのことが好きです」
あの夏から、ずっと。
「全部含めて、好きです」
出会いも、時間も、今この瞬間も。
「これからも、一緒にいたいです」
迷いはなかった。
「……結婚してください」
二度目の言葉。
でも――今度は、もっと確かな想いで。
静かな時間。
みのりは、じっとこちらを見つめていた。
そして。
ゆっくりと、微笑む。
「……うん」
小さく、でもはっきりと。
「こちらこそ、お願いします」
その一言で、胸の奥が一気に熱くなる。
今度は、“本当の意味で”受け入れてくれた気がした。
自然と距離が縮まる。
言葉はいらなかった。
ただ、確かめるように。
潤一郎は、そっと手を伸ばす。
みのりの頬に触れる。
少しだけ驚いたように目を見開く彼女。
でも、拒むことはなかった。
「……好きです」
もう一度、伝える。
そして――
ゆっくりと、唇を重ねる。
優しく、でも確かに想いを込めて。
一度だけじゃ終わらない。
離れて、また触れる。
言葉にできない気持ちを、そのまま伝えるように。
時間がゆっくりと流れていく。
やがて、少しだけ離れる。
息が混ざる距離。
「……潤一郎くん」
少しだけ照れた声。
「はい」
「今の、ずるい」
小さく笑う。
でもその表情は、どこか嬉しそうだった。
「……でも、嫌じゃないです」
素直に答える。
すると、みのりは少しだけ目を細めて。
「知ってる」
優しく、そう言った。
そのまま。
自然な流れで、ベッドへ向かう。
隣に座る。
そして、横になる。
距離は、もうほとんどない。
「……これで、ちゃんとだね」
みのりが、静かに言う。
「はい」
「夫婦として」
その言葉に、強く頷く。
あの日の告白とは違う。
今のこれは――
確かな関係としての約束。
「……これからも」
「よろしくお願いします」
二人の声が重なる。
静かな夜。
その中で――
本当の意味で、二人は“夫婦”になった。
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