9 食堂にて
現在、ホロイ基フィリアはカラシンを中心とした調査団の多大なる助力の元、偽名を使用して王都の兵士養成学校へ通っている。 彼の正体を知っているのは、国の上層部とカラシンミリーナゴトーなど、一件に関わった者のみだ。
カラシンが王都へ戻ってきた理由はフィリアと会う為だけでは無い。
真の目的は、『竜の繭』に関する重要な報告会に出席する事だった。
孵化した繭の中身の正体を突き止める事はそのまま人類の存続と繋がる可能性がある為、解決まで最優先事項とされている。
今回は調査団の中でも特に隠密行動や諜報に秀でた、企が重大な事象を確認したとして全世界への公表よりも先に国のトップや各隊の隊長達を緊急招集する事になった。
主な報告内容としては二点。
一点目、「ホロイと呼ばれる少年について」
・当該少年は『繭の孵化』と近い時期に世界樹付近のトピ川沿いの村に現れている
・村に現れる以前の少年についての記録や戸籍情報などが一切無く、また当人も自らの境遇について知らないと述べている
・変異暴走時、周囲に人的、物的な被害は出なかった
・変異暴走時の外見は通常時の人間の面影は一切無く、黒い爛れた翼のような物を持つ化け物
二点目、「モンスター・怪物について」
・世界樹周辺より大量に繁殖し世界各地に生息する、他の生物学的な理を逸脱する異様な生命体
・その生物達の大半は、御伽噺や童話に出てくる怪物のよう
・生物は火を噴き、氷を生成し、風を操り、地面を隆起させたりなど、異様な力を持つ
・竜樹(世界樹の別名)から、生物達を一時的に『竜種』と名付けられる事が決定した
今まではモンスターや怪物と呼ばれていた竜種は個体差が大きく異なる為、人類や環境に対する有害さなどの材料で判断される討伐優先度によってDからSまでのレーティング化がされる。
このレート区別はあくまでも討伐優先度であり、目標個体の強さの指標では無いことに注意が必要だ。
「お前ら、今日何食うの?」
「生姜焼き」
「僕はシチューかなぁ。」
「またシチュー!?俺お前がシチュー以外食ってるとこ見たことないんだけど!」
トレイをもって学生寮の厨房に並ぶ三人。
「えー、僕昼と朝はいろいろ食べるよ?」
「...あー、そうだな!うん!」
この大食堂は千人を超える全校生徒や職員全員の他、会員登録した一般人も一度に利用できる席数が用意されており、昼休みや夕食時にはかなりの人が行き交う。
個室などもあり、そこは主に貴族や御客、教職員などが利用している。
また、メニューも豊富で、一年違うものを食べても制覇が出来ないそうだ。
そんな大食堂の厨房はなんとただ一人の料理人の手によって回されており、その料理人の姿を見た学生は一人もいない。
とある勇敢な学生が厨房から料理を提供する小出しをそっと開けてみると、中には天国への扉が開かれていたとか、地獄への門があったとか...
この学校の七不思議の1つだが、そんな話はまた今度。
「んめー!!」
夕食、満員とまでは行かないものの空き席を探さなければ行けない程度には賑わう大食堂。
カチャカチャと食器と皿がぶつかる音が沢山聞こえる。
「ステーキ、手羽先、唐揚げにトンカツ...お前も肉しか食ってねえじゃねえか」
元気な赤髪の青年の名はガル・ヴァイツ、黒髪の高身長、凛々しい顔立ちの青年の名はルーフ・サロッタ。
フィリアと寮で同部屋になり、それ以降いつも三人でつるんでいる。
「肉食って体力つけねーと!ほら、フィリアもこれ食っていいぜ!お前なんかもっと太って筋肉つけねえと、女の子に見間違われるぜ?」
「え!あー、そうだね!頂きまーす!」
ホワイトシチューにガルから貰ったトンカツを突っ込んでかき混ぜるフィリア。衣が剥がれて白い水面にまばらに浮かぶ。
「ギャー!!お前何やってんだこのバカーッ!!トンカツはサクサクに限んだろうがーっ!!」
「はぁ...うっせぇ...でもフィリア悪ぃ、トンカツシチューは流石にねぇわ...」
「ん、でもちょっとカリカリ残ってておいひーよ?ふはももほもほはひっえるひ」
「なぬっ?ちょっと寄越せ...むっ!?いあいにんまひ...!」
「...あひまは」
新食感に三人が心躍らせていると、一席空いたフィリアの隣にドカッと男が座った。
「やあやあ三人衆。今日も貧相な夕食は如何かな?そんな栄養バランスも考えてない些末な料理を食べてたらいつまで経ってもボクみたいに優秀な兵士になれないよ?はーっはっは!」
その男が高笑いすると、いつの間にか後ろにいた数人の取り巻きが合わせて3人を取り囲んでニヤニヤと笑う。
「全くだ。ガルもフィリアも、バカみたいに好きなもんばっか食ってなんにも栄養のことなんか考えられてねぇ」
「なにぃっ!?肉食ってりゃ筋肉つくだろ!?」
「そういうのをバカって呼ぶんだよ、バーカ」
「てんめぇ、それじゃまた部屋戻ったら三人で腕相撲トーナメントな!優勝者が下の二人に奢りっ!」
「何言ってんだこのバカ、なんで優勝したやつが負けたヤツに払わなきゃなんねえんだよ」
「あ?優勝したら嬉しいんだから下の二人に労いの気持ちぐらい出すべきだろうが!あとお前さっきからバカバカ言い過ぎな!」
「俺らがフィリアに腕相撲で勝てた試し無いだろうがバカ」
「今度は絶対勝ぁーつ!!お前こそ、負けたまんまでいいのかよ?おめーの騎士道そんなもんかぁ?!あぁ?!」
「ハァ...?...やってやるよコラ...」
二人の瞳に熱い闘志が燃える。
その炎の矛先は、何故か喧嘩に参加していないフィリアへ向いていた。
額と額をぶつけ合わせ、目と目の間で小さな稲妻が飛び交う。
「ちょと待てーい!!貴様らァ!ボクを無視するとか?!中々いい度胸じゃあないか!」
「ぐぬぬ...あ、お前そういえば居たな。どした?席無かったか?」
「あぁん...?あ、栄養バランス、教えてくれてありがとな。もう行っていいぜ」
通行を促すハンドサインを送るルーフ。
適当にあしらわれることに慣れていないこの男、見て分かるように顔を赤くして頭に血管を浮かべる。
「...ほう...貴様ら、ボクに喧嘩を売っているんだな?このボクに?学年成績トップのボクに?なぁお前ら!ボクがトップだよなぁ!?」
後ろの取り巻きがうんうんと頷く。
「この?おチビに?この?お子ちゃまに?ボクが!?ん?負けるハズ?ぬぁーーーいっ!!」
フィリアの頬をぐにぐにと引っ張る男。
「んんー?...あ、そういえばお前、フィリア来るまで学内四位とか五位とかに居た貴族のボンボンか!あーそっかそっか、成績優秀者の張り紙に名前書かれるの、五位までだもんな!六位とかに落ちたのか?名前は確か...えーと...」
無言で机の向こうからルーフに肩を優しく叩かれる男。
「ダンテ・サローニ・サウスポールだ!!忘れたとは言わせんぞこのガキッ!裏口入学で特別訓練兵などという称号を得るだけでは飽き足らず、不正行為で学内TOP5の称号までもボクから奪おうとは...!」
「わかるぜ、最初は俺達もデタラメ言ってんのかと思ってた。コイツと一緒に生活するまではな...」
「あはは...あ、そうだ!それじゃ、ダンテ君とか後ろの人たちもこの後僕らの部屋来て、皆で腕相撲する?」
先程から嫌がられるオーラをこの3人に思いっきりぶつけていたのに、いなされるどころか何故か遊びに誘われてしまった。
「はっ!?貴様ら...ボクがそんな幼稚な遊びに...うーん...うん...そこまで言うならしょうが無い、受けて立とう!おチビを泣かしてから気持ちよく寝てやるとしよう!はーっはっは!」
「ダンテ様、初めて遊びに誘われて嬉しそうだな」
「ああ...俺達にはあんな顔見せてくれないのに」
「貴様らは何を後ろでくっちゃべってるんだ!...ほら、早くおチビ達のチンケな部屋へ案内したまえ!」
「待て待て、まだ食い終わってねーし、こんな大人数入らねーよ!」
ガルが口に食べ物を突っ込みながら今日の前腕筋の調子を確かめる。
「ごっそさん、先戻ってようぜフィリア」
「え、でもガルがまだ食べ終わってないよ?」
「待ってられるか、こいつ頼み過ぎだ」
机の上は二人の皿と、五つあるうち一つしか食べ終わっていないガルの茶色いご飯達で埋まっていた。
「あ!!待てっ!!おい!おまえあもえつあえ!!」
ダンテと取り巻きたちを椅子に座らせ、半分ずつ分けて皿に渡し、みんなの口にご飯を突っ込んでいくアレン。
「むぐっ!!こんな庶民的なモノをボクがどうして食べなければ...んっ!?この揚げた肉...サクサク、ジュワッと染み出してくる油...衣か、なんと心地良い食べ心地...しょうがない...おい貴様、今のをもう一口食べてやらん事も...」
「ん?トンカツか!?もうやらねーよ!俺んだ!」
「んなぁーっ!?貴様ぁぁ!!ボクの物はボクの物、貴様の物は...ボクのだぞっ!!!」
「ややこしんだよテメェ」




